第五話 即日完売
朝、鳥の囀りと共に目を覚ました冴太。
「昨日はそのまま眠ってしまったのか」
辺りを見渡すと、ルベルト、シャーリー、クルルが共に床で眠っていた。
「しかし昨日のシミュレーションは素晴ら……しかっ……た」
冷や汗を流しながら自室の窓のカーテンを勢いよく開けた。
眩しい日の光が部屋一面を照らし皆に朝を告げる。
強烈な日の光で目を開けられなかった冴太だったが徐々に目が慣れていき、目を開けると同時に顔の表情がグラデーションの様に変わっていく。
「爺!! 爺!! くそっ! 爺は何をしている」
爺が居ない理由に、思い当たる節が有りすぎて悪態を付く冴太。この冴太の大声で三人が目を覚ました。
「なんなのよ。うるさいわね! 敵でもきたの?」
シャーリーが眠気眼を擦りながら冴太に悪態を付く。
「あ――、睡魔と言う敵にやられた……」
そう言いながら冴太は乱れた服を整え、三人に指示を出した。
「今から出発する。行くぞ!!」
勢いよく扉を開け部屋を出た冴太。三人は訳がわからないまま後を追った。
外に出たが、車の準備がされていない。先の戦闘で爺は戦闘不能になったのだろう。舌打ちをし、歩いて目的地に向かう。
シャーリーの性格を持ってしても声をかけれない形相。取り敢えず五歩程後ろから付いていく三人。
付いて行く中、ルベルトとシャーリーは辺りをずっとキョロキョロしている。
「この国はなんだ? 見たことのない建造物、歩く人の服装、空を高速で流れる物体。こんな国見たことがない」
ルベルトが動揺と好奇心が要り混ざった表情でポツリと呟いた。
「恥ずかしいから普通に歩くの。転移したから見たことない国で当たり前なの。他所から来た者は転移先の国の文化に合わせるしかないの。はぁ――……」
クルルは知っているのだ。この世界には色々な文明、人種が存在することに。
幼少時代からすでに魔法の才能が開花していたクルルは、すぐに色々な魔法を習得していった。それこそ転移魔法も。
幼少期の好奇心と相まって、転移魔法の転移先を設定せずに色々飛び回って遊んでいた。
重力が無く、何もかもが浮いている都市。
手足が六本ある人種。
さまざまな都市、人種を見て、感じて、経験し、学んだ。今さら建造物やら服装やら空飛ぶ何かに驚かないのだ。
シャーリーもルベルトと同じ考えだったが、クルルにそこまで言われると言い出せない。
普通に歩こうとするがやはり初めての物を目にして好奇心が押さえきれてない。
二人の挙動不審が原因かはわからないが、こちらの世界の人達が必ずこちらを見て通りすぎて行く。
「ママ――あれなに――?」
三歳ぐらいだろうか、母親と歩いている子供の会話が聞こえた。
「あれはコスプレって言うのよ。かわいいわね。さっ! 行きましょ」
親子の微笑ましい会話を聞きながら三人は冴太の後を付いていった。
「はぁ――――」
もう一度クルルは深い溜め息を付き、こちらの文化に合わせるためにコスプレと言うやつを解除しなければならないと思うのであった。
しばらく冴太に付いて歩いていく三人。周囲を歩く人の数が増えていき、この国の中心街に近付いていると実感する。
すると急に冴太が立ち止まった。
「う……嘘……だろ……」
両足から崩れ落ちる冴太。
そこには色々な武器、防具を身につけた人達や、先ほどの親子みたいな服装をした人達で長蛇の列が出来ていた。
「おう! 勇者。随分来るのが遅いじゃないか。お前これじゃ買えないぞ」
先頭で列を整理している男からの突然の宣告。生まれたての小鹿の様に足を震わせ、先頭に立つ男に詰め寄った。
「つつつつっつぎのの入荷っっは…………」
声にならない声で聞いたが、答えは無情にも冴太を更にどん底まで叩き落とすのであった。
「入荷はしばらくねぇーぞ! これだけ人気なんだ。一気にログインしたらサーバーがパンクしちまうから本数を減らしてるんだとよ。なーに、気にするな。次の入荷がわかり次第連絡してやるから大人しく待ってな」
そう言った男は、列の整理に戻って行った。
そんな様子を見ていた三人だったが、涙やら鼻水やらであまりにも悲惨な顔をしていた冴太に声をかけることが出来ず、その場で立ち尽くすのであった。
何時間経っただろうか。
あの長蛇の列が無くならない間に建物からエプロンを着けた男が出てきた。
「ただいま在庫が全て無くなりました。完売しました――完売です」
この声と同時に列に並んでいた人達が冴太と同じように膝から崩れ落ち、俯いている。
歯を食い縛り、手から血を流しながら地面を強打している者。
嗚咽を漏らし泣き叫んでいる者。
そこには戦争で仲間を失った兵士の如く、見るに絶えない光景が広がっていた。
しばらく周囲に聞くに耐えないメロディーが奏でられ、そのメロディーに合わせて冴太が立ち上がり、来た道を引き返して行く。
流石に見かねた三人が、冴太に声をかけた。
「まぁ――なんだ、あまり気を落とすな」
「いつまでぐずぐずしてるのよ! 勇者なんでしょ! シャキッとしなさい」
「元気だすの」
落ち込んでいる原因はわからないが、取り敢えず励ます三人。そんな励ましも虚しく――
「少し一人にしてくれ……」
とぼとぼと、帰宅路に着く冴太なのであった。
その頃、冴太邸にて若頭補佐と組長による報告会が行われていた。
「組長。銀座エリアの我々の島に東陽会の連中が悪徳商売を始めたとの情報です」
和の高級旅館を思わす組長の自室。そこで食事中の組長に向けて片膝をつき報告する若頭補佐。
「出所は」
グラスに注がれたビールを一気に煽った組長。
「はい、スナック麗奈のママが、客から聞いた情報です。ママ曰くその客は信用に値する、とのことです」
空になったグラスにビールを注ぎながら全ての情報をありのままに報告する。
「今空いてる組員はいるか?」
注がれたビールを半分程煽り、新品のグラスを若頭補佐に渡しビールを注いでやる。
「頂きます。はい、幹部連中は全て出払っていて……言いにくいのですが、若頭なら空いてます」
注がれたビールを同じく半分程飲みここで初めて組長の目を見た。
組長は少し広角が吊り上げ、笑っているようにも見える表情で残りのビールを飲み干した。
「冴太……いや、若頭にやらせろ」
若頭補佐に指示を出し、食事もそこそこに席を立つ。
「承知……」
こうして冴太に初めての仕事が舞い込むのであった。




