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三角結婚

 リリナが試してみたい事があると言う。それはこのホテルの経営者を私以外にも何人か決めてほしいと言う事。書類上は私が経営者になっているのに共同経営として誰かを追加するのかと尋ねたが、私が指名するだけでもその試したい事は可能かどうかやってみたいと言う。

「どうされました?お嬢様」

 あの厄介貴族嫡男の事も解決しておりませんのにと言うミアを呼び立てて手には鏡、鏡の向こうではリリナが待機している。

「ミア、私の言う事に“はい”と言って頂戴」

「はい」

「早いわ」

「お嬢様の頼みなら“はい”ですよ」

「心強いわ…そしたら」

 私と一緒にこのホテルの経営者になってほしい。

 そう言うとミアは驚き首を振ろうとしたが私が制止して先程頼んだ通りにしてもらう。私の意図が読めずに戸惑っているが、ミアは小さく不安げに答えた。

「…“はい”」

「…ありがとう」

 そして彼女と私の間に持っていた鏡を置いて表面を軽く叩いて合図する。

“聞こえます?”

「…ん?」

“ミアさん。私の声、聞こえます?”

「え?え?何です?」

「聞こえるの…!?」

“聞こえてるっぽいな、これ”

「誰です!?この声誰ですか!?」 

 私も驚いた。

 リリナが試してみたい事、それは以前メアリがリリナの声を聞いた時の状況を思い出しもしやこのホテルの経営者である人物が彼女の存在を認識出来るのではと言う事だ。

 どうやら当たっているようだ。ミアはリリナの声にどこから聞こえるのか慌てているが私は冷静に鏡を上げてミアに見せる。

「ミア、この鏡を見て頂戴」

“ミアさん”

「……!わー!知らない女性が映ってる!」

 本来リリナに会った時の反応はミアのそれが正解なのかもしれない。鏡に映り声をかける自分達の国とは明らかに違う顔立ち、服装のリリナに驚きながらも目は逸らさない。

「…この人は?この鏡は何ですか?」

“どうも初めまして凛々菜です”

「り、りりな?さん?」

「…ミア、説明するわね」

 そこからミアにゆっくり説明をする。彼女は別の世界の住人で、不思議な事に彼女と私はお互いの世界の夢を見て鏡や水面、顔が映る物を介して交流する事が出来たのだ。信じがたい事実だが現に鏡に映り私達に話しかけるリリナを見て段々と納得していった。

「…それでね。私のホテルのアイディアはリリナの世界のホテルを参考にしたの」

「そう、だったんですか?」

「私が考えたものじゃない。今までたくさん褒めてくれたけど…騙してごめんね」

“いや、でもそのアイディアを形にしようと奔走したのはアリヤだから”

「でも元はリリナが」

“いやアリヤが”

「分かりました!」

 ミアが手を叩き大きく声を上げた。

「…お嬢様に協力して下さったのですね」

 そして鏡の向こうのリリナに向かいミアは深々と頭を下げた。

“いや、そんな…当然の事よ!”

 そうしてリリナもミアに向かい頭を下げた。

 どう思われるかどう言われるか不安もあったがミアはリリナの存在を肯定的に受け止めてくれて胸を撫で下ろす。

 そう分かるとリリナは更に他にも自分の存在が分かるように私の口約束で構わないため経営者の数を増やしてほしいと言う。

「具体的には誰を?」

“ロアさんにメアリ、後は…アレックス君もお願い……それで可能なら”

「可能なら?」

“クラウス叔父様も頼みたい”

「叔父様を?」

“そう”

「リリナ様?何をお考えで?」

“私の行動範囲を広めたいの。鏡や何か映る物があれば私は意志疎通が出来るから…それを使って何とか今の状況を打開出来ればと思って”

「…分かったわ!」

 行動は早い方が良い。

 すぐにロア、メアリ、アレックスを呼ぶ。急に呼ばれて困るかと思ったがこの間からアレックスの従者のクリシュナとニールが暇だからとホテルの手伝いに来ている。

 呼ばれて何か良い案が浮かんだのかと言いながら部屋に入るとテーブルの中央に鏡が置かれており何が始まるのかと戸惑いながらも座ってくれる。

「今から大事な話をするわ」

「…分かりました」

「何でも言って頂戴」

「どんと来い」

「ありがとう…皆を信頼しているわ。そして私の言葉に何も聞かずに“はい”で答えて」

 ただならぬ雰囲気に全員が背筋を伸ばし言葉を待つ。そして私の口から出たそれは「皆にこのホテルの共同経営者となってほしい」と言う事だ。その言葉に皆、ミアと同じ様に驚きロアは首を振ろうとしたがメアリに止められて言われた通りに何も聞かずに答えてくれる。

 “はい”と。

「ありがとう…」

「アリヤ、何を考えて」

“ごきげんよう皆様”

「…ん?」

“テーブルの中央の鏡をご覧ください”

 リリナ、何かしらその喋り方は。

「え?この声…」

“メアリさんは二度目ですね”

 皆戸惑いながら恐る恐る鏡を見て声を上げる。自分の顔ではなく知らない人間が映り、こちらを認識して話しかけている。

“初めまして。私は凛々菜…アリヤの友達です”

「え?…何これ?」

「鏡に?人が?へ?喋って…」

「…君は?」

 三者三様それぞれ違った反応を見せてくれる。日常生活の中であり得ないような目の前の現象にロアとメアリは驚いたまま固まっているが、アレックスは一瞬だけ驚きすぐに冷静にリリナに声をかける。 

「…君は何だ?」

“信じられないかもしれないけど、私は君達の生きる世界とは違う世界の住民だよ”

「違う?世界…?」

“そう。えーっと…色々信じられるように見せてあげる”

 まずはこれ。

 そう言ってリリナが見せたのはただの黒く四角い置物。その四角い置物が突然光り中には人間が映り音を放ち光を放ち色鮮やかな映像が流れている。

「…は?」

“続けて…えーっと”

 “スマホ”を持ったまま移動してここは私の小さな台所だと説明してある箇所を捻ると水が流れて来る。更に音楽を流す不思議な物体や懸賞で当たったらしい自動お掃除道具を見せる。

“後は…”

「分かった分かった。十分に君が異世界の住民だって分かったから」

“良かった…あ、そうか私…異世界の人間になるのか”

「アリヤの友達と言ってたけど」

「友達よ?」

「本当にか?…もしかして異世界の魔女でアリヤの魂を狙ってるなんて…」

 アレックスの目が鋭くリリナを捉える。そんなはずはないと言うが鏡の向こうに映るリリナの存在を怪しんでいるらしい。

「私のホテルの経営にたくさんのアイディアを出してくれたのよ。味方よ!友達よ!」

「都合が良すぎるんだよ」

“確かに!”

「…納得するなよ」

“アリヤの事が心配なんだね…色男”

「…ふざけてるのか?」

“真面目だよ”

 鏡の向こうで座り直しアレックスと向き合うリリナ。息を吐いて彼女は弁明する。

“確かにあなた達の世界と違う世界に存在する私が無条件にアリヤに協力している事は怪しいでしょう”

「怪しいな。俺は魔女に近い何かだと思っている」

“アレックスさんは私がアリヤに優しくし、企んでいるとお考えなのですね”

「そうだな」

“…アレックスさんから見てあまりに都合の良すぎる私の存在、怪しく思うのも無理はありません。しかし、私はアリヤの野望に賛同したのです”

「賛同?」

“私はアリヤがあの家に生まれてから婚約破棄に至るまでを見る事が出来ました。それは何故なのか…私にも説明が付きません。しかし、確かな事に私とアリヤは世界を超えて繋がっているのです”

 お互いにお互いの存在を認識し合う前から生きる世界を夢に見ていた。

 違う世界で違う生き方をするまるでもう一人の自分のようにすら感じていたとリリナは穏やかな声ではっきりと話す。

“アリヤが理不尽に婚約破棄、家を追い出され辿り着いた町からも冷遇されている状況にも負けない姿に私は彼女の力になりたいと、そう思ったのです”

「それは…見返り無しのか?」

“そんなの望まない”

「はっきり言うんだな」

“アリヤの世界で起きる身分による差別、女として生きる苦労。それらを少しでも変えられるようにと動く彼女に出来るのは私の世界の知識を与える事”

「それじゃ今までのホテルのアイディアとかは…」

「リリナが教えてくれたわ。私の力じゃない」

“確かに知識を与えたのは私、でもそれを自ら動いて実行したのはアリヤ自身。私は彼女が動いて段々と人で賑わい誰もが泊まれるこのホテルの行く末を見届けたいと、心より思うのです”

 対価を求めると言うなら、見届ける権利が欲しいというぐらいでしょうか。

 リリナはそう言ってアレックスにまた深々と頭を下げた。

“どうかお力添えを”

「……なるほど」

 沈黙が走り私も見守るとアレックスは深く深く息を吐いて頷いた。彼の目がしっかりとリリナを見つめてまた沈黙が走る。何か、リリナを信用させるために私も言わなくては思ったが彼女が初めて見る表情であんなにはっきり喋るものだから私も黙ってしまう。

「よろしく頼む。リリナ」

“…よろしくお願い色男…”

「アレックスだよ」

“ごめん…ずっと色男って呼んでて”

 緊張が一気に解れる。

 見守っていた私もミアもロアもメアリも一斉に肩を撫で下ろして息を吐いた。このままアレックスがリリナを魔女だなんだと決めつけてしまい鏡を叩き割りでもしたらどうしようかと思っていたがリリナはやってくれた。

「それで、俺達は何をすればいい?」

“そうだ…とりあえず私の声が聞こえるのが確認出来たから…”

「叔父様もそうするの?」

“うん。アリヤが駆け落ちくそ男と結婚しないように加えてホテルを経営権を奪わせないようにしたい”

「えと…リリナ?様…どうすれば」

“貴族の階級をぐっと上げれば逆らえないんだよね?”

「ええ…そうね」

“直接王様とかに頼めない?”

 いやそれは無理だろう。

 私達は黙って頭を振ってしまった。

“王様にめっちゃ良い品物を献上してご機嫌になったところをすかさず…”

「めっちゃ良い品物って…」

“私さ、お城の中の鏡とかに映れないかな?”

 お城の中の鏡?

 リリナは話す。リリナが話せる範囲はどこまで可能か。ホテルの経営者となる人物から極端に離れなければリリナがスマホを起動した時いつでも様子を伺う事は可能である。私が屋敷から離れて町へ行くなど距離を取らなければリリナとはいつでも鏡などを介してこの世界の様子を伺って話す事は出来る。

「お城の鏡から見て…王様が欲しい物を探ろうって事?」

“クラウス叔父様が近い場所に勤めてるでしょ?上手い具合に出来ればいいけど”

「なるほどな…」

 そうとなるとクラウス叔父様にも協力を求めるために手紙を書かなければ、しかし上手くいかなった場合やその“めっちゃ良い品物”が用意するのが困難な物である事も考えられる。

「…ディンを引きずり下ろせない?」

 メアリが静かに呟く。

「あいつが経営していた宿…今は閉鎖してあるけど、それってまずい事をしてたからでしょ?」

「そうだな。娼婦を常駐させていたのは分かったし…本来なら…まあ貴族だから罰金刑で済むかもだが」

「引きずり下ろすためにもっとまずい事をしてましたとか…でっち上げたりは」

「駄目だ…証拠の提示を求められる」

「そうよね…」

“ちなみに引きずり下ろされるような程のやばい事って何があるの?”

「まあ殺人ね」

「殺人だな」

“直接じゃないと駄目?”

「いや…間接的でも…何かあるか?」

“いや…この世界の夢見た時にすごい嫌な夢見てね…”

 豪華な緑の宿から女の人が…リリナがそう話し始めると何やら扉を閉めていても騒がしい声が聞こえる。一旦話し合いを中断してその騒ぎの方へと向かうと驚く。

「あ!やっほ!」

 駆け落ちくそ男、じゃないディン様のお相手のルルアがそこにいた。

 駆け落ちした夫が家に戻されてっきり引き剥がされたと思ったが彼女は平気な顔をして何の遠慮も無しにアメニティバーの冷たいカモミールティーとドライフルーツを食べている。他の従業員が慌てて止めようしたが聞く耳を持たずに言う。

「別にいいの!あたし、このホテルの経営者の好い人なんだから!」

「は?」

「は?」

“は?”

 私とアレックス、鏡のリリナが同時に呆けた声を上げる。何が何だか分からないと言う状況でいるとルルアは説明をした。

「ディンが家に戻されてさ」

「ぞ、存じてます」

「それで何か…アリヤって言ったっけ?アリヤって誰?」

「私ですが…」

「え?あんた?」

 あまりの失礼な言葉遣いに絶句する。アレックスもその態度に顔がひきつっている。

「あんたと元々婚約してたって?それで何か元に戻すとか」

「それは」

「その話は聞いてる。それで?何をしに来た?」

 一歩前に出たアレックスがあまりの態度に絶句している私とルルアの間に立ち壁になってくれている。

「言ったよ?あたし、このホテルの共同経営者の好い人って」

「それの意味が分からない。説明してくれ」

「だから…あたしとディンは離れたくないの!でも結婚するのは駄目だって言うから愛人って枠に収まってあげる事になったの!」

「あ、いじん?」

「…はぁぁ?」

“イカれてるの?”

 お客様がいない時間で良かった。こんな頭が痛くなりそうな会話聞かせられない。そうだ、シャーリィにもこんな会話聞かせられないと思い辺りを見るとマーサが慌ててシャーリィを別の部屋で遊ぼうね!とこの場から離れさせてくれた。

「それなら良いって!認めてくれた!ディンはあんたと結婚してこのホテルの経営をするんでしょ?そしたらあたしはこのホテルの経営者の愛人!このホテルは半分あたしの物みたいな事でしょ?」

 だから好きにしていいよね?このホテルの一番良い部屋に住みたいな。それともっと綺麗なドレスも欲しい。こんなシャンデリアの綺麗なホテルで地味なドレスなんか着ちゃ駄目だよね。

「ね?」

 そう言ってルルアは私を目を細めて見た。

 グラスの中の飲み物を一気に飲み干して音を立ててテーブルに置きまるで召使のように従業員を呼び一番良い部屋案内してねと笑う。困った表情でこちらを見る従業員に彼女の言動に呆然としていたが私を冷静に口を開いた。

「…いいわ。案内して」

「アリヤ!?」

「その代わりにルルアさん。部屋で大人しくしていて下さい。これから他のお客様がお見えになられますので」

「え?そしたらあたしお客様出迎えるよ?酒場で働いてたし」

「酒場とここでは接客の仕方が違います」

「えーでも部屋で大人しくなんて」

「大人しくしていて下さい。静かに、お部屋でお過ごし下さい」

 このホテルの品格を落とされては困るのです。

 そう言いかけたのを飲み込み不機嫌そうになったルルアを部屋に案内する。大人しくしているか否か…しないだろうと判断したため私と同じ考えのアレックスはクリシュナとニールを呼んで伝える。

「あの女が部屋から出ないように見張っててくれ」

「「承知しました」」

 頼れる双子の従者に彼女を任せて私達の心は一つ。


 あの夫婦を引きずり下ろさなきゃ。



 



 

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