第三話 出会い 異世界勇者 side
異世界勇者一行 side
クルル=リ=テスカが眠ってからの事。
「ちょっと、この転移何処に向かってるのよ! あんたあの子の同僚でしょ? 教えなさいよ!」
シャーリーは不機嫌になりながらフェイント勇者に声をかける。
「クルルは魔王の後方へ転移門を設定したはずだが……あの空間で妨害魔法も一緒に展開され、魔法が安定していなかった……転移先も見えなかったし、何処に転移するかはわからないんだ……」
歯切れを悪くし答えたルベルトだったが、そんな曖昧な答えでシャーリーが納得出来るはずがない。
何せ命を賭けたからだ。あのまま魔王と戦っていても命を懸けて戦っていただろう。
同じ命をかけるでも、賭けると懸けるは違うのだ。
そんな事を言ってもどうにもならない事はシャーリーにもわかっているが、言わずにはいられない。
「だったらなに? このまま訳のわからない空間で死ぬって言うの? 冗談じゃないわ! 私まだ十六よ、まだまだこれからじゃない……」
泣きそうになりながらも、必死に涙をこらえ目を瞑った。ルベルトも掛ける言葉が思い付かず、俯いたまま沈黙が流れた。
「二人とも何でそんなにしんみりしてるの」
寝惚け眼を擦りながら起き出したクルルは、お通夜真っ最中の二人に話しかけた。
「あんたのせいじゃない! こっちの勇者から聞いたわよ。この転移魔法、不安定で何処に転移するか分からないんでしょ? 大丈夫なんでしょうね!」
今の状況を引き起こした張本人に必死に話しかけ、ついに涙を流した。
見かねたクルルは深い溜め息をついて話し出した。
「一つずつ説明するの。まず、何処に転移するかわからないのは本当なの。でも、最低限の安全は設定したの。だから地中や深海といった即死場所には転移しないから安心するの」
一番大切な所を言い終えたクルルはここで呼吸を整える。
それを聞いたシャーリーは、こぼれんばかりの笑みを浮かべた。
瞳に残ってる涙と相まって、世界の善を知った妖精の様だった。
自分の安全を知ったシャーリーは、フェイント勇者こと、ルベルトを一度見てクルルに話しかけた。
「今の話を聞く感じ、この転移は撤退用の転移なのね。こっちの勇者が攻撃体勢にはいってたからびっくりしたじゃない。あんたが気絶している時も魔王の後方への転移が失敗したって言うからなおさらびっくりよ」
シャーリーがジト目でフェイント勇者を見ている。
「クルル、撤退用の転移魔法なら言ってくれよ……」
ルベルトは、ばつの悪そうな顔で二人を見ている。
「言ったらだめだったの。あの魔王ずっとクルルのこと見てたの。二人ともわかってたと思うけど、あの状況では絶対に勝てなかったの」
場に沈黙が流れたが、構わずクルルが話し出した。
「勝てなかったらどうするの、逃げるしかないの。無駄に死ぬことはないの」
ルベルトをジト目で見ながら話を続けた。
「魔王も簡単に逃がしてくれるわけないの。でもここで魔王は一つミスしたの。それは魔王配下との戦闘を見すぎたことなの。十万七千六百三十二もの魔物と戦ってるのを見たら攻撃の癖、魔法のパターン、連携を予想してしまうの。相手が予想できることはこっちも予想できるの。」
二人は、クルルの話に驚いているが、話を止めることなく聞き入った。
驚いているのが、魔物の数を正確知っていることなのか、はたまた転移を予想して発動していたことなのかはわからない。
そんな二人はお構い無しとばかりにさらに話した。
「魔王配下との戦闘中、魔王を見ながら転移魔法を詠唱するふりをすると魔王は消滅魔法で相殺させようとしてきたの。逃げられることか、はたまた転移させられることかは、わからないが相当転移魔法を警戒してたの。次に、他の勇者のスキルと同時に転移魔法を詠唱するふりをすると、魔王は一瞬妨害魔法を展開したの。二人ともたまにスキルが安定しないときがあったと思うの」
二人は、瞳の裏を見つめながら先の戦闘を思い出した。
思い当たる節があったのだろう、二人は一度だけ深く息を吸い込み、そしてゆっくりその息を吐いた。
ここでようやくシャーリーは全てがわかったのだろう、呆れた顔で話し出した。
「はぁ――……全てあんたに見透かされてたってことなのね。この勇者のフェイントも、魔王の妨害魔法も」
安心からの不安を口にしたシャーリーは、緊張の糸が切れたのか、運動エネルギーに身を任せながら思い更けた。
「どうせバカルトの事だからあの場で魔王に一太刀浴びせる! っと、本気で攻撃しようとするの。あの妨害魔法ぐらいなら転移魔法と平行して、保護魔法もギリギリ行使できたの」
言い終わった所で目を瞑り、クルルは奥歯を強く噛みしめた。
そんなクルルを二人は気づくことはなかった。
「クルル……バカルトはやめてくれよ……」
先ほどから落ち込んでいたルベルトだが更に落ち込むことになった。
「そんなことより、転移先でも一緒に行動するでしょ? あんた達は同僚で知った仲かもしれないけど私は二人のこと全く知らないから自己紹介しましょ。さっきみたいな勘違いはごめんだわ。と、言うことで私から自己紹介するわね。私は、シャーリー=ル=ブランカ。シャーリーでいいわよ。エルドリア王国から派遣された勇者よ。あとは知ってると思うけど、前衛で武器は細剣よ。スキルはあまり得意じゃないけど、攻撃速度なら誰にも負けない自信があるわ」
一通り言い終えたシャーリーは次にルベルトに目配りした。
「俺は、ルベルト=ラ=エスター。ルベルトと呼んでくれ。アルグスト王国の勇者、前衛で武器は両手剣だ。ソードスキルは一通り使えるぜ!」
最後は、親指を立てながら前歯を光らせシャーリーを見た。
スキルを使える自慢なのかはわからないが、バカになるぐらいならスキルが少し苦手ぐらいの方がマシだと思うシャーリーだった。
「クルルはクルル=リ=テスカなの。クルルでいいの。知っての通り魔法使いなの。聖魔法以外は一通り使えるの。」
三人の自己紹介が終わったところで、空間に異変が起きた。
それまで真っ暗だった空間に一筋の光が見えたのだ。
「転移が完了するの。即死は無いだけで敵の目の前に転移する可能性があるから気を引き締めるの」
お互いの握っていた手に少し力を込め、光の中に吸い込まれていった。
バシャーーーーーーン
外の景色を見ることなく、水面に叩きつけられた三人は、水中でお互いの目を見た。
水深はそれほど深くない、五メートル程だろうか。
「………………」
クルルが首を横に振り、魔法が発動しない事を訴えている。
みんな気づいているのだ。この水面周辺で殺気を漏らしている敵がいることに。
だからと言ってこのままここに居るわけにはいかない。ルベルトとシャーリーは腰に構えた愛剣を抜刀し、三人で勢いよく飛び出した。
「うごくな!!」
言葉を無視して斬りかかろうとしていたルベルトとシャーリーだったが、その行動は見知らぬ魔導具によって動けなくされた。
魔導具が発動して動けなくなったわけではない。
ただ見たことがない魔導具をこちらに向けて構えていたからだ。クルルが魔法を行使出来ない今、下手に動く訳にはいかない。
縮地のモーションを解除するため、ルベルトがほんの少し右足を前に出したと同時に、その魔導具から何かが飛び出した。
しかし、あまりにも遅く向かってきた何かは、斬撃で弾く必要すらなく、ルベルトの頬数センチを通り過ぎることが予想できた。
通り過ぎるあいだ、その何かを観察すると、どうやら鉄の塊が高速で回転していることがわかった。
恐らく、回転している鉄に何らかの魔方陣が刻印されているのだろう。
しかしあの速度なら目を瞑っていても当たらない自信があった。
隣のシャーリーも当たらない自信があるのだろう。目で頷いている。
二人が戦闘体勢に入ろうとした時、魔導具を使用した男から声がかかった。
「次動いたら当てるぞ!」
二人には理解出来なかった。あの程度の速度の鉄弾が当たると思っていることに。
しかし、相手の表情を見るに、嘘は言っていない。当てれる確信があるのだろう。
ここで二人は気づいた。最初にこの場にいた人数と今の人数が合わないことに。いや、正確には人数は合っているが生命力の数が少ない。
敵を一目見ただけでわかった。
後方で後ろに手を組み、立っている爺さん、敵の中で一番の強者だ。
このような場で殺気、生命力を遮断できる程の実力者。相当経験を積んでいる。次動けば必ずそこの爺さんも動くだろう。
魔王から撤退したが、撤退した場所でこの有り様。三人は自分達の不幸を恨んだ。
しばらく膠着状態が続いた後、爺さんの横に立っていた男が声を出した。
「お前ら。拳銃をしまえ!」
今まで殺気を全く感じなかった男からの声。 その男から出ている異様な空気、拳銃とは何なのか? 疑問が尽きない。
「しかし若頭、ここで引いたら舐められてしまいます」
魔導具を構えた男が動揺している。
この優勢な状態で相手は引くのか? 引いてくれたとして、これ程の強者と対峙しているのだ、嘗めてかかる訳がない。
「この堂々とした風格……やっと……やっと若頭もこの道を進む決心がつきやしたか」
相手の取り巻きから称揚の声が上がる。
これまでの会話で一つわかった事は、この男がこの場で一番地位が上だと言うこと。
あの爺さんがその男の横に立っている事からも明らか。この場の全員がその男に意識がいったとき、男が口を開いた。
「お前ら。この俺勇者を殺しに来たのか?」
この言葉に三人は衝撃を受けた。
この男が勇者だと!? 勇者なら各国から魔王討伐に派遣されてるはず。この国も例外ではない。
いやまて、この男が本当の勇者ならなぜあの場に居なかったかを考えるんだ。
確かに、先の魔王戦で派遣された勇者は実力が伴っていない勇者ばかりだった。
各国が本当の勇者を秘匿しているのか? それならこの男が本当の勇者で秘匿されてる対象である可能性もある。
しかしなぜ各国が秘匿するのかがわからない。
いや違う、先ほど取り巻きの男からやっとこの道を進む決心と言っていた。この道とは勇者の事なのか? この男から詳しく話を聞く必要がある。
「勇者だ……と……取り敢えず想定できる最悪の状況は回避出来たか」
ルベルトは徐に呟いた。
「そうだ、俺がこの国最強の勇者、厳島冴太だ」
この言葉で確信した。間違いなく勇者だ。人は嘘を言う時、必ず表情や声色に動揺が出る。
しかしこの男からはその動揺が全く感じられなかった。
クルルとシャーリーの目を見るが、二人とも同じ見解だったのだろう。軽く頷いて二人は武器を納刀した。
今不足しているのはやはり情報だ。ルベルトはこの国最強の勇者に声をかけた。
「勇者殿、ここはど…………」
「冴太で良い、話をするのは後にしよう。そんなずぶ濡れじゃ折角の装備が台無しだ。着いてこい」
そう言って勇者は踵を返し城に向かって歩き出した。その後を追うように三人も勇者の後ろを付いていった。
城に入って"二人"は豪華な内装に度肝を抜かれた。
足元に敷かれた赤い絨毯、見たことのない照明の数々、そして一番驚いたのが階段の踊場に飾ってあった広い草原。
絵ではない。本当にその場にいる感覚。
今にも風が吹き、鳥のさえずりや草木の香りが漂ってきそうな感覚。驚いているのもつかのま、勇者が歩みを進めるので付いていく。
「着いたぞ」
勇者は扉の前で三人を促した。
「ここは?」
ルベルトが疑問を口にすると同時に扉が開いた。
「ここはって風呂に決まってるだろ? 右が男湯で左が女湯だ。この扉の前に人を立たせておくから上がったら俺の部屋まで来てくれ」
そう言って勇者はこの場から離れていった。
「たしかにルベルトちょっと匂うの」
クルルが手で鼻を摘まみ逆の手で野良犬でも払うように手を振る。
「匂うって……クルルもシャーリーも匂ってるぞ」
負けじとばかりにルベルトも言い返すが女の子に言って言い言葉ではなかったが、言ってしまえばもうおそい、シャーリーが今にも斬りかかりそうな勢いで震えている。
「あんたね! この私に向かって臭いですって!? その減らず口を私の愛剣で串刺しにして開かなくしてあげるわ!」
シャーリーが腰の愛剣に手をかけた。
「バカルトはバカだから放っておくの。それより早くお風呂にいくの」
クルルはシャーリーの手を引っ張り、女湯の方に向かっていった。
「俺が悪いのかよ……俺はただほんとのことを……はぁ――」
ルベルトもまた一人で男湯に向かうのであった。




