色とりどりの毒-3
「なるほど。
まるでアーサー王の剣ですね。数多の女子が挑んでも、この人を湿気た布団から立ち上がらせることは出来ない、という訳ですか。」
ブラックフォード先輩がプレゼントの山を積み木みたいに静かに組み換えながら誰にともなく言った。
わたしも立ったままなことを考慮して、布団の横へ二人分のスペースを開けてくれるつもりらしい。
気付いて、わたしはそこかしこに散乱した外国製のド派手なグミのパッケージを傍に有った適当なコンビニ袋へ入れていく。
それに対して何の反応も見せず、青汁か何かのCMをとろりとした目でひたすら見詰めている美野和センパイに不安を感じた。
何か声をかけなければ、一生そうしていそうな雰囲気に焦りも生まれる。
「あ。これ、賞味期限切れそうですよ!」
漸く部屋の中に二人が座れるくらいの畳の床が見えたころ、すぐ隣に積まれたプレゼントの柱の中から目に入った水色の包装紙に目が留まり、思わず叫んだ。
「――勝手に、食べて良いよ。」
少しの沈黙の後、美野和センパイが静かに呟く。
ブラックフォード先輩はそれを聞くなり、白く長い指先で器用に目的の箱を取り出した。
「日本橋のプラリネですね。いただきます。」
そしてそそくさと流し台へ歩いていって、半ば当然の様に台所を漁り始めた。
「な、何して、いらっしゃるんですか?」
わたしもその後へ続き、ブラックフォード先輩に声を掛ける。
「お茶を淹れようと思いまして。お茶が無いとお菓子が台無しでしょう?」
まるで外国映画に出てくるマダムのような物言いに呆気に取られながらも、そうだこの方はズバリ外国人だったのだと今更ながらに思い出して納得した。
「ところがどっこい、日本茶も紅茶葉も…ポットはまだしもヤカンすら有りませんねえ。」
……かと思えば、この、中年のオジサンくらいしか今時言わないような死語がいきなり飛び出してくるところ。わたしは思わず笑っていた。
「どうなさったのですか?――ああ、此処って本当にサイコパスのアジトみたいに奇天烈で、笑えますよね。」何かを誤解している先輩を否定しようと一瞬思ったけど、やめた。
「大体ですね、強烈なこの悪臭に耐えてテレビなんて見続けられます?
北海道展?穴場の人気グルメ?――この空気の中でそれ観るなんて、ほんと異常ですよ。」
声を潜めることなく悪口を言う先輩を咎めるべきかな…?と思ったけど、それもやめた。
「一体全体、どうしてこんなに臭いんでしょう?……まさか何かの死骸、っ。」
ブラックフォード先輩は言いかけて、しまった、という表情で硬直した。
その時だけ、一瞬美野和センパイを配慮した様に見え、わたしは漸く口を開く。
「あの、ですね…ちょっと、食べ物が腐ってしまったのがあって。」
言いながら、流し台の脇を指さした。
誰かが作ったのであろう、美野和先輩への差し入れ料理の数々や、手作りお菓子なんかを私がさっき詰め込んだゴミ袋が二つ。
半透明だから中身が食べ物であることは確認できる状態で転がっている。
「美野和センパイ、あんな感じだからあんまり食欲無いみたいなんです…だから、お茶も無いんだと思いま……っ!!」
わたし自身は何も悪いことをしたわけではないのに、まるで言い訳をするように小声でモゴモゴ言った。
しかしそのセリフを聞いたや否や怒りの表情を見せたブラックフォード先輩は、プレゼントの山を蹴散らして美野和先センパイの寝ている布団へ突進し、ヨレヨレのTシャツの首元を掴んで身体を無理やり起こすと、大きく振りかぶってビンタを繰り出した。




