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異世界勇者とキャラ名勇者の日常  作者: うんも


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第一話 転移

魔王城、そこは魔王がすむ場所。


 そこに今宵、魔王を討伐するべく集められた勇者達が集結し、激戦を繰り広げていた。


 魔王の王座一帯には、数万、いや数十万もの魔物の死体で埋め尽くされており、この激戦で十人いた勇者の七人が魔王と対峙することなく命を落とした。


 残った三人で魔王と戦わなければならないが、その勇者も数十万もの魔物と戦った後、すでに満身創痍、立っているだけでやっとの状況。


 一方魔王は、王座に座り、人間の生き血をグラスに注ぎながら先の戦闘を眺めていた。

 戦闘には参加していなかったため、無傷と言っていい。寧ろ、勇者の戦闘スタイルやスキルを見ることができた分、魔王が圧倒的に有利。


 この状況で魔王と戦っても結果は火を見るより明らか、ここは一時撤退をし、態勢を立て直すべきだ。

 勇者三人はお互いの顔を見合わせただけで理解した。それと同時に撤退できないことも理解していた……一人を除いては……




 勇者クルル=リ=テスカ side




 その一人、魔法のエキスパート、クルル=リ=テスカは、顔についた誰のものかもわからない血を拭い払い、前衛二人に指示を出した。


「二秒後、後方二十メートルまで下がるの!」


 普段無口で感情を表に出さないクルルが、鬼の形相で魔王を睨み詠唱を開始した。


「…………………………」無詠唱ではない、"誰にも聞こえないように"遠くに遠くに遠くに遠くにと、強く、熱く怒りと共に魔力を練っていく。


 途中魔力切れで意識が持っていかれそうになるが、無理やり意識を繋ぎ止め、歯の隙間に隠してある魔力結晶を噛み砕く。


 先の戦いで既に相当数のマナポーションでドーピング、嘔吐も飲み込み耐えて、耐えて、魔法が完成する。


 すると丁度二秒後、前衛二人が指示通り二十メートル後方、クルルの前で着地した。


 ここで魔法を勇者三人の足元に展開。直径三メートルほどのドス黒い穴、底が見えず煮え滾(たぎ)る。


 そう、展開した魔法は転移魔法。


 本来は、転移場所がハッキリと映るのだが、そこは魔王、二秒もの時間を見ているだけではない、"予想通り"妨害魔法を展開したのだろう。

 しかし、転移場所がわからないからといって、転移しないという選択肢はない。

 転移しなかったら確実な死、転移するとまだ生きれる可能性がある。可能性は限りなく低いが転移するしかないのだ。




 どれぐらい経っただろう。空間識失調を引き起こし、落下しているのか上昇しているのか、はたまた自分がどちらを向いているかもわからない。


 クルルは、無理な魔法行使で酷い倦怠感に襲われ、運動エネルギーに身を任せてそっと目を瞑った。




 勇者ルベルト=ラ=エスター side




 既に満身創痍、魔王の憎たらしい笑みを睨みながら状況を整理した。


 先ほど意志疎通を図った撤退? 頷きはしたが出来たとしてもするつもりは毛頭ない。


 同胞を七人も殺され自分だけ生き延びる? そんなの反吐が出る! 生き延びるぐらいなら、あの憎たらしい顔に一太刀浴びせて死ぬ方がましだ。


 そんな事を考えてると、クルル=リ=テスカから指示が出た。


「二秒後、後方二十メートルまで下がるの!」


 今まで聞いたことのない怒声。あいつも相当キレているのだと予想する。


 今の指示は魔王との距離が近すぎて特大魔法に被弾する可能性があるから下がれと言う指示に違いない。

 そうと分かれば指示に従い魔法の着弾と同時に一気に距離を詰め一太刀浴びせる。


 丁度二秒後、指示地点に着地し、それと同時にスキル発動準備に入る。

 しかし、スキルが安定しない。恐らく魔王が妨害魔法を展開しているのだろう。


 不安定ながら発動するかわからないスキルが完成する。

 死の覚悟が出来たと同時に、地面が消えた……正確には消された。



 謎の浮遊感にさらされ、三人はドス黒い穴に吸い込まれていく。


 ここで初めてルベルトは大きな勘違いをしていたことに気付き、スキルを直ぐにキャンセルした。


 これは転移魔法だ。

 しかしスキルが安定しないのはこの身をもって体験している。

 恐らく魔法も安定してないだろう。その証拠に、いつもの転移魔法と明らかに違う。


 突出すべき点は、転移先が見えないこと。

 クルルは間違えなく魔王の後ろに転移先を設定したはずだ。当の本人に確認しようにも、魔力欠乏症で意識を失っている。


 ルベルトの今出来ることは、転移成功時の魔王への奇襲、転移失敗時の安全確保だ。


 疲れきった体に鞭を打ち、神経を研ぎ澄まし、転移完了まで待つのであった。




 勇者シャーリー=ル=ブランカ side




 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない。



 あんな魔物に殺されるの? ありえないわ! 誰なの? 魔王討伐何て楽勝っしょ、ワンパンっしょって言った勇者わ!


 あいつがワンパンで殺られてるじゃないの! こんな事ならあのくそ領主の妾(めかけ)に成っていた方が百倍マシだったわよ!


 所詮は各国の国王が派遣した勇者、実力も天と地の差。

 実力が有った勇者は自分を含め生き残ってる三人だけ。

 しかもその二人は同じ国出身の同僚だったような……まともな勇者を派遣したのは二カ国だけって言うの? 生きて帰ったら勇者(仮)を派遣した国王に一発いれてやるわ!


 しかもさっきの頷きは何? ついついその場のノリで頷いたけど、何がうん! なの? 逃げるの? 勝てるの? 奇襲なの? 今日初めてのパーティーなのに分かるわけないじゃない!



 絶体絶命のピンチを前に、自問自答しているシャーリーに指示が飛ぶ。


「二秒後、後方二十メートルまで下がるの!」


 戦闘中、一度も指示を出さなかった人からの指示。


 隣の勇者は指示と同時に飛んでいた。

 そこは勇者、シャーリーもほぼ同時に飛んだ。飛んだわいいがその後がわからない。

 取り敢えず隣の勇者に合わせるしかない。どうやら攻撃体勢に入ってる様だ。同じく攻撃体勢に入る……



 飛び出すタイミングが整った瞬間、地面が抜けた。

 完全に不意を突かれた。


 隣の勇者を見ると攻撃スキルを解除している。


 何なのよもう! 絶対に攻撃する気だったじゃない! どんだけ上手い牽制なのよ! 本当に意志疎通図れてんの? でもこれでひとまず大丈夫なのよね?


 シャーリーは不安と安堵を繰り返しながら浮遊感に身を任せた。

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