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 今日は休みだ。たっぷり寝て起きてスマートフォンを起動してみる。たっぷり寝ていた私と違いアリヤはどうやら朝から忙しなく動いているらしい。

 何だか申し訳無い気がするが私に出来る事もなくアリヤの邪魔をするまいとそっとスマートフォンを伏せておいた。

 この前初めてお客様がやって来た。町の事情で寝る所が無くなってしまった娼婦の女性達だ。どうもあの日からアリヤ達を気に入ってくれたらしく、時折彼女達が訪れて客から貰ったと言う焼き菓子などを片手に食事を一緒にしたり仲を深めている。

 仕事柄様々な話を聞くらしく、貴族が出てまた家が元通りになったのはいいが今回のような事が続いて家主でもある男性がここを娼婦の家にするより民泊にでもした方が儲かると判断された場合、いよいよ帰る所が無くなるかもと溢していた。

 民泊ってそんなに儲かるだろうか。

 そもそも本来娼館として営業許可を貰っておらず借りている家に招いて体を売っているらしく、メアリ達はなかなかグレーゾーンな事をしているらしい。

(望んで…と言うか、あの口ぶりだと生きるために、仕方なし…アリヤの言う通りにこっちで言う昼職に就ければいいかもね)

 そう思いながらアリヤの世界である物で可能な限りこちらのビジネスホテルのように近付ける物を探す。


 リリナは今日お仕事はお休みらしい。彼女曰く本当に久し振りに休みに午前中に起きたらしく朝には弱いのだと笑っていた。

 まだ三部屋しかない泊まれる部屋に足りない家具を購入するために考えており、リネン類を取り敢えず今ある布をつなぎ合わせてパッチワークにしてみるとミアから大きな拍手を貰った。

「流石です!お嬢様!」

「花嫁修業だと言われてやった事がこんなところで役に立つとはね…」

 礼儀作法や刺繍に音楽…貞淑な乙女になるためにと教わった。それが今こうして力を発揮したのを嫌だが家族に少しだけ…本当に少しだけ感謝した。

「取り敢えず…これを使いましょう」

「寝れる部屋が四部屋に増えますね」

「統一感が無い部屋ばかりだけど…」

 家具は共通しているが寝具は色がバラバラである。今回出来た部屋に至ってはパッチワークでカラフルなベッドが出来上がった。


“え?ならお子さまと一緒に泊まれる部屋にしちゃえば?”


 ミアと離れてリリナに話すとそう言った。

「お子さまと?」

“小さいお子さまとお泊まり部屋。アリヤ裁縫出来るんでしょ?”

「一応出来るわ」

“まだ使えそうな布はある?”

「あるわ。破けてしまってるけど洗えば綺麗な生地の」

 カーテンに使っていた生地がまだある。

“綿は?”

「確か…これも中身が出てしまったから捨てようとしてたクッションがいくつかあるから」

“ぬいぐるみ作れる?”

「出来るわ」

“じゃあぬいぐるみ作って、置いて…あ、男の子でも遊べるように積み木とかあればいいな”

「積み木?」

“木で出来た玩具だよ。色んな形を組み合わせるの”

「…作れるかしら…」

“確かに…木を切らなきゃいけないしね…”

 作れる物から作ってみよう。

 このホテルの部屋に統一感が無い事もそれも魅力の一つだと言う。メアリ達が喜んだ部屋のように今度は小さな子どもを連れた家族が楽しめるような部屋もあるのが良い。一人一人の希望が叶うようなそんな部屋がいくつもあってといいと話す。

 現にリリナの世界の部屋は一人部屋、二人部屋、三人部屋。体が不自由な方への部屋?どうも段差などが無い部屋らしい。

 時には期間限定で漫画やアニメとのコラボレーションの部屋があり、その部屋はその漫画、アニメ好きにはたまらない好きで溢れているらしい。

「…漫画やアニメのこらぼ…?」

“私の世界の娯楽と言うか?”

「へぇ~?」

 想像がつかないがそんな様々な部屋があるのは魅力的だろう。

 カーテンの生地を切り、縫い綿を詰めて刺繍で顔を作る。

「…出来た」

 まずは熊のぬいぐるみを一つ。

 今度は体の形はそのままに、でも耳は長く作りリボンを着ける。

「よし」

 うさぎのぬいぐるみの完成だ。

 更に今度は三角耳を、顔には髭の刺繍を入れていき気まぐれな性格が出るように作り上げた。

「いいわね」

 猫のぬいぐるみが出来上がる。

「…それと」

 ここからは個人的な物。

 真っ白な生地にふわふわな体は表現しきれないが、彼のいつも無邪気な顔と時には守る騎士のような凛々しい顔を作り上げる。

 ジャスのぬいぐるみの完成だ。

「見て!リリナ!」

“…うん!すごいね!”

 完成したぬいぐるみを並べて見せるとリリナは何か食べながら見て驚いていた。

“お店で売ってるのと変わり無いよ…これは最高!”

「ふふ、無心になれるから裁縫好きなのよ」

“…ところで”

「ん?」

“…もう夜になるけどお腹空かないの?”

「…え?」

 始めた頃にはまだ昼になったばかりなのにと首を傾げると空はすっかり暗くなりいつの間にかランプが点いていた。

“ミアさんが点けてたよ。全然気付かないもんだから…”

 声はかけようとしたけど、あんまり集中してるから止めたみたい。

「あら…そうなのね。こんなに時間が経ってるなんて…お腹空いてきたわ」

“ご飯食べなよ。私も食べよう”

「リリナは何を食べるの?」

“私は冷凍食品の唐揚げ~”

「唐揚げ…?」

“鶏肉を味付けして油で揚げるの”

「へぇ。そんな料理があるのね」

“美味いよ”

「作り方教えてね」

“うん”

 出来上がったぬいぐるみを置いてミアの元に行くと丁度夕飯が出来上がっていた。塩で味付けされたスープにいつものパン。後はまたいつも通りのオレンジだ。

「お嬢様。お裁縫は終わりましたか?」

「ええ。取り敢えずね」

「ぬいぐるみを作られてましたが…?」

「それなんだけど…あのパッチワークの部屋をね。小さな子どもを連れたお客様専用にしようと思うの」

「あ、だからぬいぐるみを?」

 話しながらスープが冷めない内に夕飯にする。リリナの提案を貰い、あの部屋を子どもが喜ぶような部屋にする事にした。

 また、ぬいぐるみ以外にも楽しめるような玩具を置きたいと話し、そこでリリナの言っていた積み木の事を話す。

「なるほど…木で出来た玩具ですか」

「私もまだきちんと形を想像出来ていないけど…」

「しかし…形が出来たとしても、誰に作ってもらいましょう」

「…それよね」

 自分達で、作るのは難しい。

 ただ木を切ると言っても均等に形を整えたり怪我をしないように作り上げるような技術は私達は無い。

 このまま人形のぬいぐるみを作り…となると喜ぶ対象が女の子のみになってしまう気がする。

「まあ、私が作れるようなら作りますよ?木を切れば良いんですね?」

「…ミア、道具が無いわ」

「…確かにそうですね」

 一度考えるのを止めて夕飯の食器を空にするとその日は久し振りに甘い焼き菓子を食べて甘味に幸せを感じながら眠った。


 リリナが言う積み木とは四角、三角、丸といった様々な形の木を組み合わせて子どもの想像力を養う事が出来る定番の玩具らしい。色を着けて鮮やかにしたり木のぬくもりをそのままにした物もある。

 子どもの手にも収まるような形となるとやはり難しい。

「アリヤ?」

「うん…」

 メアリが遊びに来てくれているが頭の中ではお子さま専用部屋への考えで頭が一杯だ。

「ミア…随分悩んでるみたいね」

「そうなんですよ。今新しいお部屋を作ってる最中なんですが…」

「へぇ~どんなお部屋?」

「小さなお子さまと泊まれるお部屋なんですが。そこにお子さまが楽しめる玩具を置こうとしてまして」

「子ども専用?斬新ねぇ」

「ぬいぐるみとかは作ったんですよ…でももう一品」

「積み木って言うのを作りたいのよ」

「積み木?」

 不思議そうに首を傾げるアリヤに説明する。玩具と言ったら木で出来た人形などが多い中で随分とシンプルな形の玩具にメアリは考えるような仕草を見せて話す。

「私のお客さんに大工さんがいるのよ」

「そうなの?」

「廃材や何かでこう言うのが作れないか聞いてみようか?」

「いいの?」

「大丈夫ならお礼にご飯を食べさせてくれない?セイラとエリザも呼んで」

「勿論!お願いするわ」

「詳しく紙とかに描いてもらっていい?」

「待ってて」

 紙にリリナから聞いた積み木の玩具を描き、メアリに渡す。

「こんなんでいいの?」

「ええ。でも…」

 子どもが使う物だから危険が無いように角を丸くしたり刺が刺さらないように加工して、口に入れては危ないので色などは着けないようにと紙に加えておく。

 後はメアリに任せてそのお客様である男性に作ってもらえばいいのだが。

「他にも部屋の事を考えないと…」

 リリナに頼るばかりではなく自分でも考えないといけないとは思うが、文字通りに住む世界が違う彼女と出す話は魅力的である。

 一人部屋。お子様と泊まれるお部屋。

 後は…どうしよう。使用人達専用の部屋だろう。ベッドが複数置かれた部屋がある。これをこのまま使うとなると、町にある宿泊場と変わらないような気がする。

 着替えも寝る姿もそのまま赤の他人に見られるのが抵抗があるならせめてベッドをカーテンなどで区切って少しでも自分の空間を確保出来ればと思うが、そうするとその自分の空間と言うのがベッドしかなくなってしまう。流石に狭いだろうか。


“カプセルホテルみたいだね…?”

「かぷせる?ホテル?」

“アリヤがやってる事、スペース区切って何とかプライベートな空間を確保する。でも狭い”

「そうなの…ベッドスペースぐらいしか」

“いいんじゃない?こっちもあるよ似たようなホテルが”

「え?」

“今度泊まって見せるよ。こう言うのは見るが早い”

 リリナの言うホテルが何なのか想像がつかないが次のホテルステイはその“カプセルホテル”とやらにしてくれるらしく、話は終わった。


「アリヤ!」

「メアリ!セイラにエリザも!」

 メアリと積み木の話をしてから少し経った後に三人揃って来てくれた。

「こんにちは。お茶しに来たわ」

「私も」

 セイラとエリザが笑いながらそう言って持っている籠の中に入っていたパンが入っていた。

「ねえミア?前に食べたマヨネーズと卵を挟んだパン作ってくれない?」

 エリザが手を合わせながらミアにそうお願いする。セイラも同じお願いらしく無言で頷いている。

「あなた達…ここをカフェか何かだと思っていません?」

「そんな事無いわよ?友達がいてかわいい騎士もいる癒しの場所よ?」

「いいじゃない?それにこれもあるのよ?」

 そう言ってメアリが見せたのは私が描いた通りに作られた“積み木”の玩具だった。

「…素敵!理想通りだわ!」

「お客さんが不思議そうにしていたわ?こんなのが必要なのかって?」

 子どもの玩具にするって言ったらお前結婚?妊娠したのかと怪しまれてしまい、友達が欲しがっているからと誤解を解きながら頼んだらしい。

 要望通りに綺麗に整えられた木の玩具は触っても危険が無いように角が丸くされて木が刺さるような事はない。

「本当にありがとう…お礼をしなくちゃね」

「うん。だからお願いね」

 持参したパンを差し出してメアリ達はお願いする。

「まったく…作りますから手伝って下さいね?」

 ミアがセイラとエリザに向かってそう言う。

「え?」

「お願いしてくれたのはメアリでしょう?セイラとエリザは何かしましたか?」

「パンを買ったわ」

「手伝いなさい。マヨネーズ一から作って…卵を茹でて…卵まだありました?」

「少しなら」

「無かったらマヨネーズと野菜のみ挟みます」

「それでもいいわよ」

 ミアの後ろをセイラとエリザが着いていく。出来上がるまでにメアリの協力を得て作った積み木をお子様部屋に持って行きこれで一応完成にしておこう。

「あ、そうだ」

「ん?」

「こっちに来てもらえる?」

「何?また何か素敵な部屋が出来たの?」

「まだよ、まだ」

 屋敷のバルコニーにメアリを案内してある物を見せるとメアリは驚く。乾燥してしわしわになったオレンジがそこにありこれは何を考えてこうしたのかと目で尋ねられた。

「…オレンジのドライフルーツ」

「…ドライ…フルーツ」

 何故瑞々しい果実の瑞々しさを奪うのかとまた目で尋ねられた。

「保存食として作ってみたの。あとお茶が無い時にこれを入れてお湯を注げば香りと味も僅かにするのよ」

「へぇ~?よく考え付くわね」

 リリナに教えてもらったのだ。何でもデトックスウォーターとか何とか言っていたが私も始めは半信半疑だったが意外と悪くはないのだ。

「メアリ達にも飲んでもらいたいのよ。オレンジは本当にたくさんあるし…保存が効くなら部屋に置いて楽しめるようにしたりお土産に持たせてもいいと思って」

「なるほどね……サービス過剰過ぎない?大丈夫なの?」

「元手がかからないからね…」

 腐る前に何とかしたいのだと、リリナに相談した結果である。

 その後、オレンジのドライフルーツを浮かべたお湯を見てセイラは綺麗だと喜びメアリとエリザは半信半疑のまま飲んでみたが味は薄いが確かに悪くないと言っていた。


“ほらこれがカプセルホテル”

「……蜂の巣?」

“確かにそうは見えるか”

 カプセルホテルが何なのか、リリナが泊まり来ているホテルの様子を見せてもらうとそこにはたくさんの小さな空間があり、そこに入ると大人一人が横になれるスペース、明かり。寝具。

 寝て過ごすための必要最低限の設備があった。カーテンのような物で入口を閉じるとプライベートな空間を完全に確保出来る。

「…本当に寝るためだけに用意した場所って感じね」

“ホテルのシングルルームよりは狭くて必要最低限の設備だから…泊まるお金は安く済むんだよね”

「ちなみに殿方と共同?」

“ホテルによりけり、今日のホテルはレディースルーム。女性専用だね”

「なら安心ね」

“だからベッドたくさんの部屋はそうしちゃえば?今考えてるみたいにカーテンとかで区切って見えないようにしてさ。そんで料金は一人部屋よりやすくするの”

「カーテン…天蓋を付ける…のは難しいわね」

 頭の中でイメージする。ベッドのベッドの間にカーテンか何かを付けて見えないように確保する。もしくは衝立を作り設置する。

「使ってない棚がいくつかあるから…それを置いてみようかしら?」

“見えないようにすれば何でもいいと思うよ?”

「そうね…あら?リリナ?その箱は何?」

“これ?金庫だよ。大事な物とかは自分で管理するから財布とかはここに入れておくの”

「なるほど…」

 力仕事がいるが壁と言うか、目隠しになるような棚を設置しよう。後は貴重品を管理するための金庫を設置して安く泊まれるカプセルホテルにする。


 女二人で家具の移動は出来るのか。これがそこまで難しいものではなかった。過去に本や様々な物を収集して飾っていた棚は空で数は多いがそこまで大きい物でもない。ベッドとベッドの間に設置して寝ている姿が見えないように壁を作る。足りない部分は不要な布で補いベッドを囲うようにしてこれで一部屋だ。

「一応これで見えませんね」

「着替える姿や寝ている姿は見えなくなるものね」

「こっちを女性専用にして…まだありますからそこは男性専用になさいます?」

「ええ。同性だけの空間は気が楽でしょうね」

 後は壁にしている棚が空っぽだと寂しいだろうと思いドライフルーツならぬ、これもリリナに教わったドライフラワーを飾りひたすら集中出来るためまた不要な布と綿で作ったぬいぐるみを作成して棚に飾る。

 これで一応完成と言う事にしておこう。


 それから少ししての事だ。

 城下に来ていた貴族達が親交のための交流を終えて戻る際にまた、この町に寄るため来る時ほどの賑わいは無いが…再びメアリ達が家を追い出されて泊まりに来る事になった。

 彼女達はもう二回目の宿泊であり、今回も気に入ったと言う一人部屋への宿泊を希望した。前回言っていた感想にあった隙間風は実際に私達も泊まり、隙間風が吹いている部分を応急処置として町で買った粘土で埋めてみた。そこの部分が他の壁の色が違うためにこれまた町で安く売られていた額縁で隠すことにした。

 そのお金は前にセイラとエリザの二人から受け取った物だ。

「でもまだ体を洗う場所が整っていないのよ」

「そうねえ…すぐには出来ないものね」

「体を洗うためのお湯と、その下に敷く布を用意したから前回ほど気にしなくていいから」

「分かったわ」

 慣れた様子で部屋に入るが三人とも顔が綻んでいた。仕事が休みになってしまったが、それを理由にここに泊まれる事が嬉しいらしい。

 明日はまた喜ばれるような朝食を用意しよう。


 そう思っているとジャスが吠え出した。

 驚きミアと一緒に向かってみると、畑の中でぼろぼろの服を着た親子が野菜を貪っていた。

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