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こっちはこうだよ

 クラウス叔父様がやって来てくれた。スカーレット様も一緒に来てすぐに私を呼んでディン様を呼べと見た事の無い表情で言う。

「ニール、クリシュナ、お願い出来る」

「「はい」」

「…あの二人誰?」

「アレックスの従者です」

「頼れる双子です」

「そうか…そう言うなら信頼出来るな…ところ君も誰?」

「アレックスです。アリヤからお話は伺っております。クラウス様」

 ディン様とそのご両親とは面識はあったがクラウス叔父様ては初対面らしく、異国の商人の息子で階級は低いが一応貴族であり現在は私の元で経営に関する技術など学ぶために働いていると、説明をする。

「あぁそうか…信頼出来そうな顔つきだよろしくな」

 二人は握手を交わして挨拶をしたが、叔父様はすぐに現状に悩みに悩んでいるらしく小声で不満を呟いている。

 それにしても兄貴は何を考えているのか、息子に反省させるどころか婚約を復活させるなんて…大体経営していた宿を見ればアリヤと二人で共同経営なんて出来る訳が無いだろうと叔父様は頭を抱えて呟いている。その傍に座り叔父様を宥めているらしいスカーレット様は私の変化に気付き指を差す。

「それどうしたのぉ?」

 スカーレット様は左手を持ち上げて私の左手薬指に光る指輪を見て言う。それに叔父様は目を見開いて頭を上げてその光る指輪を凝視する。

「まさか…ディンが?」

「違います。俺です」

「え…?」

「俺が贈りました」

「…ん?え?」

「まぁその…そう言う事なの…」

「どういう事?」

「叔父様は…ディン様が私との婚約を復活させた時に公認の愛人も連れてきたのはご存知?」

「ご存知じゃねぇ!?」

 あいつ何してんだ!?と声を上げて驚く。

「王様ならいたわよねぇ?公認の愛人…あなたの甥は王になったのかしらぁ?」

「そんな訳無いだろ」

「表向き私が妻で…でも駆け落ち相手と離れたくないから愛人と言う形で」

「貴族の社交場でバレたらそんなの顰蹙食らうぞ?」

「それも分かってても離れないんですよね」

「ですので向こうがその気ならこっちもこうしてやろうと」

「アリヤと、その…アレックスが?」

「はい」

「いいじゃなぁい!言っても分からないなら行動で示すのが一番よぉ!」

 スカーレット様が笑う。叔父様は口を開けて驚いていた。

「相手に別に愛している人がいるなら私もわざわざディン様を愛するなんて無駄です。だから、彼よりもアレックスの方に惹かれたんです」

「いずれは…、いずれディンとアリヤの婚約は解消させてきちんと公に出来るようにしますので」

 そのための決意表明と言いますか、そのためにこの指輪を用意してアリヤに贈りましたと真剣な顔で叔父様に言う。どんな反応が返ってくるか分からないでいたため正直否定されるのは怖い。

 従業員達は私とディン様が婚約関係であるのが気に入らず、アレックスと思いを通じ合ったと言うと喜んでくれて必ずあの男からアリヤ様との関係を解消させないとと息巻いていた。

 しかし、婚約が続いてる以上は今の私とアレックスの関係は不誠実とも言えるかもしれない。それを叔父様に言われたら。

「アレックス」

「はい」

「アリヤとの身分差は分かるな」

「はい」

「ディンとの婚約が解消されて従業員が祝っても貴族の世界では認められるとは限らないぞ」

「その時は私はまた家族に絶縁してもらい今の身分を取り払います」

 叔父様とアレックスとの会話に割り込みそう言う。どうせディン様との婚約が解消されればまた家族は私を捨てるだろう。

「俺も身分を取り払います。もしくは…可能な限り階級をあげます」

「…そんな簡単じゃないぞ」

「分かってます…でも、俺はあの男みたいにアリヤを捨てたりなんか決してありません」

「あら素敵じゃなぁい?」

 スカーレット様が笑いながら声を上げてくれる。

 叔父様は黙って私達を見つめて考えるようにしているが大きな大きなため息を吐いて声を出す。

「…そう言われたら認めざる得ないな」

「身分差なら私達も同じじゃなぁい」

「俺は半ば無理やり君を身請けして階級を与えたんだよ」

「王族に近いお仕事してるのは便利ねぇ」

「まあ、そうだな…アリヤ、アレックスお互いの手を離さないようにな」

「はい!」

「ありがとうございます叔父様。スカーレット様」

 二人に深々と頭を下げて胸を撫で下ろす。不安にしていた報告が終わったと思うとディン様を呼んでとお願いした二人が戻って来る。ニールは無表情、クリシュナは疲れたような表情をしていた。

「…どうした?」

「部屋から出てきません」

「叔父様がいらしてるから会いに降りて来て下さいと言っているんですが」

「会う必要は無いと言って扉を開けません」

「どうせ怒られるか説教されるのを予想して籠城するようです」

「…まあ素直に来るとは思っていなかったわ」

「だろうな」

「引きずり出しても?」

「いいかしら?叔父様」

「構わん。やれ」

 そう聞いた双子はお互い目を合わせて笑うと降りて来た時とは変わり楽しそうな笑顔で階段を上がるとしばらしくしてから扉が開く音とディン様の抵抗する声がし、ルルアの制止する声が響く。騒がしい足音とディン様の怒る声にルルアの声、それが段々と近づいて来るとそこには足をクリシュナに抱えられ、上半身はニールに抱えられて降りて来たディン様とそれを必死に止めるルルアが見えた。叔父様は甥の情けない姿に頭を抱えてスカーレット様は手を押さえて笑っており私とアレックスは冷めた目でその光景を見ていた。

「どこに下ろします?」

「てめぇら!ふざけんな!」

「床にこのまま落としても?」

「止めて!ディンが怪我しちゃう!」

「二人とも、椅子に置いてくれ」

「はい」

「分かりました」

 床にそのまま下ろさず二人は家具を丁寧に置くかのように椅子にディン様を置いた。ルルアはそのディン様に抱きついて周囲を睨む。

「いきなり部屋から無理やり出してどういうつもり!信じらんない!」

「ルルア…少し静かに…」

「駄目!こう言う時ははっきり言わないと!」

「いやだから…」

「君は?」

「あたし?」

 分かるとは思っていなかったがルルアは今、王族の側近にたいしてこの口である。本来なら不敬だと言われて投獄されてもおかしくない。

「あたしはルルア!ディンの妻!」

「…君がか…」

 どんな相手か知らなかった叔父様は初めて甥の駆け落ち相手、現愛人の姿に顔を覆った。スカーレット様は驚く程に無表情である。

「ルルアさん。この方はクラウス・レーズ様。ディン様の叔父様で王族の側近ですよ」

「え?ディンの叔父さん!初めまして!」

「…初めまして」

 叔父様のあんなひきつった笑顔は初めて見る。基本的に女性にはとても優しい方なのでいつも誰もが見惚れる笑顔を隙無く見せるはずなのにこれである。

 ある意味ルルアはすごい。

「それで…ディン。座り直せ早く」

 荷物のように置かれたままのディン様は姿勢を正して叔父様と向き合う。

「俺はお前が家に戻って…アリヤと婚約をし直したとだけ、聞いたんだ」

「え?それだけ?」

 思わず横から口を入れてしまうとディン様が目で黙るように伝える。

「なのに…アリヤに呼ばれて来てみれば何だこれは?公認の愛人?アリヤと婚約しながら駆け落ち相手と離れたくないから愛人にする?そんなに離れたくないなら身分を捨てるなりして正式に結婚をすれば良かったじゃないか」

「いやそれは…勿論そう考えて駆け落ちしたのですが…家に戻された時に愛する両親の大切さに気付きやはり貴族の嫡男としての勤めを果たすためにこうしたのです」

「貴族としての勤め?駆け落ちまでして何だその心変わりは。しかもその勤めとやらにアリヤが巻き込まれているんだぞ」

「いえ!アリヤも分かってくれています!確かに私はルルアを愛していますが貴族の妻としてアリヤはとても相応しいと思って」

「どっちか一人を選べ!男だろ!」

 部屋中に叔父様の声が響く。思わず私も体を竦めてしまいアレックスが肩を抱いてくれる。それに安心しているとディン様は叔父様の声にすっかり驚いてしまった。

「兄貴も義姉さんも何を考えて…貴族としての対面を保つにしてもこんなのはあり得ないだろ…」

「父上も、母上も…この関係に了承してくれて…」

「俺はお前の貴族としての対面も守る!好きな女とも別れたくない!その上…アリヤが経営してるホテルに入り込んで共同経営しようとするのも気に入らない!」

「しかしアリヤだけでは不安ですから父上も母上も私に経営を助けるようにと…それにこれはアリヤのご家族も賛成で…」

「…その内乗っ取る気じゃないのぉ?」

 無表情に黙っていたスカーレット様がそう静かに発言して一気に注目が集まる。恐らく、いやきっとそうだろうと言う考えを今ここではっきり口に出されてディン様が黙る。

「…お前」

「そんな訳無いじゃないですか叔父様!私はアリヤとは共同で経営してお互いを支えていずれアリヤのご実家のホテルと並ぶ程に大きなホテルを作りたいのです!そのためにはアリヤ一人では…女一人では何かと不便でしょう?」

「まぁ乗っ取る気です何て素直に言えないわよねぇ」

「さっきから何?この女」

 ルルアが何とも不満そうな顔でスカーレット様を指差した。指を差されたスカーレット様はゆっくり顔を上げて美しい顔で綺麗な笑顔を作りルルアと目を合わせる。その笑顔の美しさに思わず私も視線を奪われルルアも少し怯む。

「そう思った事を言っただけよぉ?婚約を破棄しながら駆け落ちしたと思ったら違法な宿を経営してお金を稼いでぇ」

「違法な宿?そんなのしてないよ」

「娼婦を常駐させてたでしょぉ?」

「えー?あれは勝手に来ただけだもん」

 宿はきちんと法に反すること無く経営していた。娼婦はたまたま泊まりに来ていて勝手に商売をしていただけ。従業員の女も賃金を十分与えていたのに勝手に体を売っていたから注意をするのが大変だったとルルアは何てこと顔で笑いながら言う。

「あらそーう?」

「そうだよ?」

「それならどうしてお前が家に連れ戻された後に隠すように解体し始めたのか」

 叔父様が鋭い目で問う。

「…私がもう経営に関わる事が出来ないためそう言う結果になったのです。信用のある従業員に任せようとしましたが…難しいと断れてしまいこう言う結果になりました」

 ディン様が家に連れ戻されてから閉鎖されていた彼の宿は今は解体が始まっている。叔父様はその宿で何が行われていたか聞いたらしいが解体が始まり従業員も散り散りになってしまったらしい。そのため本当に何が起こったかは、今は証拠が無いのだ。

「そうかそうか…お前は、何も疚しいことは無いと」

「はい」

「妻とは別に他の女を選ぶ辺り疚しい事だらけじゃなぁい?」

「スカーレット」

「はいはい黙るわぁ」

 叔父様は大きく息を吐く。そしてディン様を真っ直ぐ見つめて目を細めた。

「ディン」

「はい」

「お前はこのままアリヤを妻としてそこのルルア?とやらを愛人、として連れ添うと」

「はい。両親も納得しています。妻はアリヤ、貴族の社交場では彼女を連れて…ですが真に愛しているのルルアです」

「あたしも愛している!」

 ディンに抱き付くルルアを見て顔をしかめる叔父様はまたまた大きく息を吐く。

「めちゃくちゃだな…」

「大丈夫ですよ!決して貴族としてみっともない真似はしません!」

「いやもうだいぶみっともないだろ」

 アレックスが吐き捨てるように言うと彼に向かってディン様は睨む。しかしアレックスは何も動じずただただ冷たい目で見たまま話す。

「…ディン。そっちがその気なら」

「何だよ」

「こっちはこうだよ」

 アレックスは私の肩を抱いて二人に見せつける。その姿にディン様は眉をひそめたため更に彼がくれた左手薬指に光る指輪を見せつける。

「は?」

「ディン様。そちらがルルアさんを公認の愛人、恋人と言うなら私もアレックスと公認の仲になりましたので」

「そっちがそうしてるならこっちがこうでも文句無いよな?」

 構わないな?とアレックスが笑って尋ねるとディン様はあからさまに動揺して立ち上がる。

「構わない訳無いだろ!アリヤは俺と婚約してる?だぞ!」

「お前もアリヤと婚約しながらルルアとそう言う関係じゃないか?」

「ふざけるな!大体お前!下級貴族だろ!釣り合う訳がない!」

「そっちは貴族どころか平民だろ?…だから結婚は許されずに愛人関係に収まった訳だ」

 二人が言い合いを始める。叔父様は始まったその言い合いを黙って見つめてスカーレット様は何とも楽しげに見つめており私はアレックスよりも一歩下がってその姿を見つめていた。

「おい!アリヤ!」

「何でしょうか?」

 見ているとディン様が矛先を私に向ける。

「ふざけるな!お前!俺と婚約しておきながらこいつとそう言う関係になったのか!何てふしだらな女だ!」

「婚約しておきながら駆け落ちして更に戻って来たと思えばまた婚約、しかも要らないおまけ付きの…そんな私の意思を無視して身勝手な事をなさる殿方よりも…アレックスの方が私を想ってくれてますので」

「そう言う事だよ。自分が身勝手な振る舞いを散々しておいて…アリヤにたいして自分の言う通りにしろってか?どうしてお前なんかのためにアリヤがそこまで我慢しないといけないんだ」

 ディン様の顔が真っ赤になられる。

 分かりやすく怒り感情を顔に出しているその様にスカーレット様は耐えきれずに笑い、叔父様に注意をされていた。見ることに徹していたクリシュナとニールも必死に笑うのを堪えている。

「…俺とアリヤの婚約は貴族同士!もう正式に承認された!覆らない!式を挙げた後にお前とアリヤの不貞を暴露して…吊し上げてやる!」

「そしたらそうか。吊し上げて俺とアリヤを追い出して…正式にその女と結婚してこのホテルを手に入れるってか?」

「評判が地に落ちている今は、何を言っても信用されませんからね。ある程度…信用を取り戻してからそうしようと」

 不貞でなくとも何かでっち上げてそうする予定だったのかとアレックスが真っ直ぐ問うとディン様は黙り言葉を失う。私が髪を伸ばすために時間が欲しいと言った時、ディン様は何も反対しなかったのそう言う事だ。

「…馬鹿な事を言うな。そんなの考えてる訳がない貴族としての品格がある」

「そうですか」

「…よく分かった」

「叔父様?」

 黙っていた叔父様が声を上げる。

「お前の下らない現状がよく分かった」

「下らないって…そんな」

「これは俺からの命令だ。今現在…アリヤのホテルはアリヤの物だ。お前に何かホテルの経営方針を決めるような権限は無い」

「ですが叔父様、私は今アリヤと共同経営のための勉強でここに」

「恋人まで連れてきて何が勉強だ?アリヤからの手紙にあったがお前の経営に関する事はどれもアリヤやここの従業員の足元にも及ばない。それなら部屋で静かに経営学について勉強でもしていろ」

「いやですが」

「それとルルア」

「え?」

「君もだ。ホテルの最上級の部屋を使わせてもらいながら従業員の足を引っ張る事ばかり…勝手に部屋に入り宿泊客を混乱させたそうだな」

「だって退屈そうにしてたし」

「休むために来てるのに疲れさせてどうする。しかもあの名物の大浴場で勝手に酒盛りしようとしたとか」

 先日あった事だ。大浴場の準備が出来たと思ったらクリシュナが止める声が聞こえて行ってみるとお酒を手にしたルルアがこれを大浴場に持っていき飲もう楽しもうとしていた。クリシュナに無理やりでいいから部屋に戻してと命令して抱えられて部屋に戻された。

 危うく大浴場が一日駄目になるところだった。

「だってお酒とかお菓子あった方が楽しめるでしょ?」

「酒飲んであの大浴場に入ると酔って溺れる可能性があると申し上げたでしょう!」

「え?言ったっけ?」

 言ったが覚えていないのだろう。

「アリヤと従業員達が作り上げたホテルをお前達二人のせいで評判を落とす気か。アリヤもまずは掃除から始めて従業員はすべてそうしているのにそれを拒否して使えないアイディアばかり…それ以外は遊んでばかり…」

「それはアリヤが仕事をくれないからです」

「仕事を提案しても嫌だと言って断ってばかりでしょう」

 反論すると睨み付ける。しかし事実だ、アイディアはきちんと駄目な理由を言っている。仕事は例えば掃除は駄目なら受付は、帳簿をつける、食事の準備…どれも自分がやる仕事ではないと拒否をしている。ルルアはやり始めると遊んでしまうので任せられない。

「今二人に出来るのは、仕事の邪魔をしないでホテルの従業員として恥ずかしくないように作法を身に付けるように」

「……」

「返事」

「……分かりました」

「えー?面倒くさ」

「返事」

「はーい…」

 二人は渋々と言った状態で了承したが恐らく真面目にやらないだろう。

「部屋に戻れ」

「それじゃ参りましょうか?」

「持ち上げようとするな!」

「失礼しました」

 クリシュナとニールがからかいながら二人を部屋に戻しようやく静かになる。

 そこで本題だ。


「叔父様…今日お呼びした理由なのですが」

「ん?ディンへの説教じゃないのか?」

「あ、いえ…別の理由がありまして…」


 そう言って私は叔父様にも経営者の一人となってもらうため鏡を取り出す。




 

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