第百二話 父上
【注意事項】
本作品には自殺や精神的に重いテーマが含まれています。
読む際にはご自身の心身の状態を十分にご考慮ください。
心の不調を感じた場合は、無理に読み進めず、専門機関や信頼できる人に相談されることをおすすめします。
※この作品はフィクションです。登場人物・団体・事件はすべて架空であり、現実の自殺や暴力を肯定・助長する意図はありません。
父は窓の外へ目を向ける。
「でも良いじゃないか、蒼月は死んだ。」
「俺は生き残った。」
「この世界じゃ、それだけで勝ちなんだ。」
「そうだろ?」
父は窓の外を見つめたまま、低く笑った。
「もう誰も守ってはくれない」
「だったら、守られる側でいるのはやめだ」
「今度は俺たちが裁く側になる」
紫紅兄さんも、紅石兄さんも、父を見つめたまま何も言わなかった。
だけど僕だけは違った。
父は確かに変わってしまった。
それでも――
誰も守れなかった後悔だけは、本物だった。
あの日の僕には、その背中が希望に見えた。
「分かっていないな」
父さんは静かに笑った。
「奴らは私利私欲のために法を利用する。だが、俺たちは違う」
父さんは僕たち一人ひとりを見渡す。
「正直者が馬鹿を見ない世界を作る。そのために悪を根絶する。それが、私たち自警団《左衛門》の理念だ」
部屋は静まり返っていた。
「今は理解できなくてもいい」
父さんはゆっくりと言葉を続ける。
「だが、お前たちこそは、いつか必ず分かる日が来る。俺は、それを信じている」
そう言って視線を落とし、小さく呟いた。
「……これ以上、身内を殺させたくない」
「……これ以上、身内を殺させないでくれ」
その言葉だけは、本心なのだと思った。
それから僕たちは、父さんたちと生活することになった。
父さんは悪人と判断した者たちへ"制裁"を加えていった。
正直、最初は戸惑った。
だが、父さんが調べ上げた証拠を見るうちに、僕も次第に考えが変わっていった。
警察が動かない。
裁判でも裁けない。
父さんが見せてくれた資料には、暴行事件を起こしながら証拠不十分で釈放された男の記録があった。
「また同じことを繰り返す」
父さんは静かに言った。
「それでも法は止められない」
そんな相手ばかりだった。
「だったら、誰が止めるんだ」
いつしか僕は、父さんの言葉に共感するようになっていた。
だが、兄さんたちは違った。
紫紅兄さんも、紅石兄さんも、父さんのやり方だけは認めようとしなかった。
制裁にも協力しない。
集会にも顔を出さない。
何度説得しても、首を縦には振らなかった。
ある日、そのことを父さんへ話した。
父さんは黙って聞いていた。
そして翌日には、兄さんたちは部屋へ隔離された。
部屋の外には、自警団の見張り役が二十四時間立つようになった。
外へ出ることも許されない。
反抗すれば押さえつけられた。
次第に紫紅兄さんは抵抗しなくなり、紅石兄さんも口数が減っていった。
賛同する者もいれば、反発する者もいた。
反発した者は消えて、それ以上父さんへ逆らう者はいなくなった。
昨日まで一緒に食事をしていた人が、翌朝にはいなくなっていた。
僕は少し寂しかった。
それでも、父さんには父さんなりの理由があるのだと信じていた。
「辰緑行くぞ、次の制裁を加えに」
「はい、父さん」
「父上だ」
「……はい、父上」
この頃から父上は度々、床に伏すようになった。
そして、その日は訪れた。
いつもご愛読賜りまして、誠にありがとうございます。
重く深いテーマに向き合いながらも、登場人物たちの物語はなお続いております。
彼らの心の揺れや選択の行く末を、これからも温かく見守っていただけますと幸いに存じます。
一歩ずつ前へ進む姿を、読者の皆様と共に感じられますことを心より願っております。
次回も変わらぬご厚情を賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。
次回もまた、どうぞよろしくお願いいたします。
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次回更新日:8月16日(土)2時から、日付変わるまで二時間おきに投稿予定。(社会情勢によって変動。)
(18時,20時,22時)
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