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第二章 第一巻

第二章 その一


赤ん坊の体はひどく使いにくかった――言うことを聞かない手足、思い通りに動かせない筋肉、眠りと食事への絶え間ない欲求。私は起こったことを理解しようとしたが、意識はたびたびまどろみの中へ落ちていった。


ふたたび目を覚ますと、私は広々とした育児の間に横たわっていた。日本の城を思わせるしつらえだ。低い天井は檜の太い黒ずんだ梁で支えられ、壁には優雅な絵の描かれた襖が嵌め込まれていた――咲き誇る梅と、山の峰の上を舞う鶴の絵である。床は畳に覆われ、編まれた藁の芯に黒い縁が付いていた。部屋の隅には螺鈿細工の施された漆塗りの低い揺りかごが置かれていた――まさにその中に私はいた。


強い空腹と、ひとつのひどく不快な感覚が目を覚まさせた。布団は濡れており、私は落ち着かなく身をよじり、不快感にぴいと鳴いた。


隣には若い女が座っていた。ほとんど少女と言ってよいほどで、面差しは繊細、鼻先は整っている。背は中ほど、ほっそりとした体つきで、腰まで届く淡い蜂蜜色の長い髪。灰緑色の瞳は柔らかな気遣いをたたえ、唇には優しい微笑みが浮かんでいた。身にまとっていたのは凛とした黒いドレスで、その仕立ては彼女の立場をはっきり示していた――伝統的なメイドの装いだ。高い襟、長い袖、飾り気のないきちんとした裁断。襟と袖口に細い白の縁取りがあるほかは装飾はなく、それだけがどこか上品さを添えていた。


「お目覚めになりましたか、坊ちゃま」――その声は温かく、気遣わしげだった。「今、お着替えいたしますね。そのあとで乳母様がいらっしゃいます」


私は思わず凍りついた。彼女の言葉に耳を澄ませながら――この優しさと愛らしさの中に、何か引っかかるものがあったからだ。メイドからは妙な危険の気が漂っていた。あからさまなものではなく、隠された、ひそんだものだ。その鋭い眼差しには職業的な戦士の仕込みが読み取れた。まるで私の動きひとつ、身じろぎひとつをすべて値踏みし、いかなる脅威にも即座に応じられるよう構えているかのように。


さらに警戒心を募らせたのが、彼女の周りに漂うかすかな気配だった。濃密で、脈打つ――夏の炎天、灼けたアスファルトの上に揺れる陽炎に似た気配。そして灰緑色の瞳の奥には、赤い微かな明滅が掠め過ぎる。いつ燃え上がってもおかしくない、くすぶる炭火のように。


それを悟った瞬間、背筋に冷たいものが走った。怯えて硬直した私は、意思のない人形を演じることにした――動かず、意識のあるそぶりを見せず、何が起きているのか、この女がどれほど危険なのかを突き止めるまで。


彼女が私の周りをせわしなく動くあいだも、私は状況の分析を続けていた。転生。異世界。腕のルーン。本来の赤ではなく青く光る瞳。どれも安っぽいファンタジー小説の筋書きのように見えたが、感覚は逆を告げていた。これは現実なのだ。


「できるだけ多くの情報を集めなきゃ」――私は考えた。「ここがどこか、どんな家に生まれたのか、この土地の法や風習。そして何より――マーシャと、アキロと、ヒナタに何が起きたのか。彼らも転生したのか。それとも、あの瓦礫の下に埋もれたままなのか」


メイドは仕事を終えると、そっと私を抱き上げた。


そのとき、扉がノックされた。


「どうぞ」――メイドが言った。


扉が開いた――和紙の透けた障子だ。柔らかく拡散した光が差し込む――と、中ほどの年齢と体つきの女が入ってきた。丸顔で優しげな面差し、長い黒髪、灰色の瞳、そして豊かな胸。彼女は軽くお辞儀をし、敷居のところで立ち止まり、指示を待った。


「乳母です」――メイドが言い、私を新しい女の手に渡した。


乳母は丁重に私を受け取ると、ドレスの襞を整え、胸を露わにして授乳しようとした。


その展開に私は動転した。頭の中を思念が旋回する。「なんだこれ? どういうことだ? 俺が何をした?」そして思い出した。今の私は赤ん坊なのだ。この行為に何の変わったところもない。


状況を判断した私は、心の中でメモした。乳母の胸は大いに素晴らしく、張りがある。だが即座に気づいた。この思考はおかしい。赤ん坊に似合わぬ思考だ。空腹は拷問のように迫っていたが、私は力を込めて胸を手で突き放し、口を開いて不服そうにぴいと鳴いた。


乳母はどうしても私の抵抗を収められなかった。無力な様子でメイドを見やり、言った。


「どうにも手に負えません。赤ん坊にしては異常に力が強くて、傷つけてしまいそうです」


それを聞いたメイドは眉をひそめ、私に身をかがめた。開いた口から吸血鬼の牙を見つけたのだ――彼女はばねのように一気に緊張し、青ざめ、その異質なものから目を離さなかった。


「吸血鬼の牙……が、赤ん坊に?」――彼女は呟いた。まるで目の前のものを信じられないかのように。「ありえません。この年月では生えません。純血の吸血鬼でさえ、最初の牙は二歳になってから。完全なものに至っては二十歳です。もし私の見たものが本物なら……直ちに御主人様と、血族の当主様にお見せしなければ。おふたりがご存知になるべきことです。これは何か大きなものの兆しかもしれない――あるいは逆に、厳重な監視を要する異変の証なのかもしれません」


その怯えと言葉に、私はひどく驚いた。「吸血鬼の牙?……赤ん坊に? つまり俺が?……待て、吸血鬼!? なにを言ってるんだ、バカな!?」だが不思議なことに、言うことを聞かない舌を前歯に触れてみると――本当に、牙に似た歯がある。私はますます驚いた。「いや、本当に歯がある。だが俺は生まれて二日目の赤ん坊だ……。それに吸血鬼?……俺は殺される……確実に殺される……ああ、だからあんなにじろじろ見られていたのか……」


私たちは長い廊下を歩いた。江戸時代の城の趣を色濃く残す廊下だ。壁に沿って黒ずんだ木柱が並び、特徴的な反りを持つ屋根を支えている。床は磨き上げられたオークの広い板で張られ、壁際には漆塗りの低い櫃が並び、龍と波の彫刻で飾られていた。和紙の障子は柔らかく拡散した光を通し、床に影の戯れを作っていた。廊下のくぼみには青銅の香炉が置かれ、細く白檀の香が立ちのぼり、壁には書の掛け軸と、黒漆の鞘に収まった伝統的な日本刀が掛かっていた。


リリン――私の新しい母――は、江戸の伝統に厳密に従ってしつらえられた小さな居間にいた。部屋は竹と菊の絵が描かれた襖と障子で仕切られていた。中央には畳を敷いた低い台――客をもてなす場所――があり、壁の一方に沿って床の間が設けられ、暗い木の背景に書の軸と、桜の枝を生けた小さな花瓶が映えていた。リリンは低い囲炉裏のそばに座り、その脇に柔らかい座布団が敷かれていた。牛革の型押し表紙に羊皮紙の頁を持つ分厚い本に没頭していたのだ。


我々に気づくと、女は本を脇に置いて立ち上がった。その瞳は温もりと慈しみに輝いていた。


「私のかわいい子がお目覚めになったのね」――彼女は両手を差し出し、メイドが私を渡した。「気分はどう?」


言葉で応じることはできなかったが、できる限り意味ありげに彼女を見つめた。リリンは微笑み、私を胸に抱きしめ、部屋の中をゆっくりと歩いてあやし始めた。


「あなたはなんだか特別ね」――彼女は囁いた。「眠っているときでさえ、何かを考えているように見える。あなたの中に、別の誰かの魂が宿っているみたい……」


その言葉に、再び背筋を冷たいものが走った。まさか感づかれているのか?


そのとき扉が開かれ、部屋にヴェリウスが入ってきた。彼の視線はまっすぐ私たちへ注がれた。


「具合はどうだ?」――父が近づきながら尋ねた。


「順調よ」――とリリン。「起きて、生き生きとしているわ」


ヴェリウスは私の上に身をかがめ、顔を見つめた。その瞳は一瞬、あの誕生のときのように青い光を放った。


「ルーンはまだ見える」――彼は言った。「薄れてはいるが、はっきりと。そして目……いまだに時折瞬いている。これはただの個性ではない。彼の中に何かがある。私にも説明のつかない何かが」


リリンは息をついた。


「女神の賜物か、先祖の遺産かしら。私たちにできるのは、待って見守ることだけよ」


「見守る」――ヴェリウスが繰り返した。「そして守る。彼の特異さを誰かに知られれば、望まぬ注目を招くかもしれない」


私は内心で総毛立った。つまり、私の特異さはただの変わった特徴ではなく、潜在的な脅威なのだ。もっと慎重にならねば。


「私たちが守り抜くわ」――リリンが断言した。「何があろうと」


ヴェリウスは頷き、私の頬に触れようと手を伸ばした。その指が肌に触れた瞬間、微かなエネルギーの波動を感じた。私の中の何かがこの接触に呼応した――見えないほど小さな温もりが体の中に広がった。


父は驚いて眉を上げた。


「反応している」――彼は低く言った。「繋がりを感じているんだ」


リリンは微笑んだ。


「当然よ。あなたの子なのだから」


私は目を閉じ、聞いたことを消化しようとした。繋がり。エネルギー。これらは今、私の人生の一部なのだ。この世界で生き延び、そしていつか――広島の慰霊碑の傍ら、崩れ落ちた建物の中に置き去りにしてきた者たちのもとへ――帰りたいのなら、この力を操れるようにならなければならない。


だがまずは――成長すること。歩くこと、話すこと、この世界を理解すること。そして何より、早まって正体を明かさぬこと。


脇で乳母のそばに立っていたメイドが咳払いをして注意を引き、口を開いた。


「奥様、旦那様」――その声は抑制が効いていたが、そこには切迫した響きがあった。「若様の授乳に支障が出ております。乳母の乳を受けつけようとせず、赤ん坊にしては異常な力で抵抗いたします。その最中に怪我をさせやしないかと案じております」


リリンはわずかに眉をひそめ、ヴェリウスはメイドを凝視して続きを待った。彼女は短く息を吸い、声を落として続けた。


「それと、もうひとつ……きわめて異例なことが。あやそうとしたとき、見てしまいました……吸血鬼の牙が。赤ん坊なのに。こんな話が如何にありえないように響くかは重々承知していますが、この目で見たのです。純血の吸血鬼ですら、この年月では牙は生えません。最初の牙は二歳から、完全なものは二十歳からです」


ヴェリウスとリリンは緊張した眼差しを交わした。メイドは続けた。


「さらに申せば、旦那様のご父君はかねて仰っておられました。若様の成長にいかなる奇妙さを見つけても、直ちに申し上げるように、と。今般の事柄を踏まえますれば、この特異な徴候をお伝えすべきかと存じます。おそらくご父君は、この先どう振る舞うべきか、そしていかに安全にこの子に乳を飲ませるかを、お示しになるでしょう」


ヴェリウスは一瞬考え込み、それから断固として言った。


「わかった。三人とも私について来い。行き先は当主の私設の修行場だ。本塔の最上階にあることは知っての通りだが、今刻なら父上はいつも修練の瞑想を行っておられる。間違いなくお一人で、しかも余計な目のないところで御会いできるはずだ。そこで事態を話し合い、次に何をなすべきか決めよう」


リリンは頷いた。その顔には切迫と決意が入り混じっていた。彼女は赤ん坊をそっと胸に抱きしめた。


「ええ」――彼女は静かに言った。「それが最善でしょう。参りましょう」


メイドと乳母は頭を垂れて同意を示し、一行は客間を出た。居心地の良いしつらえを後にし、血族の当主との重大な話へ向かって。


一行は黙って廊下を進んだ――先頭にはヴェリウス、その後に抱かれた赤ん坊とともにリリン、続いてメイドと乳母。簡素な木の欄干を備えた広い階段が上層へと続いていた。磨き上げられた黒ずんだ木の段は、足元でかすかにきしみ、階段の踊り場に沿って、半透明の紙を嵌め込んだ障子の引き戸が連なっていた。紙灯籠の柔らかな光がその隙間から漏れ出ている。


一歩ごとに張り詰めた空気が増していった。リリンは見えぬ脅威から守ろうとするかのように、赤ん坊をきつく抱きしめ、メイドと乳母は沈黙を破る勇気もなく互いに目配せをした。ヴェリウスは確とした足取りで歩んでいたが、胸の内は不安に押されていた。父上は何と言うのか。この途方もない知らせに、どう反応するのか。


ついに一行は本塔の最上階にたどり着いた。菊の意匠をあしらった真鍮の飾り金具の付いた、漆塗りの重厚な引き戸の前には、伝統的な武具を身にまとった二人の護衛が立っていた。ヴェリウスを見とめるや、彼らは背を伸ばし、そろって頭を垂れた。


「ヴェリウス様」――そのうちの一人が言った。「当主様はただいまお一人です。御用中であろうとそうでなかろうと、いついかなる時でも、滞りなくお通しするようにと仰せつかっております」


ヴェリウスは抑えた仕草で頷いたが、胸の内では喜びが弾けた。七男である彼が、父からこれほどの厚遇を受けることは稀だった――通常なら事前の調整と長い待ち時間が要るのだ。「これは好意的な兆しだ」と彼は心の中で書き留め、合図で連れに続くよう促した。


扉は滑るようにして横に開き、一行は塔の頂に広がる大広間に入った。その間は展望台のようにしつらえてあった。彫刻の施された梁の張り巡らされた低い木の天井、床には畳、壁に沿って生け花と書の軸を納めた床の間。広間の中央には、欄干付きの露台へと通じる襖の引き戸を備えた幅広い開口部があった。


展望台では、ほのかに吹く海風に囲まれて、当主が座っていた。彼は低い漆塗りの小卓の前に座布団を敷いて身を落ち着けていた。卓の上には薄手の磁器の碗、急須、そして炭火の炉の上に据えられた鋳鉄の器――そこから細い煙が立ちのぼっていた。彼の眼前には、足元に広がる大規模な港町が望まれた。波止場、帆船の檣、せわしない路地裏。そのさらに先には、夕陽の光を浴びて紅に輝く果てしない海。


足音に気づいた当主は振り返った。余計な挨拶を交わすことなく、入ってきた者たちを注意深い眼差しで一瞥し、短く尋ねた。


「何があった」


ヴェリウスは一歩進み出て、事の次第を手短に述べた。赤ん坊が乳を拒むこと、その異常な力のこと、そして――あまりに早く生えてしまった吸血鬼の牙のこと。傍らに立ったリリンは、父がその子を見定められるよう、子供を差し出した。


当主は碗を卓に置き、立ち上がると、ゆっくりと歩み寄った。彼は赤ん坊を丹念に観察し、あごを持ち上げて、半開きの口元を調べた。広間には張り詰めた沈黙が下りた――メイドも乳母も、ヴェリウスとリリンさえも、息を殺して身じろぎもせず、宣下を待った。だが子供は、周囲の緊張など感じていないかのように、無邪気に大きな目で当主を見つめ、その着物に捕まろうと両手を伸ばし、笑いそうな様子だった。


当主はゆっくりと身を起こし、言った。


「これは……確かに、常ならぬことだ」


長い時間、当主は黙し、思索に沈んだ。その意識には、古い年代記の断片が駆け巡っていた。子孫から聞いて知る限りの三千年の史のうちで、このようなことはただ四度しか起きていなかった。


最初は六百年前、吸血鬼の最強格の一人――「血月」と異名を取るヴィクターが生まれたときである。彼は群島の二十の島々をことごとく制圧してひとつの国にまとめ上げ、王家の王朝を打ち立て、十七の主要な血族からなる体制を築いた。そのうち四つは、三百年前の戦争で完全に滅びている。


残る二件は四百年前のこと。ヴィクターは高位闇エルフの王家に連なる女との間に、自分よりは弱いとはいえ、同じような力を備えた二人の子を授かった。


そして最後の一件は三百三十年前。始祖は死から救おうとするあまり、生まれたばかりの末子の命と引き換えに、神ロキと契約を交わした――だがロキは吸血鬼の神の姿を騙って彼を欺いたのである。ロキはリリスに擬装し、莫大な量のエーテル結晶の備えと引き換えに、異世界から英雄たちを召喚する禁断の儀を行った。この所業は吸血鬼の神リリスの怒りを買った。ロキが、他の神々の影響圏に介入を禁ずる契を破ったからだ。報復として、リリスは自らの咎を贖わせるべく、隣接する光エルフと人間の国々のいくつかを火と剣に伏させ、服従させ、エーテル結晶の源を管理下に置くようヴィクターに命じた。人とエルフに勝利をもたらしたのは、中庸の神々――ラーとセト――の介入あってのことだった。


当主はゆっくりと座布団に腰を下ろし、手振りでヴェリウスとリリンを近くに招いた。


「その子を傍らに置きなさい」――彼は低く言った。「そして、もう一度、すべてを話すのだ。些細と思われる事柄もひとつ残らず」


リリンは慎重に赤ん坊を畳に下ろした。その子はたちまち腹ばいになり、這おうとして――生まれたばかりの赤子にありえない力のほどを見せつけた。


ヴェリウスは話を最初からやり直し、一つも聞き漏らすまいと努めた。


当主は黙って聞き、ただ折に触れて頷いた。ヴェリウスが語り終えると、当主は長いあいだ、遊び戯れる赤ん坊を見つめていた。


長い沈黙の後、当主は静かな声で言った。


「慎重に動く必要がある。まず第一に――子供と、その側にいる者たちの安全を固めよ。ヴェリウス、この子の置かれる部屋に信頼できる警護を付けろ。交代で当番に付け、そして誰もが心得ておけ――いかなる異常が現れても、直ちに私本人へ報告せよ、とな」


ヴェリウスは頭を垂れた。


「仰せの通りに、父上」


リリンは不安を抑えかねて一歩踏み出し、静かに尋ねた。


「お義父様……ですが、この子に何をお飲み頂けばいいのでしょう。差し出したものはすべてお拒みになられます」


当主は息をついて答えた。


「私もそれを知りたい。このことはもっと心当たりのある者たちに任せるべきことだったのだが……」――そう言うと彼は乳母に鋭い視線を向けた。乳母は思わず目を伏せ、彼と視線を合わせまいと努めた。


乳母は深々と頭を垂れ、静かに言った。


「御屋形様、授乳用の細口の器がございます……ですが、これはさほど安全ではございません。この子が喉を詰まらせる恐れがあります」――彼女は勇気を振り絞るべく一瞬言葉を切ってから、おずおずと囁いた。「それに……すでに牙がお生えになったのですから……血をお試しになっては、と」


広間に張り詰めた沈黙が下りた。ヴェリウスは思わず一歩退き、リリンは青ざめ、当主は乳母を凝視して凍りついた。


「血を?」――彼はゆっくりと繰り返した。「生まれたばかりの子に血を飲ませよと、そなたは言うのか」


「ほんのわずかでございます、御屋形様」――乳母はかすかに聞こえる声で答えた。「空腹を鎮め、そして……確かめるためです。この子の口に合うかどうかを」


その頃、彼らが言い争うなかで、私の頭の内を思念と感覚の渦が駆け巡っていた。


「腹が減って、仕方ない……それに、飲みたい。空腹と渇きが秒ごとに募っていく――もはやただの空腹や渇きではなく、もっと別のもの。内側から蚀むような……いや、侵食するような何か。


体が痛い。とりわけ歯が――奇妙な律動に合わせて脈打つかのよう。耳の中で鳴り響くのは、はるか遠くで波が岩に打ち付けるような音で、その響きが思念の混乱をいっそう深める。目の前に赤い翳が降りてくる――濃くなったり、少しだけ薄れたりするが、決して去らない。


何をくれるのか、もう構わない。乳でも、血でも。違いなどない。ただ、それが終わってくれればいい――あの力を吸い尽くす、耐えがたい空虚の感覚が。もう集中できない。思念は怯えた鼠のように四散し、現実との繋がりを失わないよう、かろうじてそれを押さえている。


ふと、頭の中にひとつの想念が浮かんだ。


血。


私は固まった。なぜ血なのか。だが恐怖や嫌悪の代わりに感じたのは……興味だった。それはどんな味なのか。もはや空腹とは呼べない、ある種の原初的な衝動――あれを満たすことはできるのか。


この想念が奇妙にも恐ろしくも思えないことに、私は驚いた。むしろ逆――それは正しく、自然なものとして感じられた。とうに忘れ去った何かの記憶であるかのように。


血を飲ませてくれたら、すべてが収まるのかもしれない――意識の中を掠めていく。「あの痛みが引いて、耳鳴りが静まり、目の前の翳が消えるのかもしれない」


当主はしばし沈黙し、それから視線を赤ん坊に移した。その瞳に決意が過ぎった――硬く、揺るぎない。


「よかろう」――彼はようやく口を開いた。「試してみよう。わしが自ら、この子に血を飲ませる」


ヴェリウスは思わず歩み出し、顔は不安に歪んだ。


「父上、それは……それはあまりに危険です!」


真っ青になったリリンが続けた。


「御屋形様、どうかお止めください! 何かが間違えば、どうなるか……」


乳母とメイドは目を伏せて傍らへ退いたが、その眼差しには劣らぬ憂慮が張り付いていた。


当主は手を挙げて、その異論を断ち切った。声は鋭く、威厳に満ちていた。


「もうよい。そなたたちは身の程を忘れているか。乳飲み子の何がわしに敵うというのだ。血がこの子の助けになる望みがわずかでもあるなら、わしは賭ける覚悟がある」


ヴェリウスは拳を握りしめた。公然と反論する勇気はなかったが、それでも言わずにはいられなかった。


「ですが、父上……自らの血を飲ませることは、至高の栄誉ではありませんか。この二百年間、あなたの子供たちの誰ひとり――嫡男であり世継ぎでさえも――この待遇に浴したことはないのです。そして私は……私はただの七男にすぎません。私の兄弟たちは……これを知れば、怒り狂うでしょう」


「わしの子供たちが何を思おうと、わしは知らん」――当主は断りを入れた。「これはわしの決断であり、議論の余地はない。世継ぎに立てるのは、わしが相応しいと認めた者なら誰であろうとな――長男とは限らぬ。そしてこの子が生き延び、力を示すなら、他の者たちと対等の権利を有することになる。わしの意思に逆らえる者は誰もおらぬ」


ヴェリウスとリリンは目配せしたが、もはや反論する気力は残らなかった。心得ていたのだ。当主がこの声色で語るとき、争っても無駄だと。


彼は赤ん坊に歩み寄り、そっと抱き上げた。その子は何かに気づいたかのように、ぐずるのをやめ、年齢にそぐわぬほど物判りのいい大きな目で祖父を見つめた。当主はその口元へ手の甲の側面を差し出すと、常なら携えている細身の短剣で皮膚を浅く切り、手を幼子の唇へと差し出した。


その子は一瞬、思案するかのように凍りつき――それから小さな両手で祖父の手腕にしがみつくと、その年齢からは想像もつかぬ身の軽さで腕にかみついた。幼子の顔には恍惚の色が浮かんだ。貪るように傷口に唇を吸い付き、まばらではあるが確とした音を立てて呑み込んでいった。


ヴェリウスとリリンは固まり、目を離せなかった。広間には張り詰めた沈黙が下り、それを破るのは赤ん坊が血を飲むかすかな音だけだった。当主は微動だにせず、孫を見つめて立っていた。いくつかの刻の後、彼の肌は灰色の色合いを帯び始め、彼は子供を辛うじて支えたまま、片膝をついて崩れ落ちた。


たちまち、乳児の体を何か不吉なものが包み始めた――濃密で、ほとんど触れられるほどの、凝り固まった空気から織り上げたかのような赤い気配。幼子の瞳は冷たい青い焔に燃え上がり、広間の壁に幽霊めいた反射を投げかけた。


乳母とリリンとヴェリウスは当主のもとへ駆け寄った。メイドは素早く跳び寄るや、支配者の弱り果てた腕から赤ん坊を奪い取り、軽業的な跳躍で修行場の中央まで運び、丁重に畳の上に横たえた。それから彼女は疾風のように引き返し、乳母の傍らに立った――ふたりの女は、子供と当主の間に防衛の構えを取り、事態を固唾して見守った。


その間、リリンとヴェリウスは当主の脇を抱えて、彼が完全に膝から崩れ落ちぬように支えた。彼らを支えながら、ふたりは思わず視線を広間の中央へと投げた――あの赤い気配と青い焔が、乳児の体から放たれ、混ざり合い始め、ひとつに溶け合って、濃厚な紫色を帯びていく場所へ。肉眼でさえ見分けられるほどのエネルギーの波が、子供を起点に輪を描いて広がり、足元の畳を震わせていた。


恐怖と絶望に囚われたリリンは囁いた。


「これが……どういうことなの……」――彼女はわが子のもとへ歩み寄ろうとしたが、当主もヴェリウスも彼女の腕を固く掴んで、あの不可思議な現象に近づくことを許さなかった。


第二章 その二


血を呑み干していたとき、意識の中に瞠目すべき開眼が弾けた――私は神々の蜜の味を知った。かつてこれに似た感覚を与えてくれたものは何一つなかった。ベッドの上で娘たちと交わしたあらゆる情熱的な瞬間さえ、この圧倒的な歓喜の前では色褪せてしまった。


生を迎えた最初の刻から私を苛んできた空腹と痛みは、退き始めた――初めはおずおずと、やがてますます確かになって。まるで陽の光線に煽られる霧のように。それに代わって沸き上がったのは愉悦の感覚だった。体の細胞のひとつひとつが温もりと力に満たされ、筋肉から緊張が消え去り、耳鳴りが静まり、目の前の赤い翳が少しずつ晴れていく。私は現実との繋がりが立ち戻るのを感じていた――音はより鮮やかに、色はより鮮烈に、匂いはより鋭敏に。


だが、この至福は長くは続かなかった。


突如、私の精神に情報の津波が打ち寄せた――強烈で、留まることを知らぬ奔流が、私を頭のてっぺんまで呑み込んだ。意識の内に知識の断片が閃めいた。世界の理、その幾百年にも及ぶ史、古い家々の秘密、魔術の基礎、誰かの記憶――鮮烈で、異質で、恐ろしい。技芸、能力、呪文、遥か遠い土地の地図、忘れ去られた英雄たちの名、万象の理法……すべてがあまりの速さで私の脳に流れ込み、そのほんの一部さえ理解する暇もなかった。


意識を鋭い痛みが貫いた――数千本の針が同時に鬢に突き刺さるかのように。体は折れ、捻じれ、骨は鳴り、筋肉は痙攣に束縛された。私は気づいた。もう祖父の腕の上に横たわってはいない――私は立っている。いや、そうではない――まず四肢で這う形になり、それから急に両足で立ち上がったのだ。


頭を広間の天井に向けて仰のけ、私は肺の底から渾身の絶叫を放った――人間のものとは思えぬ、絶望と苦痛に満ちた叫び。そこには痛みと、恐怖と、打開の望みなきこと、そして何か別のもの――原初的で、古く、とうに忘れ去られたもの――が混じり合っていた。その響きは自ら胸を破って飛び出し、壁を揺らし、足元の畳を震わせた。


叫び果てたとき、痛みは突如として退いた。それに代わって私は感じた――力が文字通り内側から私を引き裂こうとしている。その光が皮下で脈打ち、いつ如何なる時にも爆発しかねない。これはあの、広島での核爆発を描いた私の古い悪夢を不快なほど想起させた。あの同じ目映い閃光、あの同じ、鼓膜を破る轟音……再び繰り返されるのか。これこそ、わが終焉なのか。


頭を巡らせて私は見た――母と、父と、祖父を。そしてその間に――ルーンと魔術的エネルギーの織り合わせで紡がれた、瞬めく結界を。時間が止まったかのように巡りが緩み、響きはぼやけ、周囲の世界は霞み、非現実的なものとなった。


すると、声が聞こえた――嘲りと驕りを帯びた、若い女の声。


「坊や、生きて先に――おまえ以外の誰かと相まみえる可能性があるのなら――わが内にあるエネルギーの一切が光へと変わると思い描くがいい。その光が斜めに上へ昇り、天井を突き破ること。それから、その一切がわが身を去ったとき、高く高く大空で炸裂すること。そう――以前おまえの悪夢の中で見たようにね……」――声は意地の悪い小さな笑いを添えた。


その言葉を一瞬で理解した私は、横へと身を翻し、両腕を斜め上へと突き上げ、思い描いた……


目映い光の柱が天を衝いて駆け上がり、天井を貫いて大空へと突き進んだ。閃光。轟音――すべてが私の悪夢のままに繰り返された。世界は白に呑み込まれ、そして――耳をつんざく沈黙。再び暗闇が訪れた……


広間に重苦しい沈黙が下りた。それを破るのは、空間を満たす魔術的エネルギーのほとんど捉えがたい唸りのみだった。その場の者は誰もが張り詰めた緊張の中で身を凍らせ、来たるべき瞬間に何が訪れるかも知らずにいた。


と、広間の中央、乳児の頭上の紫の焔が倍の勢いで燃え上がった――火柱のごとく宙へと舞い上がり、瞬めく光で室内を照らし出した。空気は震え、体に触れられるほどの振動に満ち、その響きが耳の中で鳴った。


ほんの五分十分ほどのうちに――いや、時間の意味を失った一瞬のうちにかもしれない――乳児は急速な変容を始めた。その小さな体は急速に成長し、おむつは裂けて畳の上に端切れとなって散らばった。仰向けから腹ばいに転がると、彼は四肢で立ち、そして成長を続けたまま、両足で立った。


瞬きのうちに、驚愕の証人たちの眼前には、十、十一歳の少年ほどの背丈の子供が立っていた。彼は異様な角度で頭を反らせ、長く響く叫びを放った――魂の奥底へと突き入れるかのような声。恐怖と、畏れの震えを同時に呼び起こす音だった。


少年の体はもはや紫の気配に包まれてはいなかった。今は黄金の光が彼を包んでいた――柔らかくも強烈な輝き、皮膚の奥から染み出すかのよう。それは心臓の鼓動に合わせて脈打ち、壁と天井に光の斑を投げかけた。その光はただ瞬めくだけでなく――その場の者たちの肌を焼いた。


リリンは思わず身を引いた。子供から放たれるエネルギーに肌が刺すように痛み、感情を抑えかねて彼女は泣き崩れた――眼から涙が迸った。彼女はヴェリウスの腕から身を脱して息子へと駆けようとしたが、彼は彼女を固く抱き留め、一歩たりとも踏み出させなかった。ふたり――ヴェリウスと当主は――恐怖と哀れみと畏怖を入り混じらせながら、目の前の光景を見つめた。目を離すこともなく、変容を遂げた子供を。


同じ頃、乳母とメイドは正気を保ったまま、幾重にも重なる防御の盾を繰り出した。魔術の布が空中で紡がれ、古いルーンの文様をあしらった半透明の障壁を形作った。女たちは構えを取り、いつ如何なる時にも防御を強め、あるいはありうる脅威を跳ね返せるようにした。その顔は青ざめていたが、覚悟を固めていた。なぜなら心得ていたのだ――今このとき何にも増して大事なのは、御主人たちを死から守り抜くことなのだと。


少年は叫び始めたのと同じように突如として黙り、振り返って、その場の者を総ざらった。その眼差しには、童のものとは思えぬ知性が宿っていた。時間が止まったかのように巡りが緩み、動きは粘つくようになり、響きはかすみ、空気は粘稠なシロップのように凝り固まった。


やがて少年はなめらかに身を翻し、両腕を斜め上へと突き上げると、その掌から目映い光の柱が放たれた。天を衝いて駆け上がり、塔の天井を貫いて大空へと突き進んだ。


時間は本来の流れを取り戻し、まさにその瞬間、大空に雷鳴が響き渡り、空気の奔流が塔へと押し寄せた。轟音とともに屋根の残骸が引き千切られ、破片はあらゆる方角へと飛散し、防御の障壁が震えた――あまりのことに乳母とメイドは呻き声を上げ、渾身の力を振り絞ってそれを支えた。


力を使い果たした少年は、意識を失ったまま床へと崩れ落ちた。その肌は灰色の色合いを帯び、息遣いはかろうじて見分けられる程度になった。


一分钟后――いや、一分の後、メイドは慎重に近寄り、脈を確かめ、安堵の色を浮かべて頷いた。


「生きておられる」


リリンは胸に手を当てて、すすり泣いた。


「神々に感謝を……」


当主はわずかに体をふらつかせながら身を起こし、衝撃に打たれた息子ヴェリウスの眼差しを捉えると、断固として言った。


「この子を別棟の客屋へ運べ。堅牢な警護の下に。見たところ、力の貯えの一切を使い果たした様子だ」――彼は言葉を切って、破壊の跡を見渡し、付け加えた。「今日起きたすべてを勘定に入れても、これらは徒労ではなかった。だがこの爆発のために、起きたことの一切を密に保つことはできまい。先に待ち受ける手間は、少なくないだろう」


第二章 パート3。

その頃、同じ時を並行して進んでいた出来事の中で、エレシュキガルは大理石の水盤の縁にゆったりと身を横たえていた。温かな水に全身を包ませ、絹の帳のごとくに。片手には冷えた酒の杯、唇にはかすかな微笑み、思念の内には計算――北の山々の氷のごとく、綿密で冷ややかな計算が。桃のひとかけが口の内で溶けて甘美な余韻を残すが、この楽しみすら、彼女を憂慮の思索から完全に引き離すことはできなかった。


「四、五年……」――水面に揺れる光の斑を見つめながら、彼女は心の中で反芻する。「長すぎる。あまりに不確かだ。そして時は、刻々と減っていく」


苛立ちが氷の手のように心臓を握り締める。彼女の計算は外れたのだ――計画に組み込んでいた十五年の代わりに、残されているのはわずか八年。子供は完全に成長しきれず、彼女の企みに必要な力の一切を手に入れることはできないだろう。これは重大な障害――ほとんど破滅と言ってよい。彼女は無意識に杯を握り締め、細い亀裂が硝子を走った。


「呪われよ……」――エレシュキガルは酒を置いて呟いた。「すべては別の運び方をするはずだったのだ」


だが、新たな計算に沈み込む前に、モルの監視の神器が放つ鋭く、突き刺すような合図が寝室の沈黙を引き裂いた。水盤の上の空気が瞬めき、その中に立体的な映像が広がった。塔の大広間――エネルギーの奔流に破壊され果てた大広間。黄金の光の気配に囲まれた、守りのない子供。そして、彼の周りで時が緩み、その身から力が今まさに離れようとしている瞬間。


エレシュキガルは凍りついた。酒も桃も忘れて。その瞳に燃え上がったのは興奮だった――恐怖でも、慃惜でもなく、純粋で、留まることを知らぬ歓喜。一瞬にして状況を判断し、彼女は思念によって少年の精神との接続を確立し、必要な指示を伝えた。彼女の驚きと歓喜をよそに――少年は彼女の言ったことを一瞬にしてすべて為し遂げたのだ。そしてあの爆発の光景は、彼女の魂の奥底を揺さぶり、忘れがたい印象を刻み付けた。


エレシュキガルは頭を反らせて笑った――静かに、だがあまりの歓喜に、寝室の壁すら反響で応えているかのようだった。


「見事だ」――床から丁重に抱え上げられ、運び去られていく子供を見つめながら、彼女は囁いた。「ただ、見事だ」


彼女は水から立ち上がった。肌を流れ落ちる雫に目もくれずに。その瞳に灯ったのは、冷ややかで、計算高い炎。


「つまり、こういうこと」――絹の着物をまとうながら、彼女は思索する。「思っていたよりも時は短い。だがそれは問題ではない。それは試練だ。私は彼の成長を速めよう。地を整えよう。教えよう。そして時が来れば、彼は私の剣となる――あるいは私の盟友となる。選ぶのは彼の方だ」


エレシュキガルの眼差しは鋭く、ほとんど捕食者のそれになった。


「さあ、われらの対面の時が来たのだ」――彼女は声に出して言った。その声には約束が響いていた。「もうすぐだ、わが小さき勇者よ。もうすぐだ」


見たものを咀嚼しながら、エレシュキガルは微笑んだ――そしてこの微笑みは、彼女の行く手を阻む者たちに何の吉報ももたらさないだろう。水盤から出ることなく、彼女は手をモルの神器へと伸ばし、その調整を起動して数値を確めながら、対面の仮想の会合の支度を進めた。

今日は。. AIを使用して翻訳を評価します。 原文には若干の誤りがありますが、品質はご容赦ください。 現時点では、翻訳するより良い方法はありません。

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