第十九話 魔力の原因
膨大な魔力を感じたクルルだったが、シャーリーは気付かない。ルベルトも少し違和感があった程度で、普通に席に移動している。
次の瞬間、その膨大な魔力が拡散し、教室のガラスを揺らした。
「おいおい、またかよ……誰か取り憑かれてるんじゃねぇーか」
「やだ先生、やめてょ」
教室に不穏な空気が流れたが、クルルはその魔力の発生源を辿った。
するとその魔力はクルルの席の隣、谷本と言う女性から発せられた事がわかった。
辺りが担任の冗談に喧騒している中、その谷本だけが俯き机を見つめている。
「おいお前ら静かにしろ。クルルも早く席につけ。授業を始めるぞ」
先程の魔力拡散が無かった事のように授業が始まった。
クルルも席に着くが、授業なんてそっちのけで谷本をずっと見つめていた。
クルルの視線に気付いた谷本は、クルルと目を合わせたが、直ぐに目を反らした。
目を反らして直ぐに、魔力が膨れ上がるのを感じた。
次の瞬間、再び教室のガラスが勢いよく揺れた。
「よーし、お前ら。俺らのクラスの林間学校は神社でお祓いな」
担任が冗談か本気か分かりにくい冗談を挟みながらも授業が進んでいった。
「こっち見るの」
クルルが谷本に声をかけるが反応がない。
「こっちみるの」
「先生! ちょっと体調が悪いので保健室いきます」
クルルの視線に限界が来たのか、はたまた本当に体調が悪いか分からないが、谷本が教室を飛び出した。
「おっおぅ……気を付けてな……って、元気じゃないか……誰か付き添い……」
担任が言葉を言いきる前に、クルルが後を追った。
教室を出たクルルは直ぐに谷本を見つける事が出来た。
階段の踊り場で一人立ち尽くす谷本は、右手に何かを握りしめ小声で呟いている。
「落ち着いて、落ち着いて、出てこないで、出てこないで」
謎の呟きに疑問を思いながらもクルルが谷本に声をかけた。
「何してるの」
一人だと思い込んでいた谷本は、クルルが居たことに驚き、肩を上げた。
「こ、こないで! また出てきそうなの」
谷本が深呼吸し、右手の何かを強く握りしめた。
しかし、再び魔力が谷本に集まっていくのをクルルは感じた。
クルルが谷本を落ち着けようと、近付いた時、その魔力波がクルルに襲いかかった。
「こないで!!」
「落ち着くの。しっかり魔力を制御するの」
魔力波の中をゆっくり進み、遂に谷本の元にたどり着いた。
クルルは魔力波を体に受け理解した。この谷本と言う女の子、全く魔力の制御が出来ていない。
魔力を集める力はあるが、その魔力に的確な指示が出ていないがために、魔力が暴走しているのだ。
「落ち着くの。魔力が暴走してるの。クルルが制御のやり方教えるから取り敢えず落ち着くの」
クルルが谷本を必死に落ち着けようとするが、魔力などと訳の分からない単語が出てきて混乱する谷本。
「魔力って何言ってるのよ! 私、取り憑かれてるの……先生がお祓いとか言うからこの子怒ってるのよ……」
もうどうしていいか分からない谷本はその場でしゃがみこんだ。
「こっち見るの。こっち見るの!」
クルルの呼び掛けに頭だけ上げ、クルルを見た谷本。
「しっかり見てるの」
今の状態で魔法が使えるか分からないが、谷本を落ち着けるためにやるしかない。
先程の魔力波を体に受け、少しはこの世界の魔力性質を理解できた。
「いくの」
クルルが右手を窓に向けて突き出した。発動するのは初級魔法のエアーシュート。
威力が出るか分からない。しかしやるしかない。
クルルが発動したエアーシュートは空気の塊となって窓ガラスに当たり、窓を揺らした。
谷本は驚いた。自分と同じく取り憑かれた人が居たことに。
クルルはがっかりした。少しはこちらの世界の魔力性質を理解できたと思っていたのに、全力の初級魔法があの程度な事に。
「クルルちゃんも取り憑かれてるんだ……クルルちゃん! この子の制御のやり方教えて下さい。もう回りの人に迷惑かけたくないの……」
急に立ち上がり、全力でクルルに頭を下げる谷本。
先程まで魔力が入り乱れていたのがス――っと穏やかになっていく。しかしクルルは、自分の魔力制御の不甲斐なさに落ち込むのであった。
「私は谷本歩実。歩実って呼んでね」
「クルルはクルルなの」
こうしてクルルは初の魔法経験を。
歩実は初めての理解者を見つけるのであった。
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