大きな味方
お互い驚いたまま固まりそして、今の状況を整理するためミアとメアリ達を呼び私が少し席を外す事を伝えて自室に招く。ミアはクラウス叔父様を知っているために突然の登場に私と同じ様に驚いていた。
クラウス叔父様は変わった方だと言われている。大変優秀な方だが嫡男でない事を理由に幼い頃からせめて家のために働くようにと様々な教育を受けさせら、結果今では王族の側に仕えている大変すごい方である、が。
そんな優秀な方だがとても自由な方で政略結婚が当たり前に行われるこの国で何よりも恋愛結婚にこだわり様々な女性と浮き名を流しておきながら結果、未だにお一人である。
本人は特に気にしている様子は無く、未だに美しい女性に惹かれては別れを繰り返し…そして今回は。
「まさかスカーレットとアリヤと知り合いだとはな…」
「まあその…叔父様の隣にいられる方が毎回変わるのはいいのですが…」
「私、身請けされたのよねぇ」
「今回は本気だぞ?こんな綺麗で魅力的な女神に会えるなんて」
「はあ…まあスカーレット様がお幸せなら」
「退屈したらすぐにさよならするけどねぇ」
国の重役の側にいる事になったのにスカーレット様の掴めない雰囲気は相変わらずだ。
「…ところでアリヤ」
「…言いたい事は分かります」
「だろうな…」
「いくらでもお聞きください」
「それじゃ…」
クラウス叔父様は隣国への訪問で長い間この国から離れていたが最近ようやく帰国されたらしい。その間自宅に届いていた手紙を確認すると何と甥が婚約者を捨てて別の女と駆け落ちをしたと言う内容だった。
驚き兄夫婦の元を訪ねて詳細を聞くと現在捜索中で未だに見つかっていない。
「元の婚約者のアリヤはどうしたのかと、尋ねたよ」
そうして私を探してこの町に来たらしい。
「…はい」
「駆け落ちが発覚した時は大変だったらしいな」
「もう過ぎた事ですし」
お前が婚約者をきちんと繋ぎ止めていないからこうなるのだと責め立てられ、いつ見つかるか分からない婚約者を待たせるより自由におなりと婚約破棄をさせれられて、挙げ句の果てにもう誰か結婚してくれるような男もいないだろうと…家族から家を出されてしまった。
「冷た過ぎないか?」
「…確かに、私は結局家を発展させるための存在だったと思いましたね」
「…アリヤは優秀だ。礼儀正しく頭も回る…なのに」
「ですが今はそうなって感謝しています」
「感謝?」
家を出されて与えられた祖父母の屋敷で今はホテルの経営をしていると話すと叔父様はとても驚いた。
「…アリヤが」
「はい」
「経営…」
「すごいでしょぉ?私も協力したのよぉ?」
「スカーレット様には本当に感謝しております」
「あの話本当だったのか」
スカーレット様は叔父様に若い女がホテルを経営していると話していたらしい、それに興味を引かれた叔父様が今回ご来店。
「…よく頑張ったな」
「そうですね。一人では出来ませんでした…」
ここまで着いてきてくれたミアや評判を広めてくれたメアリ。経験者として頼りになるロアなど彼等の事を話しながら叔父様に是非見て貰いたいとホテルの中を案内する。
アメニティバーのドリンクサーバーに驚きながら感心し、部屋は様々なタイプがありお客様の好みに合わせて選ぶ事が出来る。
朝食は自分が食べたい物だけを取り食べられる形式にしてリリナから教わった変わった料理を紹介する。
「…アリヤ」
「はい?」
「よくこんな風に思い付いたな」
「…叔父様。実は私にはホテルの経営を手助けしてくれる心強い仲間がいるのですよ?」
「その方はどちらに?」
「鏡の向こうにおります。こことは違う別世界の素敵な女性」
「アリヤも冗談を言うようになったんだな」
「あら?本当ですよ?」
まあ信じて貰えず当たり前か。リリナの姿は私にしか見えないのだから。
「……しかし」
「はい」
「馬鹿な甥が迷惑をかけた。アリヤには本当にすまないと思っている」
「いえ…そんな」
婚約破棄の件で初めて誰かに頭を下げられた。
「アリヤが望むなら俺が新たな婚約者を探そうか?駆け落ちしない、誠実な男を」
「叔父様」
「ん?」
「今は、結婚について考えておりませんの…」
「だけどいつかは…」
「このホテルを始めてから、様々な方が来られました」
自分の力で生きるために娼婦になった女性。身分が低いが故に雇用を切り捨てられてさ迷う国民。結婚をしたが夫と上手くいかずに自分の時間を作るためにここに泊まった女性。
「私は身分関係無く泊まれて安らげる場所を作りたいのです。そのため今はこのホテルの経営に集中を…それに楽しいのです」
「楽しい?」
「今まで自分を圧し殺して誰かのために生きていましたが、今はそうする必要が無くやりたいことを出来ています」
「…確かに」
今のアリヤはとても明るい。婚約があった頃はお人形のように微笑んで静かに佇んでいたのに見違えるようだと。
「それに…女性が結婚せずとも自立していけるようにしたいのです」
「自立?」
「女性は結婚して家庭に入るのが当たり前ですよね?そうすると結婚している女性には働く場所がなかなか見つからないのです」
「まあ、妊娠したら働けなくなるしな…」
「でも、夫と別れたら?子どもを連れてどうするのか…再婚するのが普通ですが…」
正直年齢を重ねれば簡単にいかない。家に戻ればいいとも言うが、親が年老いている場合はその面倒も見る事があり、男兄弟がいる場合は家に帰れない可能性が高い。
「それじゃ…どうするか…」
運良く働く場所を見つけても、男性の収入には敵わず生活は苦しくなる。しかも雇用を切られやすい。
「行き着く先は娼婦や危険な仕事です」
「一応離婚した女性や寡婦に向けた結婚相談所はあるけどな…」
「確かにありますが…何と言うか私にはどうも生き方の選択肢が少ないと思うのです」
叔父様を非難する訳ではないが、男性は自立し結婚しても仕事を続ける事が当たり前に出来る。離婚したとしても収入があるためまた新たな相手と結婚する事が女性に比べて容易だ。
「…ホテルの従業員に小さなお子様がいるお父様が働いています。今はそのお子様を皆で見ながら問題無く働いているのです」
「珍しいな。その父親、奥さんがいないなら子どもを両親に預けたりとか」
「孤児院で育った方なんです」
「…なるほどな」
「そう言った方が、見えていないだけできっといます。私はホテルの経営をもっと力を入れて…行く行くはそう言った方を雇い入れたいのです」
「雇い入れるって…素性が分からなかったり、教育を受けていないと面倒にならないか?」
「掃除やホテルの敷地内に畑があるのでその管理を任せたり、仕事はあります。素性に関しては…私がその人を見る目を養います」
「随分考えてるな」
「夢見物語に思えますか?」
「…いいや、そんな事無いよ」
アリヤは強いな。
そう言って叔父様は優しく微笑んでくれた。
「私からもお聞きしても?」
「ん?どうぞ」
「スカーレット様とは…」
身請けしたとは分かったが、結婚はするのだろうか。
「どうする?スカーレット」
「どうしようかしらねぇ?」
「決められていないんですか?」
「だって元々あなたを探しに来てたのに私の事を聞いて買って遊ぶような男よぉ?」
「まあまあいいだろそれは」
結果的にアリヤが見つかったのだからと笑う。
スカーレット様の人としての魅力に身請けしたと叔父様は言う。これから結婚するのか愛人になるかは未定らしいが、不自由の無い生活は送れる事を保証しているらしい。
あちらこちらの女性に目を奪われているがすごいのは恨みを買っていない事だと呆れたように感心していたのをお義父様が、いや、レーズ様が言っていたのを覚えている。
「…それじゃアリヤ」
「はい」
「君のホテルを堪能させてもらうよ」
「ええ、どうぞ」
お互いに聞きたい事を聞き終えてここからお客様と従業員になる。二人へ部屋を案内し改めてアメニティや部屋に泊まる事で受けられるサービスなどを説明する。
スカーレット様も叔父様も隅々まで泊まる部屋を見て私に向かって微笑む。後は二人の時間を楽しんでもらう事にして自分の仕事へと戻る。
「お嬢様!」
「あ、ミア」
「驚きましたよ!突然あのクラウス様が…」
「私も驚いたわ…あのね」
私が二人から離れた事を見計らってミアがやって来た。
聞きたい事がたくさんありますと顔に書いており彼女に何があったか説明すると、まさかスカーレット様とクラウス様が…と驚いていたいたが徐々にいや、クラウス様ならあり得ますね。と納得していた。
我の強い美人に弱いからな。
「面白い物ばかり作ってるな」
「そうでしょうぉ?」
「まだまだです。まだ作りたい物があるのです」
お二人をアメニティバーや夜の屋台に案内し楽しんでもらうとリリナの力を借りて作った様々な物に興味を引かれているらしい。
ドリンクサーバーも売れ行きが好調らしく、発案者となっている私に収入が少しだが入っている事を伝えると本当にどうやってこんなの思い付いたのかと首を傾げる叔父様に笑って別の世界の素敵な女性のおかげですと返す。
「実は今、お風呂も大きく変えたいのです」
「お風呂を?」
バスタブにお湯を入れるだけではなく、桶に入れたお湯だけで洗うのではなく大きなバスタブを作り常に温かいお湯に入れるようにして清潔を保つ。
「そんなのどうするんだ?」
「お湯を貯める場所の下に大きな空間を作りそこに温風を送り常に温かいお湯を保てるようにするのです」
「…へぇ?」
リリナが調べてくれた。曰くかなり古い時代の大きなお風呂の仕組みらしく彼女から聞いたその仕組みを絵に描いた図を叔父様に見せて説明する。どこの国、確か古代ローマと言っていたお風呂の仕組みを見せてリリナの世界の大浴場のように大きなお風呂を作りたいのだ。
「これ作るの大変だろう?」
「確かにそうですが…」
清潔を保つ事が出来れば体は健康を保てる。今は必ず宿泊者にお湯を運んでいるためここでは大丈夫だが、安宿に泊まる宿泊者の中にはなかなか体の清潔を保てずにおり知らず知らず病気をもらっている事があると言う。
実家にいた頃に安宿はそんな恐ろしい事があるのだと教わっていた。
自身のホテルで万が一何か感染症でも起きれば楽しみに泊まったお客様も酷い目に合うかもしれない。
それは避けたい。そのため体の清潔を保てるような環境を作りたいのだ。
「お湯を運ぶのも力仕事ですし」
「まあ、そうだな」
「それに大きなお風呂で体を癒してもらうんです」
「癒す?」
「花を浮かべたり石を入れたり木を入れたり」
「石を?」
「温浴効果が高まるとか何とか」
「…何でそんなの分かるんだ?」
「…別の世界の素敵な女性が…」
リリナの世界では果物を浮かべたりするらしい。
「ふーん…」
「どうでしょう?」
「ちょっとこれ預かっていいか?」
「どうぞ?」
叔父様に大浴場の計画書を預けて夜は更けていく。大きなお客様はいたがそれ以外は特にお客様も増える訳は無く溜まっていた仕事をゆっくりする事が出来た。
ロアとシャーリィも帰って来てシャーリィはロアに買って貰った大きな棒付き飴を持って今日がどんなに楽しかったのかと一生懸命話してくれてロアはお休みをいただきありがとうございましたと頭を下げて、はしゃいで眠くなり始めたシャーリィを抱いて自室へと戻る。
売り上げを確認し、いつもより早く終わったためミアにもう休むように伝えて私は宿泊者のいる階を最後に周りながら休もうとした。ちなみにいつもこの巡回の時はジャスも一緒だ。
「…あ」
するとジャスが足を止める。不思議に思うとそこにはメアリ達が立っていた。
「…仕事、終わったわ」
「…それじゃあ…いい?」
「ええ。私の部屋でいい?」
メアリ達を自室に招いていつもと違い少し暗かった理由を尋ねる。
「……家がね」
「家が?」
「追い出される事になったわ」
「…それは、何故?」
「緑の看板の宿がこっそり娼婦を呼んでるって話をしたでしょう?」
「ええ。聞いたわ」
「私達と同じ様な、娼館に所属してない娼婦達がどんどんそこに引き抜かれているのよ」
「引き抜き?」
「そう」
メアリ達にもその話が来たが、どうも胡散臭くましてや宿屋と言いながら体を売っている事が分かると面倒になる。
他の娼婦達は客が減った事へと焦りと宿の仕事も与えて衣食住は必ず保証すると言う言葉にどんどんそちらへ流れているらしい。
「宿と娼館が本当にごちゃ混ぜになってるわね」
「娼婦として買われなくても宿の仕事をさせるから収入は保証するって言われたけど…」
「何だかねぇ、それでもし国から宿屋なのに娼婦がいるのはどういう事かって聞かれたら…」
「きっと娼婦が勝手にやった、なんて責任を負わされるわ」
「宿に流れていった娼婦の皆にはそう言わなかったの?」
「言ったわ、言ったけど…皆もうお金が無いことに焦って」
正常な判断がつかなくなっているらしい。
そうしてメアリ達は拒み、宿の娼婦に客を取られて稼ぎが無くなり家を追い出される事になった。
そうすると。
「メアリ!セイラ!エリザ!私達と働きましょう!」
思わず立ち上がって言ってしまった。
「衣食住、必ず保証するわ!タ○ミーとして働いたあなた達の働きぶりは感心してる!是非一緒に働きましょう!」
「…タ○ミーって何?」
「あ、ごめんなさい…つい…」
「まあ、そうお願いする予定だったのよ」
迷惑をかけてしまうかもしれないけど、頼れるのはもうあなたしかいないのと頭を下げられたが頭を下げるのは私の方だ。
娼婦として培われて来たお客様への対応や面倒な客へのあしらいかた。ベッドメイクや掃除もロアが教えて一通りは出来る。
宿泊者が増えている今、彼女達が働いてくれればもっと泊まる人を増やせる。
「メアリ達がいてくれる!何て幸せかしら!」
「…大げさね。でも、ありがとう」
このホテルの評価を下げないように頑張るわ。
新たな仲間が増えた。しかも三人も、何て大きな味方だろう。
翌日昨夜からご機嫌な状態でミアとロア、シャーリィに新たに三人が従業員になった事を告げるとミアは両手を広げて「ようこそ」と笑い、ロアは拍手をして出迎えてくれた。シャーリィはよく分かっていなかったが万歳していた。
「どうした?アリヤ」
「叔父様!スカーレット様!おはようございます!
」
「何か良いことあったのぉ?」
「ふふ、仲間が増えたんですよ?心強い仲間が」
「それは、俺とスカーレットの事か?」
「叔父様もスカーレット様もそうですが…新たな従業員が増えたのです!」
「そりゃ良かったな」
「おめでとうねぇ」
とてもいい朝です。朝食も気合いが入りながらメニューの説明をして叔父様が食べた事の無い料理に舌鼓を売っていた。
外に迎えに来た馬車に気付いたお二人はホテルを後にして叔父様のお勤め先でもある城下に行くらしい。
「アリヤ」
「はい」
「今後何かあれば、俺を頼りなさい」
「…ありがとうございますクラウス叔父様」
「私も頼っていいのよぉ?」
「スカーレット様にはいつも助けられていますよ」
そう言って笑いながらお二人を見送る。
それからしばらくしてから私の大浴場の計画をクラウス叔父様が実行しようと手紙をくれてひっくり返りそうになった。




