第五六話 6日目・ドリオンの塔 ある戦士の死
今晩は。
投稿です。
今回2話分です。
さすがに10号のケーキは大きすぎである。
持ち運びが難しい。
「まぁ、今の俺の財力じゃ3号か」
夜、西区から東区へ向う影が一つ。
隣国の元騎士団副長のガクオンである。
今はクライマーズ49、西区では一気に名が広まり、最早時の人である。
西区にいると、勧誘が激しく落ち着かないので、現在ケーキ片手に東区へ移動中である。
「少し、酔ったかな?」
デテイの勧めで久しぶりの飲酒。デテイやギルドの仲間と呑む酒は楽しくもあり、色々な話が聞けた。
興味を引いたのがクライマーズ48、ユトランがいたパーティーの話しだ。
リーダー以下3名、男性陣はインキュバスの経営するホストクラブに組み込まれたとか。
壁役の戦士はバーテンダーにハマり、もう一人の戦士はホスト№1の座を争っているという。
塔にはもう興味を示さず、今の職業が身に合っていると言っているそうだ。
リーダーは店を抜け出し、行方不明だとか。
まだ塔に未練があるのだろう。
魔法使いの女は、居酒屋で女将に収り大いに稼いでいるそうだ。
こちらも塔に未練はなく、まるで憑き物が落ちたように塔に感心を示さなくなった。
命掛けで塔に登るより、楽しく酒を呑み商売している方がいいとのこと。
収入は比べものにならないくらい激減したが、それは塔で得られるアイテム達が高価過ぎるからだ。
元クライマーズ48のメンバー達、は今の暮らしに満足しているという。
ただし、リーダーは除く、だ。
リーダーはインキュバスの呪縛を解き、塔を目指したという。
「……呪われた塔、人食い魔物の塔……呪縛かぁ……」
あの3人は呪縛が解けたのだろう。
リーダーは塔に取憑かれたまま。
欲しいのは名声か?称賛か?
確かに塔に登り、上へ行くほど全てが豊かになる。
カネも権力も名誉も思いのままだ。知らぬ者でも、無条件で尊敬はしてくれる。
「……まぁ見掛けだけかも知れないが」
ガクオンには戸惑いと、後ろめたさがあった。
自分の実力で登った塔ではない。
多少は役に立ったかも知れないが、ブンドル騎士団のヒーラーが言うには、俺は数回死んでいるらしい。
クライマーズ49はガクオンにとって重すぎるのだ。
逆にデテイはクライマーズ49の名前を気に入っていた。
「大いに利用してやるぜ!」
ギルドマスターとして、クライマーズ49の名は役に立つのだ。
まぁ実際、ブラックキラースパイダーと交戦したのは事実である。
「俺もギルマスくらい図太い神経だったら、よかったのかもな……」
遙か過去を振り返るガクオン。
その元騎士団副長のカンが何かを拾う。
雰囲気がおかしいのだ。
(魔力が……魔力の流れが乱れている?)
「!?」
西区の外れ、血の臭いが漂ってきた。
……キンッ……
……カン!……
微かに聞こえてくる金属音。
ガクオンはそっと、3号ケーキを樹木に隠す。
路地裏を覗くと……クライマーズ48のリーダーがいた。
ザクッ!
斬られたのはユトランを襲っていた連中だ!
「何をっ!」
進み出るガクオン!
「あん?」
虚ろな目でガクオンを捉えるリーダー。
「何をしているっ!クライマーズ48!」
「あ?誰だお前?……ああ、きさまかっ!ユトランを仕留め損ねたクズ!」
「仕留め損ねた?俺は仲裁を頼まれただけだ!お前に雇われた憶えはない!」
「お前らがあいつを確実に殺していたら、こんなことにはならなかった……あのクズが49だとおおおっ!?」
倒れているのは3人。
内一人はまだ息がある。
異様に光る眼がガクオンを捉える。
「お前、おまえぇクライマーズ49だってなぁ?どうだい?気分は?」
その目には嫉妬が宿り、段々と狂気を帯びてくる。
……旦那ぁ……逃げろ……こいつはもう魔物だ……
「魔物なら……尚更逃げるわけにはいかないな」
キンンンッ!
剣を交える二人!
何度か打ち合い、お互いの力量を測る!
(クライマーズ48か、確かにこれは強いな!)
しかしクライマーズ48から舌打ちが漏れる!
「チッ」
明らかに剣技はガクオンが上なのだ!
だが、リーダーも48階の実力がある。
サクッ!
ガクオンの剣が、リーダーの膝を斬る!
「浅いか!」
「グッ!き、きさまっ!次は殺す!確実に殺す!」
そう言って、脚を引きずりながら闇に消えるリーダー。
ガクオンは追わない、怪我人がいるからだ。
「大丈夫か!?」
……ハァハァ……深手です……もう、ダメでしょう…ヒュッ、ヒュッ…ああ、あ、つ、つまらん人生だったなぁ……俺……ヒュッ…どこで……間違えたのかなぁ……
眼から光が消え、男は息を引取った。
「……騎士団か警備隊に連絡するか」
ズッ!
「!?」
深々と刺される剣。
その剣は、背中より侵入し、胸から飛び出す。
「甘いなぁ49、闇斬りって知ってっか?あ、もう聞こえないか?」
剣は軽く引き抜かれ、大量の血液が飛び散る。
「気配を無くす、という意識も無くして相手に忍び寄る暗殺剣技だ。俺はこの技で48階まで皆を導いたんだぜ、すげぇだろ?それもこの技、ヤツラには見せたこともねぇんだ、さらに凄いだろ?……おい!何とか言えよ!お前49なんだろ!」
ザクザクと剣を突き立てるリーダー。
「次はユトラン、きさまだ!俺のパーティー潰しやがって!あのユトランが49だと!ふざけるなっ!」
……おい、あそこだぞ!……
……喧嘩か?……
異変に気づき集まり始める西区の者達。
「……東区に向うか……」
フッと闇に消えるリーダー。
ガクオンはもう動けなかった。
消えゆく意識。
(ああ、俺は詰めが甘い……ケーキ渡したかったな)
彼は最後にそう思った。
そして静かに息を引取る。
戦士が一人、その生涯を終えた。
次回サブタイトルは未定です。
投稿も未定です。




