9.ニコニコ!春のおすそわけ!
「ねぇねぇ、姉さま。かまって。」
「うーん、ちょっとまってね。もう少しで終わるから…。」
私に話しかけてくる弟のマシューに、そう応える。もう何度、このやり取りを繰り返しただろう。頬を膨らませるマシューに心を痛めつつ、私は手元の針を進める。
ルカス様へのプレゼントのために刺繍を始めてから、私は授業の合間を縫って、何度も練習を続けていた。
──だって、もう春が終わるのに、ずっとお返事が来ないんだもの。きっと、私の刺繍の腕が、まだまだだったんだわ。でも、それって、まだ伸び代があるってことよね!?もっともーっと頑張らなきゃ!!
私は、以前贈った刺繍入りのハンカチを見たルカス様が、しょんぼりする姿を思い浮かべる。その想像をした途端、益々やる気に火がついた私は、針を進めていく。
それから暫くして、やっと練習用の刺繍を終えた。まだまだお母様のレベルには達していないけれど、少しずつ上手くなっている…ような気がする。私がそう思っていると、マシューがちょんちょんと指でつついてきた。
「…姉さま。ぼく、がんばってまったよ?今度こそ、かまってくれる?」
上目遣いで見つめてくるマシューに、私の胸はキュンとした。
──私の弟、なんて可愛いのかしら!
「もちろんよ!たくさんかまってあげるわ!」
マシューは、本当に可愛い。ふわふわなグレージュ色の髪と、ペリドットのような黄緑色の瞳をキラキラさせながら、上目遣いでお願いしてくる姿は、天使のようで…ついつい甘やかしてしまう。
──今日はずっと待ってくれた分、沢山構ってあげなきゃ!
私はマシューの手を引いて、中庭に連れ出した。タンポポの綿毛をフゥ〜ッと吹いたり、花冠を作ったり、ララに教えてもらった遊びを、目一杯教えた。そして、完成した花冠をマシューの頭に載せる。
「えへへ、にあう?」
「ええ、とーっても、にあってるわ!」
あまりの可愛さに、ギュッと抱きしめると、マシューが一輪の花を差し出してきた。
「姉さまにプレゼント。今日、すっごく楽しかった。」
「わぁ、ステキだわ!ありがとう、マシュー!」
予想外のプレゼントに喜んでいると、とあることを思い出して、しゅんとしてしまう。そんな私を見たマシューが、心配そうに声をかけた。
「姉さま、どうしたの?」
「…おたんじょうびのときに、マシューがくれたお花、もうかれちゃったの。…どうしたら、かれないのかしら。」
花が枯れない方法なんて、あるわけ無いのに、そんなことを考えてしまう。すると、マシューが口を開いた。
「…それなら、押し花にしたら、どうかな?」
「…おしばな?」
「うん。お花は、つぶれちゃうけど、すごくキレイなんだよ。…いっしょにやってみる?」
「うん、やりたい!」
それから私たちは、いくつか綺麗なお花を摘んだ。その花々を、マシューに教えてもらった通りに、厚紙と一緒に、本と本の間に挟んだ。それから数週間後──
「わぁ!とってもキレイだわ!」
マシューと一緒に本をどかすと、摘んだ時の色を保ったお花が、たくさんあった。嬉しさと驚きのあまり、マシューと手を合わせて微笑み合う。
そして、ふと思いついた。
──この押し花、ルカス様にもお裾分けしたいわ!
私は、マシューと押し花を分け合った後、すぐさまお手紙を書き始めた。そうして、押し花がボロボロにならないように厚紙に挟んで、封筒に丁寧に入れた。
「ルカス様、喜んでくれるかな〜。」
私はニコニコしながら呟くと、封筒をそっと抱きしめた。




