第二話 出会い 冴太side
空は暗く、日付が変わろうとする時間、東京某所、そこに今年最後のビッグイベントを前に心を踊らせている少年がいた。
「遂に、遂にこの日が来たか……最新作、ドラゴンハンターの発売日。今まで延期延期の無限ループで発売が危惧されていたが無事に明日発売。前作同様この俺がランキング一位を取ってやろうじゃないか!」
ドラゴンハンターとは、剣や魔法で名前の如く、ドラゴンを討伐するゲームだ。
今は色々アップデートが入り、ドラゴン以外のモンスターも多数出現し、ソロや、マルチプレイで討伐速度を競うゲームなのだ。
このゲームが人気な訳はずばりゲーム内で死ぬとキャラクターがデリートされる点だ。
昨今のゲームではお試しパーティーやらで緊張感の欠片もないが、このゲームは違う。
何時間、何百時間費やして育てたキャラが一回の死で全てを失う。
それに伴い、安全マージンを意識するし、パーティー申請のハードルも上がる。それこそ本当に背中を預ける感覚で。
この男の名は厳島冴太。
若干中二病が抜けない高校一年生。先ほど独り言のように呟いていた通り、前作ドラゴンハンターのランキング一位保持者、キャラクターネームは勇者だ。
国民的ゲームであり、このゲームを知らない人は居ないぐらい超有名なゲームだ。
同じく、ゲームをやった事のある人なら厳島冴太=勇者も有名だ。
ドラゴンハンターと言えば勇者、勇者と言えばドラゴンハンターなのだ。
もう一つ、この男の境遇で普通でないのは、親が裏社会の組長をしている事だ。
この事を知っているのは幼なじみの二人と家で働いているメイドと執事だけ。
高い給料を払い、公言厳守で雇っている。その他、学校関係者、地域住民は知らない。
と、言うか言える訳がない。表向きは、投資家で通っており、お金巡りは非常に良い。
勿論投資で稼いだ訳ではなく、裏での話だ。お金も好きに使わして貰えるし、家ももはや城レベル。城の警備も万全で至れり尽くせりだ。
親父からは、そろそろ現場で経験させてもいい歳だろっと若頭補佐と話している所を盗み聞きしたが、冗談じゃない。
鉛弾が飛び交う可能性がある場所に、自らのこのこ出向く訳ない。ゲームみたく撃たれても、撃たれる前みたく機敏に歩ける訳もないのだ。
何処に弾が当たろうが踞り歩けない。
皆が皆、親父みたいじゃないのだ。
HPの概念がない世界、正確にはHPみたいなのはあるかも知れないが、ビンの中に入っているわけのわからない飲み物を飲んでもHPが回復しないし、スキルも何もなく、己の技術のみが物が言う世界に行くわけがない。
今まで通り、自己啓発費としてお金を使わせてください。お願いします。
そんな願望を胸に秘めながら出発の支度をする。
「爺や、出発の時がきた……」
冴太が意味ありげに声をかけると同時に自室の扉が開き、軽いお辞儀と共に、爺が進路を促していた。
この爺は、最近雇った近所に住むごくごく普通の爺だ。爺に促されるまま、赤い絨毯が敷き詰められた廊下を進み、玄関に向かう。
途中、階段の踊り場で玄関までの進路を確認すると、組員達が、絨毯の両脇に並び頭を下げていた。
いつもの事なので気にしないが、高がゲームを買いに行くだけなのにと思う。
そんな組員を尻目に家を出る。
家を出て、門までもこれまた長い、およそ五十メートル位距離があり、門から見て左手に噴水、右手に立派な赤松が植えてある。洋風、和風どっち着かずの状況だ。
少し肌寒さを感じながら赤松を眺め、門道を歩いているとそれは突然おこった。
バシャーーーーーーン
轟音と共に、噴水の溜池から水柱が上がる。
異変に気付いた組員が、噴水と冴太の間に入り拳銃を構える。
五秒……十秒……と沈黙が流れ、およそ二十秒ほど経った時、水面から武装した男女二人と木の杖を持った女が一人飛び出してきた。
「うごくな!!」
拳銃を構えた組員がドスの効いた声で不審者三人を睨み警告する。
木の杖を持った人を囲うように、武装した二人が抜刀した状態でこちらの様子を伺っている。
冴太も、不審者を観察すると、抜刀している物は明らかに本物だ。
色々なコスプレを見てきたが、武器を作るのが一番難しい。重量感に欠けたり、金属特有の光沢を出すのが難しいからだ。
その中でも一番難しいのが、刃を鋭利にすることだ。
作ることは出来てもそれを外で披露出来なかったら作る意味がない。
各言う冴太は、ドラゴンハンターのメイン武器を、観賞用で作って貰ったのだがそれはまた別の話。
少しの沈黙が流れた後、不審者の男が一歩前に出たと同時に銃声が鳴った。
「次動いたら当てるぞ!」
先程より強い圧、滅多に引き金を引くことは無いが、相手も殺りに来てるので仕方ない。
今の銃声で、俺の専属爺が恐怖のあまり立ったまま気絶している。この爺も運が悪い事で……今日は最後の出勤日かな?
冴太は、銃声を生で何度か聴いたことがあり、然して驚くことは無かったがここでこの三人を殺すのは違う……なぜなら……
こいつらの衣装がドラゴンハンターに出てくる物そっくりだからだ。
ただただこの三人がドラゴンハンターのハードプレイヤーでこの俺勇者にクオリティーの高いコスプレを見せたかっただけの可能性がある。
リアル友達の少ない状況だ。ここは何としても詳しく話を聞く必要がある。組員の壁を掻き分け前に出る。
「お前ら。拳銃をしまえ!」
学校ではビクビクしている俺が珍しく威厳ある口調で組員達に指示を出す。
「しかし若頭、ここで引いたら舐められてしまいます」
「この堂々とした風格……やっと……やっと若頭もこの道を進む決心がつきやしたか」
何やら色々言っているが、俺はヤクザの道に進む気もないし、若頭になった記憶……もな……い……?……
若頭になった記憶はあるがあれは不可抗力だ。
親父に呼ばれて、「冴太、舎弟頭補佐として現場で経験を積んでこい」
と言われ、その時たまたま見ていた中二病アニメに影響されて、「親父、いや、組長。この俺がNo.五だと? 俺の器がでかすぎて、そこには収まりきらねーぜ! 俺の器はトップで発揮できる」
と、訳わからないセリフで最終回を迎えたアニメのセリフを言ってしまったのだ。
それで、何故か気分を良くした親父が笑ながら俺をNo.二の若頭に任命したのだ。
因に前のNo.二は今拳銃を構えてる奴で、そいつはNo.三の若頭補佐になった。
あんな大口を叩いて若頭になっておいて、現場経験ゼロなのだ。そこで、冒頭の親父と若頭補佐の話だ。
っと、この話は置いておいて、コスプレ一行へ話を投げる。
「お前ら。この俺勇者を殺しに来たのか?」
相手はドラゴンハンターの装備で来ている。ここはドラゴンハンターの名前で答えるのが筋だろう。勇者の名を聞いた相手の反応でおおよその判断が出来る。
「勇者だ……と……取り敢えず想定できる最悪の状況は回避出来たか」
両手剣を構えた男が言った。
冴太が思うに、噴水の溜池から出てきた時点で最悪の状況だと思うのだが、今は置いておこう。
「そうだ、俺がこの国最強の勇者、厳島冴太だ」
コスプレ一行が、お互いの目で会話している。
少し経った後、武装していた二人が納刀し、張り詰めた空気が少し緩んだ気がした。
これでひとまず血を見ることはないかな?
「勇者殿、ここはど…………」
「冴太で良い、話をするのは後にしよう。そんなずぶ濡れじゃ折角の装備が台無しだ。着いてこい」
冴太は踵を返し歩き出した。




