“ユーザーの皆様へ”
それはもうとんでもない事になっていた。
何せおめでたい場だと思っていたら険しい表情の兵士にまさかの王弟殿下がいらして主役の一人を連れていくと言う事に。
そこで露呈したのは行方不明の理由は平民の娘との駆け落ち。
そして行き着いた先で行ったのは違法な宿の経営。
更にそれだけでは終わらずにその違法な宿の経営のせいで命を落とした人間が多くいる事。
家族もその事実を知り隠して何食わぬ顔でいる事は大問題となった。
兵士に連れていかれる時にルルアはディンに責任を押し付けようとあたしは何も知らないと叫んでいたがあの宿で働いた者の証言も集まり二人は同罪だと分かっていた。ディンもまた、俺はただ宿の経営をしていただけで勝手に平民どもがやっていたと大声で叫ぶがそうだとしてもあんなに人が死ぬまで放置していたのなら罪は重い。そう言われて項垂れた。
ディンの家族はこの事を隠そうとしていたのみで貴族としての地位は剥奪のみで終わると思っていたが、異国の人間も被害にあっていた事で事態を重く見られて貴族としての地位の剥奪に加えて流刑にもなった。
ディンとルルアは極刑になってもおかしくはないが、牢獄の中で寿命が尽きるまで弔いを続けるようにとなり死ぬまで獄中だと。
私はその様子をミア達に淡々と伝えた。
「終わりましたね」
「そうだね」
「…因果応報、でしたっけ?」
“うん。そうだね。そうなったね”
その場にいなかった彼らに細かく様子を伝えていくとてっきり極刑になると思っていたため死ぬまで獄中と言う結果に驚いていた。
「…ディン様、いや…ディンさんは幼い頃を知っているとこうなるとは思えませんでした」
我が儘で自尊心が高い部分はあるが、それでも貴族の嫡男として頑張っているように見えた。
「でも、思い返してみれば…ディン様よりお嬢様が優秀だったのです。お嬢様はそれを指摘されてからディン様の後ろに下がるようにしていましたが」
それはあの男ももしかしたら気付いていたのかもしれないと、ミアは言う。
そして段々とコンプレックスが強くなり、そこに現れたのがこう言っては何だが何も知らないルルアと言う女だ。
何も知らない彼女に何でも肯定されていき、自尊心が満たされて惹かれていく。そして自分のためにも彼女と一緒になるために駆け落ちした。
「それで終われば良かったんだ。それで…」
「小さな町で…ひっそり暮らせば良かったのに…それが出来なかったんですね」
「…ご実家から金品を取って二人で逃げて…ルルアに不自由させないようにとしていたらすっかり贅沢を覚えてしまったらしいわ」
捕まり何故こんな事をしたのか事情を聞かれているらしく、本来漏らしてはいけないその内部事情は口に戸を建てられない人によって流れてくる。ミアも買い出しに行った際にこの話を聞いたらしい。
「贅沢を覚えて、自分は選ばれた人間だと勘違いして」
“そうして結局人の命を軽視した。でも善良な人間ならそうなる前にブレーキがかかるのにあの二人はかからなかった”
だから、元々そう言う素質があったんだよ。
小さな悪い事一つでずっと罪悪感を感じる人間もいれば、どんなに悪い事をしても自分のためなら何ら罪悪感も生まれない。
「直接手を下してないとは言え、罪は重いでしょうね」
ロアがそう言ってため息を吐く。メアリも黙って頷きそれ以上は何も言わないでいた。
「…あの」
“ん?”
「ディンさんとお嬢様の婚約はこれでもう無くなりましたが…お嬢様のご家族は…」
“あぁそれね”
「まさかまた変な男と婚約させようとか…」
“大丈夫だよ!今日…アリヤとアレックスの二人いないでしょ?”
「ええ…用事があるって…」
「…それって…」
“うん。アレックスとの婚約の報告”
「家族にわざわざ報告するの?大丈夫?」
絶縁して絶縁撤回して娘を道具扱いする家族にわざわざと顔をしかめるメアリに笑いかける。
“それがね…聞いて下さいよお姉さん…”
「な、何よ…」
王様。どうぞこちらを。
これは…何か?
実は私の側近のクラウスが王様のためにとお作りになられた特別な物でして。
私のために?それは嬉しいな。
どうぞ…何でも王様の新しい目となってくれますでしょうと。
私の新しい目?
王弟殿下から報告を受けた。
アレックスに材料を集めるのに協力してもらいアリヤのデザインを加えて、そしてリリナの世界の知識を合わせて作ったその特別な眼鏡は王様は想像以上に気に入られたそうだ。
視界が段々と悪くなっていた事、虫眼鏡などを使い日々の王としての仕事をこなしていたがこれはいいと喜ばれていた。アリヤのデザインも王様の好みに合っており素晴らしいて褒め称えていたと、大成功だ。
これを作ってくれた者に、何か褒美を与えないと私の気が済まないと王様がおっしゃってくれたので初めて王様の御前に来られたクラウス叔父様は少し緊張しながらも申し上げた。
「…は?」
「おや?聞こえませんでしたか?」
それではもう一度申し上げましょう。
「この国の王より許しを得まして…私、アレックス・シオールはこの書面にあるように貴族階級が上がりまして…」
王が大変ご満足いただけた物を頂けた褒美にとクラウス叔父様が申し上げたのは勿論アレックスのこの国での貴族としての階級を上げて、私との結婚にたいして私の家族が何も文句を言えないようにする事。
「そこでお嬢様との結婚をお許しいただきたくこちらに参りました」
「…そ、それは大歓迎です!」
「まさかアリヤにこんな素晴らしい縁談が来るなんて!」
「あの犯罪者と結婚させないで良かった!」
あぁそれならあなたのホテルもこれから私達の経営に任せて頂戴?
一騒動あったけど…おかげで名前が広まってとても繁盛しているって?ならそろそろ黒と金の看板を下ろして私達のホテルのように…。
「いいえ。そうはしません」
「何故?私達に任せていいんだぞ?結婚したら女は家庭に入るもんだ…アレックスもそう思うだろう?」
「いいえ。俺はアリヤにはホテルの経営を続けてほしいです」
欲しい反応と違うものが返ってきたため私の家族はあからさまに顔をしかめた。
「…アリヤ。あなたは貴族の娘…ようやくその貴族の娘としての幸せが得られようとしているのに何をそんな…」
「お前のホテルなら俺に任せておけ?お前よりもずっと経験がある」
母はため息混じりに話し、兄は自分が経営する事を当然と言わんばかりに話す。私はそれに首を振り断りますます家族は不機嫌そうだ。
「私のホテルは私の物です。決してあなた方に渡さない」
「…アリヤ。無理を言わないの。所詮女が経営をするなんて」
「お母様は諦めたらそう言うんです。本来私には様々な生きる道があるのに世間に国に…押し潰されて生きる道が結婚の一つしかございませんでした」
「それが何の不満なの。女は結婚して家庭に入り子どもを生む。それは女しか出来ないわ」
「それは全てがそうでしょうか。道が一つしか無いために望まぬ結婚望まぬ出産が影に隠れているのです。その道に進まずとも自分らしく…生きる道があると」
「出来る訳がないだろうが」
「現実を見なさい」
「あなたには不可能」
「いいえ。出来ます」
「アリヤには出来ます」
私を否定する家族に初めてはっきりと反論した。ここで私の声が響いても響かなくても構わない。私には私の生きる道を決める権利があるのだ。
「…アレックス!お前はこんな女でいいのか!」
「むしろこれだから好きになったんです」
「仕事にかまけて家庭を疎かにするかもしれないぞ!女として…妻としてそしたら価値が無い!」
「皆様がアリヤの価値を決めないでほしいですね。俺は、アリヤの仕事をする姿、自分の生きる道を自分で切り開いたその姿が好きなんです」
「そんなの…!」
「自分を圧し殺してまで家庭に入るなんて、それは結局本当に幸せなのか?」
首を傾げながらアレックスは言う。
「幸せそうに見えたとしても…俺は愛した女が自分を圧し殺してまで生きる姿は見たくないですね」
だからアリヤには今のままで。
彼女の望むようにホテルの経営を、平民でも兵士でも王族であっても誰にでも開かれているそのホテルをいずれ形するために。
「夫婦と言うものは支え合うものでしょう?俺はアリヤをアリヤには俺を支えてもらい手を取り合い同じ目線で共に生きていきます」
「お父様、お母様…お兄様。そのために私達の邪魔をしませんように…」
取り出したるのは一枚の書類。
その内容には今後、私達のホテルには関わらず家族としての縁は永久に切る事を約束するように書かれている。
その内容にも驚いているが、何よりもその書類には王様のサインがある。
つまりこの書類にあるお願いは王様からの命令でもあるのだ。
「…絶縁?」
「ええ。二度目ですね」
今度は私からですけど。
「待ちなさい!あなた、家族を捨てるの!」
「育ててやった恩を忘れるのか!」
「…何を言いますか」
あなた方は私をもう捨てたじゃないですか。
保管している過去に送られた絶縁状を見せると家族は一瞬怯むがすぐにそんな過去の事を、今はもう元通りの家族だろうと言い始めるがアレックスが指で書類を叩き早く完全に絶縁するためにサインをしろと急かす。それに私の家族は睨み付けるが静かに答える。
「王の命令に逆らう気ですか?」
「……!」
そもそも何で!こんなのに王の名前が!
それなんですが…王様へとある品物を献上させてもらったところとても気に入って下さって。
はあ?何だそれは?
私がデザインして。アレックスが材料を集めてクラウス叔父様が献上して下さったんです。
あの…レーゼ家の軽薄男…!
その献上品のお礼にと…アレックスの地位を上げて下さりその書類のサインを下さったのです。
叔父様は私の婚約破棄されてからの事を王様に話して下さったそうです。それを聞いた王様は私の苦労に感銘して下さりお名前を貸してくれたのですよ。
「…ですので早く」
「私達、王様を味方にしてますの」
そう笑って言うとこちらを睨み付けながら家族は今後私達のホテルに一切関わらない。永久に縁を切ると言う事を約束してくれた。
それが済むとさっさと馬車に乗り込み私達は皆が待つホテルへ帰って行った。
私のホテル。
私の家。
私の居場所。
早足で戻り扉を開けると皆が待っていた。リリナが何故私とアレックスがいないのか話してくれたらしく、不安で落ち着かないままに待っていたところ帰って来た私とアレックスは何とも晴れ晴れとした表情をしていた。
「…全部!終わったわ!」
心配の種はもうどこにも無い!
そう言うと皆声を上げて喜んだ。これでもう誰かにこのホテルを脅かされる不安はどこにも無いのだ。
それを約束した書類を見せて更に喜びアレックスは私を抱き上げてくるくると回し、事情はよく分からないが何だか皆が喜んでいるので笑っているシャーリィも父のロアに抱き上げられてくるくると回っていた。
「どうしよう!今日のお客様!皆無料で泊めちゃいたい!」
「気持ちは分かるけどやり過ぎだな!」
「だったら本日宿泊されるお客様には特別なおもてなしをしましょう!」
「どんな?どんな?」
「テーブルに乗せきれない程のご夕飯を無料で差し上げて!大浴場も今日はたくさんのお湯に花びらでもたっぷり浮かべましょう!」
「最高よ!」
「今日は記念日よ!」
事情を知らないお客様はきっと困惑するだろうけど私達と共にこの喜びを受け取ってほしい。
慌ただしくなる中でこんなにも喜ばしい気持ちでいれらたのは恐らく、生きていた中で初めてだ。
「…良かったー!!」
私はホテルの部屋で祝杯を上げた。アルコールを掲げて飲み込んでいく。
一時はどうなるかと思ったがやってくれたぜ。私も協力は協力したが…それを行動に出してくれたのは間違いなく彼らだ。
アリヤとアレックスの二人が夫婦となってこれから一体どんなホテルが築かれるのか楽しみで仕方ない。そうだきっとアリヤの家のホテルを越える程の評判を得られるのかもしれない。
私はその過程を見守り…。
「ん?」
起動したままのアリヤの世界がいつの間にか閉じられている。もう一度起動しようとすると今まで見たことの無い画面になりそこには私が青ざめる内容があった。
“ユーザーの皆様へ”
“日頃よりご愛顧いただきありがとうございます。”
“誠に勝手ではございますが、本アプリは○月○日を持ちましてサービスを終了させていただきます”
「…え?」
アリヤ達の世界が無くなるの?




