夜の終わり。-2
「なぁに。」
甘やかな声が聞こえて、私は目を覚ました。
あ、れ?
思わず呼び捨てしてしまったような気がする。
「ごめんなさい、私……!!」
暗い部屋の中で、取り敢えず倒れたことを始め、
諸々の失言を謝ろうと私は飛び起きようとした。
―――が、それは叶わない。
暗闇の中で、全身ががっちり固まったように動かないのだった。
生まれて初めての金縛り、という言葉が頭に浮かぶ。
辛うじて動く頭を何とか横に傾けてみれば、手首が太い紐に縛られて何処かに繋がれているのが見えた。
見慣れないサイドチェストの影、私が普段寝ているのとは違うシーツ。
壁紙や天井は暗すぎて
窓があるのかどうかすら解らない、光が漏れていないから。
だけど何かの電化製品から漏れる明かりらしきものが
ぼんやりと広がっていて、物の陰を捕らえることは出来た。
嘘、ここは真昼さんの寝室?
でも、私は入れて貰ったことがない。
学校の男子生徒や教師は、あるのかもしれないけど
……お爺様も。
ああ、今はこんなことを考えている場合じゃない。
自分は誰かに拘束されている、でも、真昼さんがそんなことをする?
「真昼さん!!」
緊張感と恐怖がいきなり襲ってきて、私は叫んだ。
そうだ、さっき夢うつつの中、返事が聞こえたような気がする。
「真昼さん!!!」
もう一度叫ぶ。
声は出ている、念のため足を動かしてみる。
駄目、足も……縛られているみたい。
だから、誰に?
「ここよ。」
真昼さんの声がした。
何処にいるのかは解らない、けど
一先ず、心に平穏が訪れる。
「あ、私……助けてくだ…、じゃなくて、真昼さん、大丈夫ですか?」
こんな時、自分のことばかりなのが駄目なのかもしれない、
と思い直して真昼さんに聞いた。
「夜子ちゃんって、ほんと可愛い。」
そんな心中を見透かしたのか、からかうように真昼さんが笑う。
「わたしはねぇ、大丈夫じゃないみたい。」
「どういう事ですか…、誰か、部屋にいるんで、すか…!?」
しまった、こんな大声を出して。
別の人間がいるに違いないのだ。
強盗か、殺人鬼か、真昼さんは独り暮らしでお金持ちだし知り合いも多いから、
その可能性は大いに考えられると思った。
私も殺されるのかもしれない、恐い。
だけどそこでふと考える。
私なんて殺しても、犯人にとって罪が増えるだけなのに、と。
――――それだけだった。
どうせ、真昼さんは私から離れる未来しか想像できないし、
そうだとしたら幸せなんて、私には永遠に訪れないような気がする。
これから苦しい想いに苛まれることが約束されている上に、結末も最悪な人生なら
巻き添えを食らう形で
今、一思いに殺されたほうが。
「いいえここには、わたしたちだけ。」
ボンヤリ思いを馳せる中、真昼さんの声にハッと今の状況を思い出す。
なんだか思考能力が欠如しているようだった。
そうだ、私一人じゃなくて、真昼さんもいるのだから、彼女だけでも助かって欲しい。
「真昼さん、も、動けないんですか……」
取り敢えず、犯人がこの場にいないらしいことに安心した。
だけどリビングという事も考えられるから、声は潜めて喋る。
「……どう動こうか考えているところ。」
それに反して、真昼さんの声は大きく、よく響いた。
犯人は私たちを置いて、どこかへ出ていったということだろうか。
だとすると、確かにどう動こうか考えないと。
脱出するなら今しかないのかも。
何とか腕の拘束が外れないかと私はもがく。
「無理よ?」
私は真昼さんの声が聞こえてくる方向に首を曲げ
そして絶句した。
「真昼さん……」
どこ、これは、ナニ?
さっきまで何もなかったはずの目の前に急に現れたのは、
ドロドロの醜い物体だった。




