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運命

 叔父様とスカーレット様が泊まられて、メアリ達が新しい従業員としてやって来てからしばらくの事だ。

 叔父様から届いた手紙にある大浴場の計画に私達全従業員が話し合っていた。

「元々バスタブを置いていたあの、部屋を改築して…お嬢様の言う大浴場になさると」

「規模が大きいから改築にかかる費用が貯まるまで時間がかかると思っていたけど…」

「そのアリヤ様の叔父様が…」

「ええ。その計画に関するお金を出すからやりなさいって」

「……すごいわね」

 私もまさかの展開に驚いているが確かに叔父様の字でこれらに関する費用、人員を出すためいつから着工可能か尋ねる内容だった。

(もしかしたら)

 自分の甥が行った事へのお詫びのつもりなのかもしれない。

「お嬢様」

「ん?」

「こちら、有り難く受けますか?」

「受けるわ」

「まあ、素直に受け取って損は無いかもね」

「そうすると工事の音で五月蝿くなるわね。その辺りは受付の時に伝えて…今後予約が入る時も工事の音がする事をよく伝えておいて、張り紙も作るわ」

「分かりました」

「張り紙は…」

「私が作るわ。字は結構覚えたし」

「よろしくお願いね。出来たら私が確認するわ」

「よろしくね」

 叔父様への返事を書き送る。

 完成までどれぐらいの時間がかかるか不明だがしばらくは騒音が…騒音と言っても町外れのこの場所にいくら騒音が響いても特に問題は無いと気付いた。

 ジャスは耳がいいからその間大変だろう。工事が始まったら彼を一層労ってやろう。


“すごいじゃん!”

「叔父様かすごいのよ」

“いやあ。アリヤの人徳と人徳”

「本当に?私はすごい?」

“すごいよ?”

「ふふ、ありがとう」

 こんな部屋を作るのは初めてですと、叔父様から以来を受けた職人達が大浴場の計画書を見ながら頷いていた。

 バスタブで浸かるのも少ないのにこんな大規模な物を作ってそこに何人も入れるようにしようなんて考えた事が無いと私の計画書を見て呆れながら言った。

“それに何て返したの?”

「そうよ。あなた達がその考えた事の無い事をしてくれる大事な役割を担うの」

“そしたら何て”

「苦笑いしていたわ」

“出来上がりが楽しみだわ”

 大きなお風呂に入って体を清潔にして、大浴場と言うのは社交の場でもあるんだよとリリナは言う。裸の付き合いと言うか、何も身に纏っていない状態で仲を深める事も良し、ゆっくり浸かって日頃の疲れを洗い流すのも良しと言う。

「このホテルの新たな名物になれるかしら」

“なるなる。ちなみにどれぐらいで出来るの?”

「うーん…経過を見ながら作るから半年とかそれぐらいかかるかも」

“それだけかかるのか…”

「初めての事だしね」

 しばらく騒音と共にこのホテルは営業する事になりそうだと言う。

 とは言え昼間のみ建設作業になるので夜は静かに過ごせるのは変わり無い。

「それでね、建設期間中は少し宿泊料金を下げようと思うの」

“騒音ごめんなさいって感じで?”

「そうそう。営業には問題無い程度に下げてね」

“アリヤ、良いアイディアだよ”

「ふふ、でしょう?」

 そうして大浴場建設中に行った騒音失礼しますの割引価格はそれなりに好評であった。

 町の緑の宿屋よりは相変わらず高いがお客様は来てくれる。早い時間から訪れて静かに過ごしたいと言うお客様は帰ってしまうが、それでも以前泊まったお客様やそのお客様がお客様を呼び、ホテルは相変わらず順調である。


「でもそろそろ全室開放したいわね」

「増えたとは言えまだまだ従業員は少ないですからね」

 未だに全部屋は開放出来ていない。メアリ達が来てくれた事で生まれた余裕から泊まれる部屋数を増やす事も出来たがまだ全部屋ではない。

「ちなみに次はこう言う人材が欲しいとかあるの?」

 掃除を終えたメアリが尋ねる。

「男性の従業員かしら」

「今はロアさんしか居ませんものねえ」

「力仕事に関してはどうしてもね…」

 ロアばかりに任せる訳にもいかない。本人は何でもやります。任せて下さいと言うがそうもいかないだろう。

「ねえ殿方?どなたか紹介して下さいな?」

 メアリが大浴場建設中の職人に尋ねる。

「宿の仕事ねえ…」

「もしお仕事探してる方でいたらここがありますって伝えておいて下さいね」

「まあ覚えておくよ」

 初めはこんなのやった事が無いと度々意見の衝突があった職人達と随分打ち解けたものだ。


 アリヤの世界を見ていると現代のホテルと言うものは随分発展してきたんだろう。いや、世界を見れば私が住んでいる日本に比べてアリヤの世界と似たようなホテルがもしかしたら存在するかもしれない。日本だって今と比べれたら何もかも足りない状態から始まってここまで便利になったんだろう。

 もしかするとこのまま続ければアリヤの世界の発展はアリヤの行動次第でどんどん進んでいくのではと思ってしまった。

「…でも」

 そうすると私が今起動しているスマホゲームはどうなるのだろう。このスマホゲームは一応進め方としてはアリヤが仲間を見つけてホテルを発展させる。それだけの話だ。ちなみに人気は本当になさそうでバグが多い、ストーリーが進まないと散々な評価を得ている。アリヤと出会いそれなりに経つが、このゲームを起動している人で、私以外にこの世界の人と接触出来るのはいないようだ。

「…あ、」

 そう考えているとアリヤのホテルの大浴場が完成したらしい。古代ローマのお風呂を参考にして作った大浴場は上手くいくだろうか。


 大浴場が完成した。

 男女で別れており脱衣場には脱いだ服を置くリリナが言う“ロッカー”を作り、脱衣場を抜けるとそこには大きな湯船。その下に大きな空間を儲けており熱風を送り常に温かいお湯を提供出来るようにする。

「ついに…」

「出来たな」

 建設に携わってくれた職人達に大きなお礼を言い、早速どうなるか試してみようとするがここで課題がある。

 誰が湯船をお湯で満たして熱風を送り続けるか。

「……しまった」

「どうした?嬢ちゃん」

「いえ…そう言えば大浴場を運営する人がいないと思って…」

「…ここ作ってる時に女ばかりでどうすんだと思ってたら考えてなかったのか」

「大浴場が出来るのが嬉しくて…」

「アリヤ様!私がやりますよ!」

 ロアがそう手を上げてくれたが彼には今の仕事をそのまま任せたい。

「…人手が来るまで待つ事にするかしらね」

「嬢ちゃん嬢ちゃん」

「はい?」

「前に赤髪の姉ちゃんが仕事を探してるのがいたらここを紹介してくれって言ってたろ?」

「ええ。言いました」

「もしかしたら、来るかもだぞ?」

「え?」

「城下に異国の音楽家が来た話を知っているか?」

「ええ…叔父…知り合いから」

 何でも異国の音楽一家が城下町で大盛況だったらしい。異例の事だが城下に来ていた貴族にも気に入られて現在はその貴族の専属になっているらしい。

「それが何か?」

「それがな…どうもその噂が届いたのか」

 それに続けとばかりにその異国から移民が来たらしい。貴族に気に入られれば安泰と豪華な暮らしが手に入ると思ったらしく例年に無い大人数がこの国への移住を希望しているらしい。

 しかも貴族達も自分達にも何か特技のある異国の者を側に置く事をステータスにし始めているらしく絶えず移民が来ていると。

「でも、皆さんが皆さん貴族のお気に召すような特技はお持ちで?」

「全員そうじゃないだろうな」

「…良いお話だけ信じて…来てしまったのかしら」

「だろうな。そうすると…来たものの」

「上手くいかずに仕事に就けない」

「…少ししたらそうして路頭に迷う奴が出るかもな」

「そういった方を呼び込めば良いと?」

「どうするかは嬢ちゃんの自由だ」

 叔父様から移民が来ていると世間話のように綴られていたが深刻な事になりそうだ。国が違うとなると、会話は出来るが文字の読み書きなどが出来ず仕事を見つけるのは困難だ。

 その貴族に気に入られた音楽一家のように突出した特技でもあれば良いのだが当たり前だが全員が全員そうではない。

 職人の殿方から教えられてもしそう言った者が来たらどうするか、雇うか雇わないか。


“面接だね”

「面接」

“うん。いや…面接の前に書類選考をかけた方がいいかもしれない”

「それって…リリナの世界のやり方?」

“就職先によって違うけどね”

 でも文字を書ける人が必要なら書類選考をした方がいい。後は面接でその人の経歴、特技、人柄を見抜いて採用するか否かだ。

「なるほどね」

“そっちの世界ってどう採用するの?”

「人に紹介してもらうとか…お仕事を斡旋する人がいるからその人に頼ったり」

 飛び込みでここで働かせて下さいと頼みこむ事があるらしい。

 リリナの世界は働きたい場所にまず自分の経歴を書いた書類を持ち選考して、面接に進み自分がどんな人間か何故働きたいかを伝えてるのだ。

 そしてそれを認められれば採用らしい。

“とは言え…面接用に良く見られようと自分を偽る人間もいるから要注意…”

「偽る…見抜かなきゃ…」

“そうだよ。大切”

「…あ」

“え?”

「そうだわ…見抜ける人がいるじゃない」

“え?誰誰…?”

「真っ白な騎士よ」


 アリヤ、もしかしてとリリナが思っている通り、ジャスに新たな従業員を選ぶのを手伝ってもらおう。

「ジャスを?」

「ええ。彼に手伝って貰うわ」

「ジャスに…」

 彼は優秀だし前にルルアが来た時、こちらに害があると判断した場合は即座に褒めてくれる。優秀とは言えジャスはわんちゃんですよとミアが言うがそれ以外にも考えはあるのだ。

「面接する時は私と希望者一対一になるのよ」

「そうですね…」

「やっぱり女だと舐められる事が多いから、私が不採用と判断した時に逆上する人がいないとは限らないわ」

「その時のためのジャスですね」

「そうよ」

 その日の内にメアリ達に頼みホテルの従業員募集の告知を職業紹介場に貼らせてもらう。力仕事が出来る人、ホテルで働きたい人。経験者歓迎とリリナに教えてもらった紹介文で来てもらえればいいが。


「……」

 まあ早々来ないかと待つ事も考えたがどうやら杞憂に終わったらしい。

 宿泊希望のお客様とここで働きたいと言う人が入り交じってやって来た。やけにお客様が多いなと受付をいつもより増やして対応していたが何泊で、ではなくここで働きたいと言う。

「一旦空き部屋に皆さんご案内して」

「分かったわ」

 メアリに対応してもらい働くのを希望している人をまとめて一つの部屋に待たせる。

「お嬢様。大丈夫ですか?」

「そうよ。アリヤ対応出来るの?」

「やるわ」

 皆には宿泊者の対応をお願いしてジャスと共に就職希望の人が待つ部屋に行く。私が入ると頭を下げる者や一瞬こちらを見てすぐに目線を逸らした者など様々だ。

「…こんにちは皆さん。ここのホテルの責任者のアリヤ・アーバンと申します」

 そう言うと慌てて立ち上がり頭を深く下げる者、女の責任者と分かり驚く者た反応が変わる様が少し面白い。

 そして側にいるジャスに視線を向けて首を傾げている。

「まず確認ですが…皆さん全員こちらで働きたいと」

 順にその意思を確認し、名前を尋ねる。現在の生活の状況や以前は何をしていたのかと聞いてメモを取る。

「どうしてこちらで働きたいと?」

 リリナから聞いた働く時の質問だ。

 生活のため、女性が多く働いているため、宿の経営に興味がある。など皆ここで働きたい理由を話してくれた。

 ただ中にはそんなのいいから早く働かせろと苛立ちながら話す男性がいた。落ち着きなく座り自分は宿を経営していたと話し、自分を雇えば今の状態から更に儲ける事が出来ると話す。

「…それはどうやって?」

「あんた知らないだろ?女を呼ぶんだよ。宿に女を置いて特別なサービスをさせるんだ。そうすると男は喜ぶし女も儲かる!良いことだらけだ!」

 それを聞いていた女性達が顔をひきつらせた。

「それをすると宿ではなく娼館になります。緑の看板を掲げている以上はそのような事を致しません」

「分かってない!分かってないよ!あんたはまだまだ何も知らん!俺を雇え!いいから雇え!」

 男が大声で捲し立てる。客室から離れた部屋に集めて良かった。お客様にこんな不快な声を聞かせる事など出来ない。ジャスを撫でて落ち着いて言う。

「雇えません」

「はあ?何言ってるんだ!俺はお前みたいな小娘より宿の知識があるんだぞ!」

「でしたらご自身で宿の経営を始めればいいでしょう?」

 わざわざここに来なくても、と付け足すと何か詰まったように言葉を失い紅潮とした顔で黙った。

「…それが出来ないから、こちらに来たのでしょう?」

「それは」

「あなたの言う儲かる方法と言うのは論外です。私が経営するこのホテルはそのような事は一切行いません。性的なサービスを提供する必要がない程に身も心も休める場所を作っているのです」

「そんな綺麗事でやれるか!」

「現に今、出来ています。新たな人手が必要な程に」

 興奮する男性に扉を指差し告げる。

「不採用です。あなたはこのホテルの従業員に相応しくない」

「…こ、の!!」

 男性が立ち上がりこちらに殴りかかろうとした。女性は悲鳴を上げて他の男性が庇おうと立ち上がったがそれより早くジャスが動く。

 彼が吠えて噛みつき男性は叫んだ。離そうと踠くがジャスに敵わずただただ床で痛みに声を上げている。

「ジャス。もう結構よ」

 私の声でジャスは男性から離れて唸り声を上げていた。噛まれた場所を押さえながら男性は私を睨むように見るが傍にいるジャスの存在にすっかり萎縮している。

「出ていきなさい」

 自分が出せるありったけの冷たい声を男性に浴びせると先程の威勢はどこへやら、逃げるようにして部屋から出ていく。

「ジャス。出口までご案内して差し上げて」

 外に出るまで何かされたら面倒なため、ジャスに後ろを追わせて裏口から出るように伝えた。

「……」

 残された人は呆然と口を開けて驚いていたり男性の怒声とジャスの姿やらに怖がっていた。やり過ぎたかと思うが自衛のためだ。

「…今見ての通り、従業員を守る何とも勇敢な騎士がいます。彼は女性の宿泊者を守るためにホテル内を巡回しておりますが…危害を加えない限りはとても優しい方なのです」

 ですのでここは女性も安心して泊まれて従業員も守られているんですよと笑って伝えるが、怖がってしまった数人が「やっぱ止めます」と辞退してしまった。

「…皆さんは…大丈夫かしら?」

 残った数名、改めて尋ねると緊張した様子で何度も頷く者や落ち着いた様子で返事をする者、こちらに笑いながら大丈夫ですと言う者。

「すごいですよ。庇う必要も無かった!俺達の上司は強そうな人ですね」

 部屋に残った褐色肌の男性はそう言って残った人達に笑いながら話す。

「さあどうぞ。採用試験を続けて下さい」

 お願いしますと頭を下げる彼に続いて気付いたように残った彼や彼女達も頭を下げる。

「……ええ。それでは次の質問を…」


 帰ったお客様の部屋の掃除を任されていたため、後からメイド長から新しい従業員の募集に何人も来たと聞いた。そうするとメアリさん達が来た時のように教える事になるかと思ったが、初めだけメイド長か私が教えてその後はメアリさん達に教える役割を担うと言う。勿論アリヤ様も教えるらしいがアリヤ様もメイド長も殆ど休み無しで働いているが大丈夫だろうか。

「お父さーん」

「あぁシャーリィ」

 部屋の清掃を終えるとシャーリィが部屋の前で待っていた。

「お仕事終わった?」

「終わったよ。シャーリィは?」

 今日はメイド長に付いてラウンジのテーブル拭きと花瓶のお花を選ぶ仕事をしていたはずだ。

「終わったよ!今日はね、黄色とピンクのお花にしたの!」

 メイドさんがね!何て素敵なお花選びって褒めてくれたの!と今日もかわいい妻の忘れ形見の頭を撫でる。これから順番に休憩に入るためまず私とシャーリィが休憩に入りその後はメアリさん達。最後にメイド長。アリヤ様はいつも隙を見て行くから声をかける必要が無いと言うが、本当に休憩を取っているんだろうか。

「よし、お昼にしよう」

「クレープ食べたい!」

「あれは…ちょっと難しいな…」

 前に新メニューの考案でアリヤ様が作っていた薄皮の生地に野菜やらフルーツやら生クリームを巻いた物。あれはとても美味しかったが生地を作るのが困難としてお蔵入りになったのだ。

 皆で生地を焼いて穴が空いたり破けたりして声を上げながら楽しくやっていた。前の仕事の時なんてこんな楽しい時間は無かった。

「クレープは無理だけど…メイド長から生クリームが少し余っていてくれるそうだからそれに買ってきたフルーツを挟んで食べようか?」

「やった!えと…」

 台所に向かおうと歩いていたがシャーリィが突然止まる。何かあったのかと思いその視線の先を見るとこちらも驚く。

 腕を押さえて歩く男。

 間違いない自分を解雇した宿の責任者だ。

 シャーリィを抱き上げて守るように立ち尽くす、あれこれ仕事を増やされ無理だと言えば罵倒されてろくな賃金も与えなかったあの男、シャーリィを邪魔者扱いし嫌な記憶しかない。

「……」

 そんな男が今項垂れて腕を押さえながら歩いている。その後ろをジャスが見張るように歩いており彼も私とシャーリィに気付くと挨拶するように軽く吠えた。

 その声に驚き項垂れていた男が顔を上げてようやく目が合う。

「……」

「……」

「…えっと」

「…何見てんだよ」

「…え?覚えていないんですか?」

「はあ?」

 自分の顔を見ても知らない者を見る目のその男につい声をかけてしまった。

「ロアです。あなたが経営していた宿で働いていた…」

「……は?」

「どうしてここに…」

 いるんですかと聞こうとした時にメイド長から新しい従業員を募集していると言っていたのを思い出し、まさかこの男がと思ったがどう考えてもアリヤ様がこの男を雇うとは思えない。ジャスに噛まれているし。

「…お前、ここで?」

「はい…働いてます」

「何で?無能のお前が?」

「……無能?」

「そうだろ?どんくさくて文字も読めない馬鹿のお前が…あぁあんな馬鹿な女がやってるホテルだから馬鹿なお前が働いて」

「アリヤ様は馬鹿ではありません」

「そうだ!そうだ!」

 前に馬鹿にしていた存在に会えたからまた馬鹿にしてもいいと思っているのか、この男何も変わっていない。

「何だこの…」

「アリヤ様は馬鹿ではありません。逆境にめげない強い方です。ホテルの経営も発想もあなたの比ではない」

「はあ!何だこの」

 ジャスが吠える。

「それにあなたが言うように私が無能ならアリヤ様は雇い続けていません!アリヤ様はあなたが馬鹿にした私の技術や経験を買ってくれてます!」

「そうだ!そうだ!お父さんはすごいもん!」

 シャーリィが舌を出して見せる。

 ジャスは先程よりも吠える。

「お前、言わせておけば!」

「無能はどちらか!金に目が眩んで何もかも失ったあなたと私!どちらが無能か今この状況を見て理解出来るでしょう!」

 そう言い終えると男は力が抜けたように座り込みジャスに吠えられてようやくのろのろと蛞蝓のような早さで去っていった。小さく後悔の言葉を呟きながら見えなくなる小さな背中。

 どうやら自分の代わりに雇い入れた若い男に宿を乗っ取られたらしい、だからと言って何も同情する気持ちは起きなかった。

「…さ、シャーリィ。美味しいご飯を食べようか」

「うん!」

 人をした事が自分にいつか自分に返ってくる。

 不思議だが運命はそうなるらしい。

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