5.目につく色(ルカス視点)
数日経って、フィークス侯爵家の長男・ラウルが俺の部屋を訪れた。
「大分片付いたみたいだね。」
数日前まで散乱していた部屋は、少しずつ整理したことで、元通りになりつつある。その様子を見たラウルが、プラチナのような銀色の瞳を緩く細める。
「…何の用だよ。」
俺が睨み付けても、ラウルは余裕ある態度を崩さない。
──こいつのこういうところが、苦手だ。
心の中でそう呟いていると、ラウルが口を開く。
「いや、ただのお届け物だよ。ルカス宛に手紙が届いていたからね。」
「は?俺に手紙?」
まだ他家との交流もない自分に、手紙が届くわけがない。思わず訝し気に睨む。だが、そんなことも気に留めない様子で、ラウルは笑顔で手紙を押し付ける。
「本当だよ。ほら、ルカスの名前が書いてあるだろう?」
そう言って、ラウルは封筒の宛名を指し示す。確かに自分の名前が書いてある。だが──
「何だよ、この字。…てか、封筒も。」
そこに書かれた字は、やたらと丸く、歪だった。とても大人が書いたとは思えない。というか、問題は封筒である。地の色は桃色で、ウサギの絵が添えられている。如何にも、女の子が好みそうなデザインだ。
「アイリス・マーキア嬢…ルカスの婚約者からの手紙だよ。」
「──!」
ラウルの言葉を聞いた途端、固まる。数日前、侯爵夫人が口にしていた気がする。
「こいつが…。何で手紙を送ってくるんだよ。」
封筒に書かれた差出人の名前を、忌々しげに睨み付ける。勝手に決まってしまった政略結婚の相手。知りもしない赤の他人。吐き捨てるような俺の呟きに、ラウルが答える。
「…数日前、お前が絶対に会いたくないと言って、相手からの面会を断っただろう。…きっと、無理強いしないために、手紙を書いたんだと思うよ。…少しでも良いから、読んでみたらどうだ。見ての通り、頑張って書いたみたいだよ。」
言いたいことを言い終えたのか、ラウルは部屋を出た。一人になった自室に静寂が戻る。
「…くだらない。」
吐き捨てるように呟く。そのままゴミ箱へ捨てようとした。──しかし、封筒の桃色が、やけに目につく。まだ慣れない筆跡や封筒から、まだ見ぬ婚約者の幼さが伝わる気がした。
「………ちっ。」
俺は小さく舌打ちすると、机の引き出しの奥に、粗雑に突っ込んだ。




