↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
In floreー無彩色の君へ  作者: ちょこまる。
第一章 幼少期編・アイリスの日常

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/28

10.目を離せない人(マシュー視点)

「う〜ん…。ここは、こうかしら…?」


 ぼくの隣で、姉さまが難しい顔をしながら刺繍をしている。かれこれ数時間は経った気がする。針を指先に刺しては、涙目になる姉さまの姿を見る度、内心ヒヤヒヤした。


 ──やっぱり、放っておけないなぁ。


 ぼくの家族は、ハッキリ言って天然だ。中でも、姉さまはトップクラスだ。花を見つければ立ち止まり、動物がいれば話しかけ、思いついたことは、大体その場で試してしまう。

 だから、放っておくと、心配だし、驚かされてばかりだ。けど、のほほんとした姉さまの隣にいると、心が落ち着く。家族が大好きな姉さまは、とりわけ弟のぼくに対して、とても優しい。姉さまは、自分が初めて知ったことや嬉しかったことを、楽しげにぼくに教えてくれる。そんな姉さまとの時間が、ぼくは好きだ。

 けれど、最近は、そんな時間が減ってしまった。まぁ、その原因は分かっている。


 ──ルカス・フォン・フィークス、だよな。


 姉さまの誕生日の時、父さま達から語られた”姉さまの婚約者”。

 あの時、直球過ぎる手紙を書いた姉さまには驚いたけど…、あの日以来、姉さまは頑張っている。メイドのララと大量の本や手紙を読んで学んでいたり、母さまと刺繍の練習をしていたり、伝書鳩を全力で追いかけたり………いや、最後だけは違うな。…兎も角、姉さまなりに努力している姿を、度々見かけてきた。現に、今も刺繍を練習し続けているのだから。


 ──それなのに、例の婚約者は。一度も顔を合わせない上に、手紙の返事を寄越さないとか、…失礼過ぎるだろ。


 ぼくが、まだ見ぬ例の婚約者のことを考えていると…


「…ふぅ。」


 姉さまが、静かに伸びをした。見ると、手元の刺繍が完成している。練習の成果なのか、以前よりも縫い目が丁寧で、上達していることが分かった。

 どんなことにも、直向きな姉さまを、ぼくは尊敬している。けれど、時折、無理をし過ぎていないか、心配になる。ぼくは、姉さまの腕を、ちょんちょんと指でつついた。


「…姉さま。ぼく、がんばって、まったよ?今度こそ、かまってくれる?」


 そう言って、わざと姉さまを上目遣いで見つめる。…正直恥ずかしい。けれど、姉さまはぼくに甘えられるのが好きみたいで、こういう仕草をすると、とても喜ぶ。

 案の定、姉さまは嬉しそうに頷くと、すぐさまぼくの手を引いて、外に連れ出してくれた。


 ──まぁ、これくらいのことで元気になるなら良いか。


 目の前の姉さまは、ぼくとお揃いの花冠を頭に載せながら、たんぽぽの綿毛を、フゥ〜ッと吹いていた。ふわふわな桃色の髪に、サファイアみたいな瞳、白いフリルのワンピース。


 ──こうして見ると、天使みたいな人だなぁ。


 自然と、そう思った。…突飛な言動が目立つけど、それは、どこまでも真っ直ぐな姉さまの好奇心や優しさの表れだと思うから。ぼくは、そんな姉さまの弟で、本当に良かったと思っている。

 姉さまに抱きしめられている時、姉さまの髪と同じ桃色の花が目に入った。ぼくは、その花をそっと手折り、差し出した。


「姉さまにプレゼント。今日、すっごく楽しかった。」

「わぁ、ステキだわ!ありがとう、マシュー!」

 姉さまは、大切そうに花を受け取る。途端、しゅんとしてしまった。予想外の反応に戸惑ってしまう。

「姉さま、どうしたの?」

「…おたんじょうびのときに、マシューがくれたお花、もうかれちゃったの。…どうしたら、かれないのかしら。」


 姉さまが、思い悩んだように俯く。姉さまが、ぼくからの花を大切にしていたことは、ララが教えてくれたから、知っている。それでも枯れてしまったのなら、仕方ないだろうに…


 ──本当にこの人は、放っておけないなぁ。


「…それなら、押し花にしたら、どうかな?」

「…おしばな?」

「うん。お花は、つぶれちゃうけど、すごくキレイなんだよ。…いっしょにやってみる?」

「うん、やりたい!」


 笑顔で頷く姉さまの手を、今度はぼくが引いた。花をいくつか手折ると、二人で屋敷に戻った。花についた汚れを丁寧に取り、花が重ならないように、そっと並べていく。


「おっしぃばな〜おっしぃばなぁ〜♪」


 途中、花を並べながら、姉さまが楽しげに歌う。姉さまが体を揺らすのに合わせて、頭上のクルンとした髪の毛も、ふわりふわりと揺れている。ぼくは隣で、クスクス笑った。近くにいた使用人たちも、口元を震わせながら、静かに自分の仕事を進めている。

 作業が終わった後、姉さまは押し花の様子が気になるようで、花を挟んだ本を、ソワソワと見つめていた。


「…まだ、さわっちゃだめだよ。楽しみに、とっておかなきゃ。」


 ぼくがそう言うと、姉さまは本に伸ばしかけた手をピシッと止めて、アワアワし始めた。


 ──分かりやすい人だなぁ。


 ぼくはクスッと笑いながら、姉さまを見つめた。

 数週間後、完成した押し花を確認した。隣の姉さまは、ぴょんぴょん跳ねて喜んでいた。


「マシューのおかげよ!ありがとう!」


 姉さまは、ひとしきり喜びを分かち合った後、ぼくと押し花を分け合って、嬉しそうに自室へ戻った。ぼくは、手元の花々を見つめた。

 姉さまとぼくの、二人で作った大切な押し花。押し花作りのお陰で、久しぶりに姉さまと楽しい時間を共有できた。最近は、例の婚約者とのやり取りに熱心な様子だったので、余計嬉しかった。


 ──例の婚約者…。これ以上、姉さまに失礼なことをしないといいけど…。


 まだ見ぬ婚約者を思い浮かべながら、ぼくは押し花を大切にしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。