第八話 幼少期
床に倒れながら眠ってしまった冴太は昔の夢を見た。
冴太邸の庭で走り回って遊ぶ三人の子供がいた。
一人はこの家に住む厳島冴太。
その横を走る少年、速水悠都。
二人の少年を追いかけるように走る少女、夏風涼花。
三人は幼なじみで、毎日のように一緒に遊んでいる。
冴太の家は言わずもがな看板を揚げているが、悠都も道場と言う別の看板を揚げている。
その道場は来るもの拒まず、例え裏社会の関係者だろうが武芸を真剣に取り組むのであれば利用していいとのことなので、たまに家の組員も利用している。
逆に涼花の家はごくごく普通の一般家庭の少女だ。
パパに家で遊ぶのは止せと何度も注意を受けていたが、そこはまだ子供。
自分の家系をまだまだ理解しておらず、人の目を盗み毎回二人を家に招き入れていた。
そんな三人の子供が遊んでいたとき事件が起きた。
木で出来た家の門が罵声と共に勢いよく開いたのだ。
声のする方を見ると、門番の男二人が道路のアスファルトを赤く染め、横に倒れてるのが見えた。
家の門を開けた五人の男の手にはパパの自室で見たことがある刀が握られていた。
罵声で気づいたのか門番が連絡したのかはわからないが、家から続々と組織員が出てくる。
そんな異様な光景に立ち尽くすことしか出来ない三人の子供。
「おい、組長はどこや! 命貰いに来たで。今すぐここに呼べや」
手に持っている刀を肩に叩きつけながら男は言った。
「んだとコラ! 他所の門開けて第一声がそれか! 痛いめ…………」
ここで喋っていた組員の頭を現若頭が勢いよく殴り付けた。
「お前は黙っとれ! それでお前ら組長に何の用ですか。訪問の予定はありませんが」
こんな時だからこそ冷静に対応する若頭。
「予定は今作ったんや。呼ばれへんっちゅ―んなら痛い目見てもらうで」
顎で部下に指示を出し、動き出した四人。
それに合わせてこちらの組員も動き、両者が睨み合い一触即発の状態。この状態を動かしたのは顎で指示を出した男の一声だった。
「やっちまえ――!!」
この一声で、子供には重すぎる光景が当たり一面に広がった。
血が飛び交い、辺りに倒れ伏す男達。
人を殴ったときの鈍い音。
金属同士が擦れる音。
この場から逃げなきゃ行けないと、脳内で警鐘が鳴り響いているが三人は足が竦くんで動けない。
そんな時、組員が殴り付けた男が三人の前に飛んできた。
その倒れてる男と子供達三人の目が合った。
今まで感じたことがない恐怖が三人を襲う。その男は上唇を舌で舐め、不適に笑った。
男が立ち上がりこちらに近付いてくるが冴太は動けない。
男との距離が確実に迫ってき、冴太が目を閉じた時、悠都が近くの棒を広い、足を震わせながら僕たちを守る形で立ったが、所詮は子供の足掻き。男に蹴り飛ばされ盛大に転げ回った。
しかしそれでもなお、悠都は立ち上がろうとしている。
だが、男はもう目の前、冴太は再び強く目を瞑った。
しかし、いくら待てども何も起きない。恐る恐る目を開けると、涼花が男に捕まっていた。
「お前ら――!!この子供がどうなってもいいのか!!」
涼花の頭を掴み、見せつけるように叫んだ。ここぞとばかりに冴太は地面を這いつくばり男との距離を取る。
「はよ、組長は出せや! どうなっても知らんぞ!」
場に五秒、十秒と沈黙が流れた。
「出すつもりは無いようやな。それやったらえ…………」
男は涼花の頭を握っている手を誰かに捕まれ、盛大に殴られた。
「なに人の家で暴れまわっとんのじゃ。この落とし前はきっちり付けてもらうからな」
丁度帰って来た組長が男を後ろから殴り付けたのだ。
先程までが嘘のように辺りは静まり返る。
組長が涼花を助けだし、冴太の元に歩み寄り、冴太を勢いよく殴り付けた。
殴られた理由は言うことを聞かず家で遊んでいたことか、女の子も守れずただただ震えていたからなのか、はたまた両方なのか冴太には分からないまま、その場で意識を失った。
「てめえら! 女、子供一人守れず何しとんのや! 全員歯食い縛ってそこ並べ!」
先の戦闘で伸びた奴も無理やり立たし、一人一人殴っていく組長。
「嬢ちゃん大丈夫やったか? お前らいつまでそこで寝とんのや! はよ、子供の手当てしやんかい! 若頭、お前はこっちへ来い」
そう言って組長は家の中へ消えていった。
悠都、涼花と序でに冴太も家で手当てを受けるのであった。
次の日、軽い雨が降りしきる中、冴太は傘をさし、二人と遊ぶため、いつもの時間に門の前まで来ていた。
流石に雨だから来ないだろうと思いながら五分、十分と傘に当たる雨音を聞きながら二人を待つが、一向に二人が来ない。
「流石に今日は来ないか……」
一時間待ったところで、門を後にした。その表情は、少し悲しくも見えた。
次の日、雲一つない青空の中、冴太は元気よく走り、門まで向かった。今日は何して遊ぼうかな。
おにごっこ
かくれんぼ
色々な遊びを巡らせ、楽しみに待っていたが、いつもの時間になっても二人は現れない。
五分、十分、一時間、二時間。日が傾き出した頃、冴太は俯きながら門を後にした。
次の日も、その次の日も二人は一向に現れない。
今日来なかったらもう待つのはやめよう。
そう思いながらじっと二人を待っていた。
しかし、いつもの時間に二人は現れなかった。
理由の分からない涙を流しながら踵を返し、門を後にする冴太。そんな冴太に門の方から叫び声が聞こえた。
「こ――う――た――!!」
この声で、涙で濡れた顔を服で拭き取り、笑顔で声のする方へ走っていった。
そこには、走ってきたのか、息が上がり、額に汗を浮かべながら立っている悠都がいた。
「悠都! 今まで何してたんだよ。俺、毎日待ってたんだぞ」
今までの不満を一気に爆発させ、悠都に詰め寄る冴太。
「俺、しばらく遊べない…………俺、もっと強くなって……皆を守れるくらい強くなって……だから遊べない」
寂しい表情と、決意の表情を交互に見せ、小さく頼りない手を力いっぱい握り締めた。
その手の平には、豆が出来たり潰れたりを繰り返し、硬い豆がいくつも出来ていた。
「強くならなくてもまたパパが守ってくれる……ょ……だから…………すず……涼花はどうしてるの」
涙を溜め込んだ瞳で悠都をじっと見た。
「毎日涼花の様子を見に行ったけど……部屋から出てこなかった……」俯き、声を殺しながら最後まで言いきった。
「そっか……」
それだけを言い、冴太は家に向かって歩きだした。その後ろ姿を見た悠都は再び固い決意を胸に秘めるのであった。
自室に戻った冴太は、垂れ流しのテレビを見るわけでもなく、ぼーっと空を見ていた。そこに垂れ流しのテレビから興味を引く言葉が聞こえてきた。
「強さを手にいれろ! 仲間を作れ! 強さを求めて立ち上がれ! ドラゴンハンター好評発売中」
画面は見ていない。
ただ、冴太が今欲している物が全て詰め込まれていると直感した。冴太はすぐに動いた。
部屋を飛び出し、長い廊下を走り出した。目的の部屋の前で立ち止まり勢いよく扉を開けた――――
呻き声を上げながら目覚めた冴太は、鈍った体に鞭を打ち立ち上がった。
「あいつら大丈夫か?」
自分が無茶な仕事を振ってしまったことに後悔し、頭を勢いよく搔き毟り部屋を後にした。




