第六話 幼なじみ
自室に戻った冴太は、電池が切れた人形のように床に倒れこんだ。
その様子を見た三人は、自分達が思っている以上に状況は深刻だと悟る。しかし、シャーリーだけはこの勇者の状態に痺れを切らした。
「ちょっと! そんなんじゃ魔王を倒しに行けないでしょ!! シャキッとしなさいよ! それでも勇者なの!?」
今までどれだけ声をかけても反応が無かった冴太が、この言葉に初めて反論してきた。
「あぁ――俺が間違いなく勇者だ。誰にも負けない。しかし、あれがないと魔王に挑むことすら出来ないだろう……」
あれが何なのかがわからない以上、次の言葉が出ない。だが、今の言葉で魔王を倒す事を諦めた訳ではないとわかった。
「わかったわ! あんたはあれの入手に全力を尽くしなさい! その間あんたに降りかかる火の粉は私達が対処してあげるから! それで良いよね? ルベルト、クルル」
突然話を振られたルベルトは取り敢えず流れで頷き、クルルは次の話題に移りたそうに素早く頷いた。
「俺にはどうしようもないけど頑張るよ……」
そう言って冴太は再び床に倒れこんだ。
数秒の沈黙の後、ここぞとばかりにずっと気になっていたことをクルルが冴太に尋ねた。
「冴太? 一つお願いがあるの。コスプレを解除したいけどどうすればいいの?」
反応があるかはわからないが、このコスプレで自分達が浮いている存在だと言う認識は出来ている。
こちらの文化に合わせるためにもコスプレを早く解除したい。
「お前ら服は持ってきてないのか?」
ここでようやく自分達が浮いている原因は装備だと気づいた。
しかし、あの行列に並んでいた人達も同じような装備をしていたのに、なぜ自分達だけなのかはまだわからない。
「急だったからこれしかないの。どうすればいいの」
困った表情ではなく、何か決意のある様な表情で冴太の目を見た。
「あぁ――ってことは金も持ってないんだよな……ちょっと待ってくれ」
そう言った冴太はポケットから何らかの機械を取り出し、喋り出した。
「あ――もしもし、涼花か? ……あぁ…………俺にはさっぱりだからお願いするよ…………お前の分も出してやるから頼んだ」
倒れながら機械と喋り終えた冴太は立ち上がり、ルベルトに声をかけた。
「ルベルトは俺のを貸してやるから付いてこい。シャーリーとクルルはちょっと待ってくれ」
そう言い、自室奥の衣装部屋へ向かう冴太。その後を取り敢えず付いていくルベルト。
二人が部屋に入り、この場で二人になったところでシャーリーがクルルに尋ねた。
「あんた何でそんなに文化に拘るのよ。別にそんなのどうでも良いじゃない」
今までずっと疑問に思っていたが、ルベルトが居る手前、あいつにバカを見せたくない。
自分がバカだとは微塵も思っていないシャーリーだったが、クルルには戦術、知識では遠く及ばない事は悟っている。
クルルがこれだけ拘るには何か理由があると思っているのだ。
「シャーリーはリンゴが食べたいときどうするの」
質問の内容と全く関係ない答えが返ってきたが、クルルの質問に答えることにした。
「そんなの市場でリンゴを買って食べるしかないじゃない。何当たり前な事言ってるのよ」
少し可笑しい人を見る目でクルルを見た。
「リンゴは、欲しいと念じたら出てくるの。何当たり前な事言ってるの。シャーリーは頭が可笑しくなったの」
クルルもシャーリーの目を見て然も当然のように言い返した。両者真剣に目を合わせた後、シャーリーが口を開いた。
「それなら皆に聞いたらいいじゃない! 絶対買って食べるって言うわよ! 念じたら出るとか何バカなこと言ってるのよ!」
シャーリーも向きになり、強めに言い返した。
ここでようやくクルルが肩の力を抜き、いつもの表情では喋り出した。
「当たり前って何なの? ここでは当たり前でも他所では当たり前じゃないの。クルルは思うの。当たり前は文化が作ってるの。これがいい例なの」
そう言いクルルは天井で光っている物を指差した。
「シャーリーは今まで部屋の明かりは何を使ってたの? 当たり前の様に火を使ってたの。暗かったら火を灯す。それは当たり前なの。逆にこっちは何で部屋を照すの? それは多分あれなの。こっちはあれが当たり前で向こうは火が当たり前なの。これは些細なことかも知れないけど、時にはその当たり前で死を招くの……」
最後の方は俯き、少し寂しそうに言いきった。
「この絵を見るの」
絵がある方へ歩いて行き、四隅を固定している物を指指した。
「多分これは針なの。こっちの文化では多分、絵を針で固定するの。もしこっちの人が向こうの文化を知らずに国王の絵に針を刺したらどうなるの。もちろん死罪なの。これでわかったの? こっちに来たからにはこっちの文化に合わせないとどんな理由で死ぬかわからないの」
シャーリーは何も言い返せないまま、沈黙が流れた。
「そう言いことね。わかったわ。あっちの文化を押し付けずにこっちの文化に合わせればいいのね。でも、あのバカは分かてるのかしら」
なぜかルベルトに対抗意識を燃やしているシャーリーだったが、そんな様子を子供の面倒をみる母親の気持ちで眺めるクルルであった。
そんな会話が終わった後、すぐにルベルトが部屋から出てきた。ルベルトは全身を黒い服で染め、ここの屋敷に住んでいる人達と同じ格好をしていた。
「冴太ど……冴太、この服、防御値が低そうだが大丈夫なのか?」
腕を伸ばしたり、背中を見たりこの服の性能を確かめる。
「何言ってんだ。そうそう戦闘にならないから何ら問題ない」
違う組が攻めてくる何て一年に一回あるかないかだ。
攻めてきたとしても、組員がなんとかするだろ。折角出来たパーティーを病院送りにされてたまるか。
「ルベルト案外似合ってるじゃない。ここの人達と同じ文化に染まって言い感じよ」
先ほどの会話で得た知識をここぞとばかりに話していた最中に、部屋の扉が勢いよく開いた。
「おっはー!! 冴太今日はゲームで忙しいんじゃなかったっけ? まっいっか。それでどの子なの? 人のお金で買い物出来るなんて最高よね」
そこには足を広げ、右手を突き出した体勢のまま、満面の笑みでこちらを見ている少女がいた。
涼花の言葉で一瞬忘れていたゲームの事を思いだした冴太は、再び床に倒れこんでしまった。
「ありゃ? 何で急に倒れこむのよ! まーいいや。それでこの二人よね? よろしくね。私は夏風涼花。それじゃー早速いこー!!」
二人の手を取り歩きだそうとした時、再び扉が開き誰かが入ってきた。




