第十二話 お仕事時々お買い物⑤
銀座Sevenに入り、辺りを見渡しながら歩いているとすぐに三人を見つけることが出来た。
涼花もあの電話が嘘のように買い物を楽しんでいた。
「涼花。電話で焦っている様だったけどなんかあったのか?」
冴太はこの状況で焦ることが微塵も感じられないと思いながらも、涼花に電話の要件を聞いた。
「あっ冴太! ってルベルト君も一緒なんだ。良かった…………あ――冴太急いで来てもらって悪いけどもう解決しちゃったみたい」
テヘペロがこれ程似合う顔があるだろうか。冴太は喜ぶべきなのか怒るべきなのか困惑した。
「まぁ―良いじゃない。折角来たんだし買い物を楽しみましょ! 冴太はどっちの服がいいと思う?」
心につかえていた物が無くなり、涼花は買い物が急に楽しくなった。冴太は、涼花の笑顔を見て問題が無いのならいいか、と思うのであった。
「俺は服の事は全く分からないぞ。涼花と同じ感じで良いんじゃなか?」
涼花の手に持っている服を眺めながらも違いがイマイチ分からず、取り敢えず右側の服を指す冴太。
「流石冴太ね! 涼花、だから言ったでしょ。こっちのが良いんだって。ちょっと合わしてくるわ!」
そう言いシャーリーは涼花から服を受け取り、奥の方へ歩いていった。
「冴太はあんな感じなのがいいんだ。ふぅ~ん」
涼花は頷きながら他の服を物色しに行った。
「ルベルトはどっちがいいと思うの」
次はクルルがルベルトに意見を求めた。
「俺もあんまりわかんないぞ。でもこっちの方が動きやすそうじゃないか」
そう言い、ルベルトは左側の服を指差した。それを聞き、クルルは一言「わかったの」
と言い、右側の服を持って奥の方へ消えていった。
「ルベルト。女はどこの国も一緒なんだな」
首を左右に振り、軽く溜め息をついた。
「全くその通りだ」
ルベルトも冴太に合わせるように溜め息をついた。
シャーリーとクルルが更衣室に向かっている途中で、このお店の女性店員に声をかけられた。
「お客様、そちらのお洋服をご試着なさいますか?」
ルベルトと同じような黒い服に身を包み、まるで国王専属のメイドのような立ち振舞い。
「そうね。一度合わしてみたいわ! 気に入ったらそのまま着て帰る予定よ」
手に持っている服をもう一度確認するシャーリーとクルル。
「かしこまりました。今の衣装はこちらの籠にお入れください。そちらの衣装はお連れ様に渡しておきましょうか?」
早くコスプレを止めたいクルルは、この言葉に直ぐに答えた。
「向こうにいる黒いのに渡してほしいの。これ着て帰るの」
そう言いクルルとシャーリーは更衣室に入りカーテンを閉めた。
しばらくすると衣装が次々と籠に収められた。店員が頃合いを見て籠を持ち上げようとした時、驚きのあまり声を上げてしまった。
「おっっっっも!!」
コスプレするのも大変なんだなっと思いながら、コスプレ衣装の入った籠を引きずりながらルベルトの元まで持っていくのであった。
少し時間が経った後、シャーリーとクルルが着替え終わり冴太、涼花、ルベルトの前に姿を現した。
そこには白いVネックニット、グレーのチェック柄ミニスカート、黒いドレスシューズに身を包んだシンプルでかわいい服装をしたシャーリーと、黒のブラウスにワイン色のパネル柄ワンピースと黒のロングカーディガンを羽織ったクルルが立っていた。
三人は目を奪われ、一瞬の沈黙が流れた。しかし、その沈黙も束の間、涼花が盛大に褒め称えた。
「ちょっっと二人とも凄く似合ってるじゃない! 何々? モデルか何かなの? あの衣装であんまり分からなかったけど、スタイル良すぎでしょ! ね!! 冴太とルベルト君はどう思う?」
突然話を振られた男性陣だったが、思わず見とれてしまい言葉が出なかった。
「何見とれてるのよ。早く感想言ってあげなさい」
冴太とルベルトが背中を叩かれ現実に引き戻され、二人はポツリと呟いた。
「「かわいい…………」」
遠回しなど考える余地もなく、本音がポロリとこぼれた。それを聞いたシャーリーはみるみる顔が赤く染まり、手で顔を隠し蹲ってしまった。
昔から女の子らしい事などせず、男に混ざり剣の稽古に勤しんでいたシャーリーは、今まで本音でかわいいと言われたことがなかった。
領主にはかわいい、かわいいと、言われていたがあれはただ妾にするためのお世辞に過ぎない。
「なーに照れちゃってるのよシャーリーったら。本当にかわいいんだからいいじゃない」
シャーリーの肩を叩きながら顔を覗き込もうとする涼花だったが、シャーリーは勢いよく立ち上がり歩きだした。
「っさ! もうここに用はないでしょ! さっさと仕事しに行くわよ!」
全員に指示を出し歩き始めたシャーリーだったが、冴太の一言でその歩みを止めることになった。
「あ――仕事ならもういいぞ。なんか危なそうだし、放って置いてもなんとかなるだろ」
涼花だけ帰そうにも話を聞いた今、絶対一人で帰らないだろう。心配して着いてくるに決まっている。
もう昔みたいなのはごめんだ。それに最近知り合ったこの三人にも申し訳ないし、かといって一人で行ったところでどうしようも出来ない。
結果、放置するしかないのだ。
「えっ! そうなの? だったら今から何するの?」
仕事のやる気に充ちていたシャーリーは冴太に聞き返した。
「そうだな……朝から何も食べてないし飯でも行くか。涼花にもお詫びしないといけないしな」
冴太の言葉にいち早く涼花が 「賛成―!」 と声を上げ、四人は仕事の事など忘れ歩きだしたのだった。
冴太も四人の後に着いていこうと歩きだした時、店員から声がかかった。
「お客様、お会計はこちらになります」
そこには、ビックリするほどの数字が並んでいた。やっぱりあいつらに仕事をやってもらうかと、思う冴太だった。




