14.再会を願って(ラッヘ視点)
これまで、セリフごとに一行空けてましたが、空けずにセリフを書いてみました。これまでのお話も、順次書き方を変更していきます!
『いっちゃったね。』
『ね!ひきとめなくていいの?いまなら、まにあうよ!』
「もう暗いからダメだよ。…こっそり抜け出したって言ってたけど、大丈夫かな…。…誰にも見つからないように、帰るの、手助けしてあげて…。」
『『いいよ〜!』』
僕がお願いすると、妖精達が元気に返事して、小さな光を瞬かせながら飛んでいく。妖精達を見送る中、僕の元に残った妖精達がふわふわしながら、口を開く。
『おともだちできてよかったね!にんげんのおともだち、はじめてだよね!』
「う、うん…。」
『ラッヘ、おかおまっかだよ!へんなの!』
「…!」
僕は慌ててフードを深く被る。そんな僕を見て、ますます妖精達がキャラキャラと笑って揶揄ってくる。
──だって、久しぶりに、人と関われた…。
頭に思い浮かぶのは、先ほど出会った少女。茂みから、ぴょこんとしたウサギの耳と、ふわりとした桃色の髪を覗かせながら、こっちをじ──っと見つめていた彼女は、泉に落ちかけた僕を助けてくれた。不審な僕を気味悪がらずに、笑顔で手を差し伸べてくれた。
──それに、初めてバカにされなかった…。
秘密を打ち明けても、バカにされなかったのは初めてだった。どんな人であっても“妖精と話せる”と言った途端、訝しんだり軽く流されたり、信じてはくれなかった。
けれど、彼女はバカにせず、“あなたにとって、妖精さんは大切なお友達なのね”と言ってくれた。その言葉がどれほど嬉しかったか、彼女は分からないだろう。それでも、今まで誰にも秘密を受け入れてもらえなかった僕にとっては、それがとてもとても嬉しくて、つい妖精達のことをたくさん話した。
──今思うと、一方的だったかな。けど、“とっても楽しかった”って、言ってくれたし…。で、でも、僕に、気を遣わせないために、言ってくれたとしたら…?
僕は、彼女との会話を思い出して、サッと青ざめた。僕はいつもこうだ。毎回、自分の言動を振り返っては、後悔して、一人反省会ばかりしている。
『あはは!ラッヘ、あかくなったりあおくなったりしてる!』
『どくキノコみたい!』
「ど、毒キノコ…。」
妖精達の容赦のない言葉に、ますます落ち込む。小さな羽が生えた小人のような妖精達は、愛らしい。けど、時折、こんな風に、グサグサと胸に刺さることを言ってくる。僕がサメザメとしている間も、妖精達は笑顔で言葉を続ける。
『ラッヘはいつもないてばかり!』
『アイリスはずっとニコニコだったのに!』
『ラッヘとは、せいはんたいだよね!』
「……アイリス。」
妖精の口から出た彼女の名前を呟く。優しい色合いの髪と瞳をもつ彼女に、ぴったりの名前だと思った。
「…可愛かったなぁ。」
『ね!かわいかったね〜!』
「…!ううっ…。」
無意識に呟いた自分の言葉に、一気に顔が熱くなる。
──だ、だって、本当にそう思ったんだ…。
水色の瞳をキラキラさせながら、笑顔で相槌を打つアイリスの姿が頭を過ぎる。
──それに比べて、僕は…。
不意に、泉を覗き込む。水面には、月とエノテラの光で、自分の姿が映し出される。暗い色の髪と瞳。妖精達の言う通り、何もかも正反対な自分が、酷く嫌になる。僕は再びフードを深く被った。すると、先ほど彼女の元へ行った妖精達が、目の前にバッと現れた。
『ラッヘ〜!ぶじに、おくりとどけたよ!』
『すっごくたいへんだったの!アイリス、あしおとたてるし、つまずくし、ごまかすの、たいへんだったんだから!』
「…ふふっ、そうだったの?」
『そう!アイリスみたいなこ、なんていうんだっけ?おっこちょこい?』
『なんだっけ、なんだっけ?』
「…おっちょこちょい、かな?」
『『そう!それだ!』』
「ふふっ…。」
先程まで暗い気持ちになっていたのに、妖精達からアイリスの話を聞いて、思わず笑顔になる。
──無事に帰れたのなら、よかった…。
そう思って、僕は立ち上がり、泉を後にしようとした。けれど、すぐ足を止めて、振り返る。
──また、ここで会えるかな?…ううん、きっと、会えるはず。
『『『あえないよ?』』』
無邪気な声が響いた。声に反して、胸を裂くような言葉。驚いて声のした方──妖精達を見つめる。
「…ぇ?」
『だって、そうなるうんめいなの。』
『そういうふうに、きまってるの。』
『しかたないの。』
呆然としながら妖精達の言葉を聞く。僕は思わず、ギュッと袖口を握りしめた。
──アイリスさんと、…もう会えない?
「そんなこと…ないよ。」
『『『なんで?』』』
「…約束…したから。また会おうって…。」
『う〜ん。』
『ラッヘがそうおもうなら、いいんじゃない?』
『そうだね〜。』
キャラキャラと笑う妖精達。少し驚いたけれど、ふわふわと、いつもの自由気ままな妖精達を見て、少しほっとする。
──気のせい、かな?何だか、不思議な感じがしたけど…、いつも通りみたい。……よかった。
袖口から手を離して、胸を撫で下ろす。ふと、月明かりと共に光り輝くエノテラの花々が目に入った。淡く光るそれらは、とても綺麗で、心奪われる。
──確か、このエノテラのために来たって、言ってたよね。
エノテラをそっと手折って、微笑む彼女を思い返す。そんな彼女を真似て、優しく優しく一輪のエノテラを手折った。
『それ、どうするの〜?』
『アイリスもやってたよね。』
『まねっこ〜?』
「そ、その…、持って帰ろうかなって…。」
──アイリスさんと、お友達になった記念に…。
心の内で、そう思いつつ、恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にする。僕はエノテラの花が潰れないように、両手で包み込んだ。
──アイリスさんに、また、会えますように。
エノテラの花に願いを込める。そうして、月明かりが照らす帰り道を、妖精達と共に再び歩き始めた。




