20.能天気な手紙・中(ルカス視点)
俺は、二通目の手紙の封を開けた。
──確か、ハンカチと一緒に送られたやつだよな。
そう思いつつ、俺は手紙に目を通した。
──さいけい
にわのお花のまわりを、ちょうちょがひらひらするひびがつづいています。
ルカスさまは、お元気にしていますか?
わたしは、元気です!ルカスさまからのおへんじがほしくて、まいにちハトさんをおいかけています。おかげで、あしがはやくなってきました!いつかあったら、マシューもさそって、いっしょにおいかけっこしましょうね。
「…いや、何でハトを追いかけてんだよ。」
読んでいるうちに、思っていたことが口をついて出た。
──俺からの返事が欲しくて鳩を追いかけるって…。こいつは、俺が返事をすると思ってるんだな。
しかも、それを疑うことなく。そうでなかったら、“毎日”追いかけるわけがない。しかも、“いつかあったら”と、会う前提で、追いかけっこする話までする始末だ。
──どんだけ単純なんだよ…。…けど。
俺は改めて文面を見る。字が、少し整っている気がする。丸っこい字に変わりはないが、最初の手紙と見比べて、ほんの少しだけ、子供っぽさが薄れている気がする。
──いや、子供っぽい内容ではあるけどな。…てか、何度も書き直した跡がある。書き直した分だけ、少しずつ慣れてきたのか…。俺は、返信してないってのに…バカなやつ…。
そんなことを思いつつ、文面を読み続けると──
──ルカスさまのために、ししゅうをしたんです!おかあさまがおしえてくれたんですよ。わたしのだいすきなうさちゃんです。大切にしてくれると、うれしいです。
そんなメッセージが目に入った。
──俺のため…。
気づけば、引き出しを開いていた。奥にしまったハンカチを手に取る。そこには、以前見た下手なウサギの刺繍がある。
「ふっ…。大好きなうさちゃんねぇ…。」
──道理で、封筒や便箋にもウサギの絵が添えられているわけだ。
手紙には、“なかなかうまくぬえなかったこと”、“よろこんでほしくて、なんどもやりなおしたこと”が綴られている。
──何度もやり直して、これなのかよ…。
俺はブサイクなウサギの刺繍を見る。“何度も書き直した手紙”、“何度もやり直した刺繍”。
──……俺に、そんなに時間をかける価値なんて、ないのにな。
そう思いつつ、俺は三通目の手紙を手に取った。三通目の手紙は、これまでの二通と違って、なぜか固い。中を見ると、厚紙が入っている。
──便箋が折れないようにするためか…?
疑問を浮かべつつ、手紙に目を通す。
──再啓
少しずつ、おにわのお花がちってきました。
ルカスさまは、どんな風にすごしていますか?
わたしは、字を書くのが上手になってきたって、ほめられました!きっと、ルカスさまへお手紙を書いているおかげですね。ありがとうございます!
「…何で、お礼を言うんだよ。」
──俺は、返事すらしてないのに…。
場合によっては、遠回しに責めているようにもとれる言葉。けれど、ここまでの手紙を見てきても分かるように、彼女なりの純粋なお礼なのだろう。
俺は複雑な気持ちを抱えたまま、読み進める。
おはなしはかわりますが、きょうは、おとうとのマシューと、たくさんあそびました。マシューはかわいい、てんしみたいなこです。わたしが、花かんむりのつくりかたをおしえたら、お花をずっとキレイにできるほうほうをおしえてくれたんです!はじめてつくってみましたが、キレイにできて、うれしかったです!ルカスさまにも、春のおすそわけです!よろこんでくれますように。
「…春のおすそわけ?」
一体何のことだと思って、封筒を見直す。封筒の中にあるのは厚紙のみ。手に取って分かったが、どうやら厚紙は二枚だったようだ。そっと厚紙をずらしてみると、薄い花があった。
「…押し花?」
きっと、キレイなものを選んで摘み取ったのだろう。彩豊かな押し花は、どれもキレイなものばかりだ。
“母から教わった刺繍”に、“弟から教わった押し花”。
「……っ。」
媚を売るわけでも、義務感からでもない。手紙の主は、ただただ“日常の中での喜び”を、“家族との思い出”を、俺に伝え続けている。
そう思った途端、不思議と胸が、鈍く痛んだ。彼女の優しさが、手紙越しに伝わってくるようで、思わず手紙を握る手に力が入る。
──これは、気のせいだ。…きっと、そのはずだ。
俺は、胸の痛みを無視して、勢い任せに四通目の手紙の封を切った。




