21.能天気な手紙・下(ルカス視点)
四通目の手紙も、それまで通りの書き方で始まった。
──再啓
もうすっかり夏ですね!お日さまがキラキラしてて、ついニコニコしちゃいます!
ルカスさまは、ニコニコしてますか?ニコニコだとうれしいです!
きょう、わたしは、すっごくいいことがあったんです。いつもどおりハトさんをおいかけて、つかれたときに、ララがお話してくれました。
ルカスさまは、エノテラって知っていますか?夜にだけさくお花なんですって。ララから、エノテラにまつわるお話を読み聞かせしてもらって、わたしはすっごくせつなくなったんです。
「エノテラ…?」
──夜にだけ咲く花…そんなものがあるのか。
初めて知る花の名前。いつもならどうでもいいと思える話なのに。こいつが“切なくなった”というのが気になって、そのまま読み進めた。それは二人の少年と少女の話。再会を果たせぬまま終わる物語。
──確かに、こいつなら“切ない”って、思うのかもしれねぇな。
会ったこともない相手なのに、そう思った。どこまでも純粋で単純な手紙の主が、物語の結末を知った途端、しゅんとする姿が容易に思い浮かぶ。そう思いつつ、再び手紙に視線を落とす。
──二人をむちゅうにさせたエノテラ。エノテラなら、ルカスさまをえがおにしてくれると思って、さがしにいったんです!そうしたら、エノテラがさくばしょを見つけました!おし花にしたので、大切にしてくださいね。
「………は?」
疑問符を浮かべつつ、封筒を見直すと、三通目と同じように厚紙の間に、エノテラと思しき押し花があった。淡いピンク色の花弁は、ふわりとしており、物語の少年と少女が魅了されたのも分かる──だが、夜に咲く花を探しに行ったということは…しかも、花開いた状態で押し花にしたということは…
──こいつ、夜に屋敷を抜け出してやがる…!!
俺は思わず頭を抱えた。単純だと思っていた──思ってはいたが、ここまでとは思わなかった。しかも──
──抜け出した理由…俺なのかよ…!
途端、不思議と罪悪感に苛まれる。“ルカスさまをえがおにしてくれると思って”という無邪気な動機。どうやら例の婚約者は、こちらの想像以上に、子どもらしい。
──伯爵令嬢が夜に屋敷を抜け出すなんて、一大事だろ。てか、こんな子供っぽいやつが、誰にも気づかれずに抜け出して、戻って来れるのか?あぁ、もう訳わかんねぇ…!
俺は、頭をガシガシと掻いた。頭の中を整理できないまま、机上を見る。目に映るのは四通の手紙。それに添えられた下手な絵・歪な刺繍・色とりどりな押し花・夜に咲くエノテラの押し花──どれも裏表のない思いやりのこもったものばかり。
《…けれど、アイリス嬢の気持ちは、無碍にしないでくれ。きっと、手紙に込められたルカスへの想いは、本物だから。》
不意に、ラウルの言葉が頭に響いた。そんな訳ない──そう思っていた。ずっと、否定し続けてきた。けれど、目の前にある手紙と贈り物の数々が、彼女の想いを証明しているような──そんな気がした。
──もし、想いが本物だとしても…どうすればいいんだよ。
分からない。ここまで読み続けたのに。想いを伝え続けられているのに。どう応えればいいか分からない。答えを探すように、辺りを見回すと、窓際からバサバサッと音がした。目を遣れば、手紙を送ってきた伝書鳩が戻ってきている。
──「ルカスさまからのおへんじがほしくて、まいにちハトさんをおいかけています。」
そんな一文が、頭を過った。
「……。」
俺は、机上のペンを見た。そっと、慎重にペンを手に取る。便箋なんて持っていなくて、手近にあった紙を置いて、ペン先を向けた。
ペン先が紙を走る音が、一人きりの部屋に静かに響いた。




