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弟・その一

 どうしたの、兄さん? 兄さんともあろう者が、こんな与太話を掴まされるなんて……。

 まともに評するのも馬鹿馬鹿しいが、兄に過ちに気付いて貰うために、この第一話とやらを読んだ感想をここに記す。忌憚のない意見を述べるので、我が兄には猛省して貰いたい。

 既に知られている通り、これまでの校閲作業において、性的な場面や残酷な描写が目に余る場合、私はばっさりと該当箇所を削ぎ落としてきた。だったら今回も、原話に見られる不適切な箇所を、外科医のように取り除けばいい――と思うだろうが、ことはそう単純ではない。

 人々の倫理観や道徳観、貞操観念に至るまで、時代とともに劇的に変化するのは、間々あることだ。昔話を取り巻く環境も同様で、話の中に現れる価値観が現代のそれから乖離していても、何ら不思議はない。大事なのは物語の本質なのだ。本質さえ真っ当な物語であるなら、時代性をほんの少し補正してやるだけで、現代人にも無理なく受け容れられる内容となろう。

 ところが、この与太話ときたらどうだ? 低俗さが猛々しく雄叫びを上げて、全篇に漲っているではないか。下卑た笑いを誘い劣情を煽る他に、狙いが窺えない。本質そのものがどうしようもなく腐れている。一部に不適切箇所を含むのではなく、全篇これ、不適切の塊であるから、問題の箇所を切除するのは即ち、人間で云えば五臓六腑をごっそり、抜くようなものだ。

 一応、枝葉末節にも言及しておく。昔話とは空想の産物であり、必ずしも物理法則に捉われる必要はない。だが、虚実を一緒くたにすると、読者の没入体験を阻害する恐れがある。《亜光速》や《遺伝子情報》などの面妖な語句と、古代ギリシアに実在した刑具の応用だろう《ファラリスの小屋》が同列に並ぶのは、その好例である。登場する銃器にしても、既存のものか空想のものか、俄には判じ難い。読者に『これはないだろう』と思わせては、折角の空想旅行が台なしである。魅力的な幻想世界を構築するには、細部へのきめ細かな心配りが肝要なのだ。

 ともあれ、最大の問題点は品格だ。仲間を次々と葬り去る男の動機が、悪魔的に惹起された色欲だったとは、如何わしいにもほどがある。また、諸悪の根源たる王女は、主人公の仲間とも交わっていたのだから、破廉恥の極みとしか云いようがない。ただ一人、王女とは没交渉と思われた男もやはり交渉を持っていて、それが仇となり王女が自滅してゆくという皮肉にして滑稽な結末に、思わず吹き出してしまった我と我が身を、私は、深く恥じ入る次第である。

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