第四話 シミュレーション
女湯にて
「ほんとなんなのよ! 」
お風呂に入ってしばらく経ったが、まだシャーリーの機嫌が治まらずにいる。
「仕方ないの。早くルベルトに慣れるしかないの」
手をお椀形にして何かをしているクルル。
「あんたさっきから何してるのよ! 人の話聞いてる? アルグスト王国の勇者は変人しか居ないわけ?」
何を言われようがお構い無しとばかりにクルルはお椀形の手をずっと見つめている。
「静かにするの。臭いのことより重要なことなの」
お椀形の手の中にあった少量の水を、手を崩し浴槽の中に落とした。
「やっぱりダメなの」
何かを諦めたクルルは十人は裕にくつろげる浴槽の中で仰向けでぷかぷか浮いた。
「何がダメなのよ」
少し興味を持ったのか、シャーリーはクルルに問いただした。
「魔法の発動が悪いの。さっきの水魔法、ここのお湯と同じぐらいの水を出すイメージをしたの。でも結果は全然なの」
浴槽で浮きながら天井の一点を見つめた。
「魔法の発動が悪いって……転移魔法は使えるよね?」
恐る恐る願望を込めてクルルに聞いたが、望んでいない答えが返ってきた。
「今は使えないの。でも、原因はなんとなくわかるから安心するの。魔法が使えない今、クルルはお荷物なの。魔法が使えるようになるまでしっかりクルルの事を守るの」
浴槽で浮かぶのを止め、シャーリーにぐっと親指を突き立てた。
そんな余裕そうに見せるクルルであったが、心の中では今後のことで頭が一杯だった。
「まぁ――ひとまずわかったわ! その原因とやらを早く解決して転移出来るようになりなさい」
最悪の答えを回避でき、安心したシャーリーは、浴槽から立ち上がり、歩いていった。
「あんたもそろそろ上がりなさいよ。これから大事な話があるんだから」
扉の前まで行き、扉を開けようとするが開かない。
「何してるの。出口はあっちなの」
クルルはジト目でシャーリーを見ると、プルプル震えながらシャーリーは脱衣場へ向かっていった。
シャーリーは自分で出来る人と思ってるが、クルルはシャーリーもルベルトもどっちもどっちだと思うのであった。
お風呂から上がった三人が部屋に通されるや否や冴太は開口一番三人に尋ねた。
「職業は何をしている?」
職業とはもちろんドラゴンハンターでのことだ。
冴太は今までソロプレイでのランキング一位を保持してきた。
しかし、前々から思っていたのだ。ソロ、マルチでランキング一位を取ってこそ本当の勇者なのだと。
何度かマルチでも一位を取るためにプレイ前に口頭シミュレーションを話し合うがやはり合わない人ばかりだった。
一度死ぬとキャラクターがデリートされてしまう環境で口頭でプレイスタイルが合わない場合はすぐに切り捨てるしかない。
そのための話し合いが今始まったのである。
「俺はルベルト、前衛で両手剣をメイン武器で戦っている」
この男は両手剣か、なかなか良いセンスをしているじゃないか。
両手剣は大剣より攻撃力は劣るが攻撃速度は大剣より上、片手剣より攻撃力は上だが攻撃速度では劣る。
ネットでは器用貧乏と称され、メイン武器としている人はほとんどいないが極めれば一番強いのではないかと密かに思っている。
しかしルベルトか、聞いたことないキャラ名だな……恐らく三人でマルチに潜っているのだろう。
現マルチランキング一位パーティー、龍の咆哮クラスにならないといちいちキャラ名まで覚えていない。
別に、有名だから強いと言う訳ではないのでその辺は気にしない冴太だった。
「次は私ね、私はシャーリー。武器は細剣よ速さなら誰にも負けないわ」
この女は細剣か、ソロではまず選択肢に入らない武器だ。
マルチでは細剣の力量がパーティーの強さに比例すると言ってもいい。
味方の攻撃後、敵が数秒弱点を晒す。その一瞬をどれだけ攻撃出来るかが鍵となってくる。
味方との攻撃タイミング、敵との立ち位置、全てを完璧にこなせて初めて輝く職業だ。
一度、口頭シミュレーションでどの様な立ち回りをするか試してみるか。
細剣と言う難易度の高い武器を使うこの女に興味をもった冴太だった。
「クルルはクルルなの。聖魔法以外なら何でも使えたの」
こっちの子供は魔法使いか。って……ん……?
「使えたって……なんで過去形なんだ?」
意味のわからない発言に疑問符を浮かべる冴太にクルルは言葉を付け足した。
「今はなんだか調子が悪いの」
ばつの悪い顔で俯いているクルル。そうな様子を見て全てを察した冴太。
なるほどそう言うことか、確かにパーティーを組んでたらよくあることだ。
味方が敵と至近距離で戦闘中、敵と味方を巻き込んで魔法を着弾させる。
一度それをしてしまうと、また同じ事をやてしまうと思い、思うように魔法が撃てなくなることがある。
ゲームでこの表現が正しいかわからないが、イップスみたいな物だろう。しかしイップス魔法使いか……何かの縁だ、ここは俺が克服してやるか。
冴太が克服プランを考えてる時、両手剣男が声をあげた。
「クルル! 魔法が使えないってどうい…………」
両手剣男の発言を割く様に冴太が口を出した。ここで責めてもイップスの根がより深くなるだけだ。
責めるよりも安心させるのがベスト。
「大丈夫だ!安心しろ。魔法は気持ちが大切なんだ。不安がなくなれば自ずと魔法が使えるようになる。っと言うことで今から口頭シミュレーションをしようじゃないか」
そう言うと冴太はドラゴンハンターの中堅層が主に活動しているマップをテーブルに広げた。
キャラ名勇者、冴太side
「取り敢えず座ってくれ」
マップを囲うように三人を座らせた。
「今から荒野エリアのシミュレーションを行う。知ってると思うが俺のメイン武器は大剣だ。俺の行動に合わせて発言してくれ。前方二十メートルに敵地竜一匹。まず俺が先陣を切って敵を攻撃する」
そう言った冴太は地図上の地竜の駒に対し、十二時の方向に自分の駒を置いた。
ここでシャーリーが冴太に疑問を投げた。
「目的地はどっちなのよ」
さも当然のように聞いた疑問だったが冴太は戸惑った。
「えっ? そ……それじゃ六時方向の村に帰還途中の想定で」
三人は目を合わせ冴太から自分の駒を貰い、あたかも当然のように自分の駒を配置しだした。
ルベルトは三時の方向に、シャーリーはルベルトの隣に、クルルは少し迷っている。
恐らく今の魔法が使えないクルルとして配置するのか、魔法が使えるクルルとして配置するのか。
迷っているクルルを見かねた冴太はクルルに声をかけた。
「普段通りの戦闘を見るシミュレーションだ。いつもの配置を見せてくれ」
その言葉を聞いたクルルは迷わず自分の駒を置いた。一時の方向に。
「ほぉ――」
冴太は思わず関心した。
定石なら魔法使いは前衛の後方に配置する。
そりゃそうだ、魔法使いは極端に耐久がないので前衛に守って貰いながら詠唱する。
しかしこの魔法使いは一時方向に単独配置した。
敵が見えてる一匹と断定せずにだ。もし、前衛の後方に配置して背後から敵がもう一匹来たら? 前衛に守って貰えばいいと思うが、その前衛が敵の攻撃を受け持っていたらすぐに対応できない。
その点、一時方向ならどちらかの前衛が対応すればいい。
もしものもしまで考えなければ行けない。
言うのは簡単だが実際やるとなったら大変だ。死ねばキャラクターデリートがある中、少しでもリスクを減らしたがる。
前衛も前衛だ。
定石なら俺の隣に駒を配置するはず。そうすれば後方から敵が来てもすぐに対応できる。
しかしそれだと討伐速度が極端に遅くなる。普通に考えて横からも攻撃した方が総合的にダメージがでる。
この陣形は最近マルチトップパーティーの龍の咆哮が取り入れているみたいだが上手くいってなさそうだ。
「なるほど、全て把握した。次はもし敵が瀕死状態でこちらも瀕死状態ならどうする? 回復薬は無しの設定だ」
冴太の設定に三人は普通に答えた。
「そんなのそのままに決まってるじゃない」
「そのままだな」
「そのままなの」
三人の意見が一致した。
こいつらキャラクターデリートが怖くないのか? そう思った冴太だったが、同時にこいつらとならマルチもトップを取れると確信した。
死線を乗り越えてこそ初めて成長できる。
「お前ら面白い。ようやく決断できた。是非俺とパーティーを組もうじゃないか。これから冴太と呼んでくれ」
そう言い冴太はルベルト、シャーリー、クルルと順に握手を交わした。握手された三人は?を浮かべるのであった。
異世界勇者 side
口頭シミュレーションと訳のわからない事をやり始めようとしている勇者。
「取り敢えず座ってくれ」
椅子を勧められるままに座り、広げられたマップを直視した。三人とも見たことがない地形。やはり相当遠くに転移したのだと再び思う三人だった。
「今から荒野エリアのシミュレーションを行う。知ってると思うが俺のメイン武器は大剣だ。俺の行動に合わせて発言してくれ。前方二十メートルに敵地竜一匹。まず俺が先陣を切って敵に攻撃する」
この勇者が大剣使いなんて全く知らないが、話の腰を折らないために珍しくぐっと堪えたシャーリーだった。
しかし、たかが地竜一匹に何をシミュレーションするのか疑問に思う三人。
この勇者一人で十分な戦力だと思いシャーリーは聞いた。
「目的地はどっちなのよ」
行く方向がわからなければ駒を置きようがない。
「えっ? そ……それじゃ六時方向の村に帰還途中の想定で」
それを聞いた三人は冴太から駒を貰い、すかさず駒を配置した。
ルベルトは三時方向からの帰還を想定して三時方向に、シャーリーはルベルトが決めた帰還ルートと同じ方向、ルベルトの後ろに配置した。
クルルは少し迷っている。
この勇者の実力がわからないまま一人で任して良いのか。
クルルが迷っていると、勇者から声がかかった。
「普段通りの戦闘を見るシミュレーションだ。いつもの配置を見せてくれ」
それを聞いたクルルはルベルトとシャーリーから少し遅れた位置の一時方向に駒を配置した。
「ほぉ――」
駒の配置を見た勇者から謎の関心が漏れた。
三時方向から帰還するか九時方向から帰還するかがそんなに重要なことなのかと思ったが誰も尋ねなかった。
「なるほど、全て把握した。次はもし敵が瀕死状態でこちらも瀕死状態ならどうする? 回復薬は無しの設定だ」
さっきので何を全て把握したかはわからないが、地竜ごとき瀕死で、回復薬が無くても然して問題がないと思い三人は答えた。
「そんなのそのままに決まってるじゃない」
「そのままだな」
「そのままなの」
三人の答えが一致し、勇者が笑みを浮かべている。
「お前ら面白い。ようやく決断できた。是非俺とパーティーを組もうじゃないか。これから冴太と呼んでくれ」
こうして謎の勇者とパーティーを組むことになったのだった。




