兄・その二
ある日の昼下がり、自宅の中庭にて。抜けるような青空の下、心は……。
「――ただ、やっぱり、無修正で新版に収録する訳にはいかないよ、兄さん」テラス・テーブルを挟んで向かいに座る弟が、申し訳なさそうな顔をして、しかしきっぱりと、そう云った。
弟の云う通りだった。兄は唸るしかない。学術資料なのか児童書なのか、どっちつかずの中身と酷評され、あまり売れ行きの芳しくなかった第一版の反省に基づき、第二版は格段に親しみ易い、即ち、大いに子供受け、家族受けする内容にするのが、版元から出された絶対条件だった。こんな、読者を困惑させるだけの代物を持っていって、彼らが首を縦に振る訳がない。
「ねえ、現実的な話をしようよ」黙ってしまった兄に、弟がそう提案した。「締切はもう、間近に迫ってる。時間がない。第一版から削除予定の一話と差し替える話を今更、何処からか探してくるなんて、無理な相談だよ。僕の体が丈夫だったら、兄さんと二人でぎりぎりまで駆けずり回るけど、兄さん一人じゃ限界ってもんがある。我が家まで足を運んでくれる、第一版の時にお世話になった取材源の常連さんも、とりあえず今はネタ切れで、すぐに仕入れられるものでもないらしいよ。だったらさ、兄さん、やれることは自ずと、限られるんじゃないの?」
大幅修正か……。今度ばかりは、決していい考えとは思えない。取材源は無修正に拘泥している。さもなくば収録を許可しない、などと鼻息も荒い。兄は、青天を仰いで長大息した。
「勿論、小手先の技は使えないさ」兄の苦悩を知ってか知らでか、弟が云った。「だから僕は、大鉈を振るうつもりだよ。兄さんには何とかして、例のご婦人を説得して貰いたいんだ――」
取材源のご婦人を説得する方法につき、弟は兄に委曲を尽くして説明した。それは、聡明な弟の発案とは思えない、実に捻りのない一手だった。とはいえ、よい代案がある訳でもない。
ええい、儘よ。学究肌の自分が石頭であれこれ悩むよりも、頑固だが、これで意外と世故に長けた弟の企てに、ここは一つ、乗っかってみよう。駄目だったら、その時はその時だ……。




