第二十八話 転移
冴太邸に、厳島冴太、速水悠都、谷本歩実、ルベルト、シャーリー、クルル、それに皆の異変を感じ取った夏風涼花が、出発の準備を終え、待機していた。
「それじゃー行くの」
クルルが皆に合図を出し、歩実の手を取った所で、冴太が部屋の扉に手をかけた。
「冴太、どこ行くの?」
クルルの呼び掛けに間抜けな顔で振り返った冴太。
「どこに行くのって、今から買いに行くんだろ?」
行くの。っと言って、止められた冴太は訳が分からなかった。
「何訳の分からないこと言ってるの。準備するから待ってるの」
そう言い、クルルは歩実の手に力を込め、合図した。
「えぇ……っと……練習通りにやればいいんだよね?」
皆の視線が歩実に集まり、緊張が高まっていたが、溢れる何かを押さえ込むのではなく、クルルの握られた手に集めた。
歩実から流れてきた魔力をクルルが感じながら精神を集中させるクルル。
冴太の部屋に沈黙が流れる中、クルルは魔法を行使した。
「空間転移」
歩実の体から大量の魔力を吸い上げ空間転移の門が、冴太の部屋に出現した。
「ちょ、ちょっっっっと!! 何なのこれ? ドッキリ!?」
涼花があたふたしながら大声を出した。
「涼花は危ないからここで待ってなさい! みんな準備はいい?」
シャーリーの掛け声でクルル、ルベルトは頷いた。
「ルベルト……これって……」
速水がルベルトに声をかける。
「あぁ、前に言っていた復讐をしにいく……」
ルベルトのこの言葉、今、目の前に現れているゲートらしきものを目の当たりにして、速水は、全てを察した。
薄々可笑しいと思っていたのだ。あれ程の剣の腕前で全く名前を聞いたことがなかった。
剣を打たれた時も、全てが急所に打ち込まれていた。
そして、クラスでシャーリーが言っていた『魔王城からきた』その全てのピースが速水の中で当てはまった。
「通りで勝てない訳だ……」
「速水、改めて言う。協力してくれるか?」
ルベルトの言葉に速水は少し考えた。
「俺は向こうで通用するのか?」
「正直に言う。魔王には通用しない。ただ、その回りの雑魚なら何とかなる」
ルベルトの言葉に速水はようやく決断できた。
「俺もぬるま湯に使っているだけではダメか……わかった。協力させてくれ」
こうして、剣士速水が参戦することになった。
「ちょっっっっと!! 待ってなさいって……魔王とか何とか意味がわかんないよ」
涼花の叫びも虚しく、話は進んでいった。
「クルルちゃん……これって……」
「歩実の力なの。大丈夫なの。練習通りやれば大丈夫だから一緒に来て欲しいの」
クルルの言葉に歩実は考える素振り無く、即答した。
「いいよ。クルルちゃんのお陰でこの子との付き合い方も分かったし。それの恩返ししないとね」
この先に何が待っているとも知らずに、歩実はクルルに微笑んだ。
「ちょっっっっと! 私を無視しないでよ……」
無情にも、涼花の話が拾われないまま、更に話が進んでいった。
「冴太! いや、勇者! あんたの実力に期待しているわよ!」
シャーリーの激励に、冴太は少し震えていた。
冴太は確かに勇者だ。しかしそれはただのキャラクターネイムに過ぎない。こいつらは何を言っているんだ? と思い、シャーリーに聞き返した。
「お前らって何なんだ?」
凄く大雑把な聞き方だった。
しかし、この質問で全てを理解することができた。
「何を今さら言ってるのよ! 私達は魔王討伐で集められた勇者よ! さっ!! 行きましょ!」
シャーリーが冴太の手を取り、ゲートの中に入っていった。
それに続くように、ルベルトが速水の手を取り、クルルが歩実の手を取り、ゲートの中に入っていった。
一人取り残された涼花は苛立ちに身を任せ、一人、ゲートの中に入っていった。




