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仲間

 改めて、この屋敷を整理する。

 五階建ての屋敷に部屋は数えてみると二十三部屋。五階にある部屋は元々この家の主人である私の祖父母が使用していた部屋であるらしく、この階は私とミア、そして新たにロアとシャーリィ親子の私室とする。

 現在その内泊まるために借りれる部屋は三階に一人部屋が三部屋。メアリ達が泊まり好評を得た部屋だ。

 もう一つはお子様と泊まれる親子専用部屋。こちらも同じく三階にある。

 四階にはメイド達の部屋であろう。一つの部屋に複数のベッドが置かれた部屋が三部屋ある。

「こんな…感じですかね?」

「いいわね。これなら相手から姿が見えない」

 複数のベッドが置かれた部屋をリリナの言うカプセルホテルのようにしたい。同じ空間にはいるが相手に見えないようにと、ロアの力を借りて棚ではなく天井に届く程の大きな仕切りを作った。

 廃材を貰い布で目隠しをしてベッドを囲うにように置く、仕切りは倒れないように重り代わりの

レンガを置く。

「最高だわ。ロア、あなたこんな事も出来るのね」

「やれと言われて見様見真似でやりまして…」

「掃除にベッドメイクに大工仕事まで…」

「とは言え簡単な物しか作れないです。私達が泊まらせていただいた部屋の…積み木?あんな細かな物までは作れないです」

「いいえ、十分よ」

 後はここに泊まる人が大事な物を盗られないように鍵付き金庫を置く。

 後はベッドに使うシーツなどリネン類があればこの部屋も使えるようになる。

「リネン類…」

「そうなのよねえ」

「お嬢様…もうこの屋敷には」

「そうなのよ…もう寝具に使える物は無いのよね」

「あ、そうなのですね…」

 新しく買うにはまずお金が必要だ。

 今の収入はレストランに納品する野菜から得た収入。たまにメアリ達が泊まりに来てくれた際にお礼として渡されるお金。しかしそれに関してはまだ営業が正式に決まっていないのに貰うのが申し訳なくほぼお金ではなく物で貰っている。

「ただ野菜も無限にある訳じゃないものね…」

「そろそろ尽きそうですしね」

「あ、アリヤ様!私は三日は食べなくても平気なので!」

「いや毎日食べさせるわよ」

 雇った人間を飢えさせる訳にはいかないわ。

「レストランの方には伝えているの?」

「ええ…元々専業農家ではありませんし、向こうにはそろそろ納品出来る野菜が無くなって来ているので他の仕入先を探すように伝えています」

「そうね。今までの買って貰っただけ有り難いわ」

「今度今までのお礼にご馳走して下さるそうです」

「え?いいのかしら…」

「向こうは是非来てくれと」

「……いつ行くか考えなきゃね」

 尽きる物は仕方ない。また新たに考えよう。

 野菜の納品で得た収入を大事にし、後は私が持っているドレスも売れば少しの間は食べる事は出来るだろう。

 そして、食べると言えば。

「お姫様ー!」

「シャーリィちゃん!お疲れ様!」

「一杯取れたー!」

 今後の事を考える大人達三人の前にジャスと共に走って来たシャーリィは籠に一杯入ったグミの実を見せた。

「これは?」

「庭になってた実よ。食べられるの」

「初めて見ますね?」

 籠の中にある実を一つ取り食べて見せる。酸っぱくて甘い、不思議な感触の実であるが美味しい。

 私が率先して食べて見せた事にミア達も一つ食べてみると確かに美味しいと呟く。

「食べていい?」

「はい。どうぞ」

 シャーリィも一つ取り口に運ぶと美味しいと喜んでいた。

「こんな実があるんですね…」

「ここに来た時はなってなかったけど…今はたくさんこの実がなってたわ」

「なるほど…」

「もしかしたら、これからまた時期を迎えて実る物があるかもしれないわ」

 今はとにかく辛抱しましょう。

「しかし…よくご存知でしたね?この実が食べられる事を」

「…昔読んだ本にあったわ」

「なるほど!さすがお嬢様!」

「え、ええ…」

 別の世界の友達から聞いた知識だと言ったらおかしな目で見られるだろうか。

 そもそもリリナの事は私にしか見えないらしい。

「あ、保存が効くようにこのグミの実と…オレンジもまだあるわよね?」

「あります」

「コンポートにして頂戴。砂糖は平気よね」

「砂糖はまだ十分あります。そうしましたらコンポートを作って保存しておきますね」

「ジャムも作れるようならお願い」

「はい。お嬢様」

「オレンジ取るの?お手伝いする?」

「ありがとうございます。でもオレンジはもう高い所の部分しか取れないのでまだ小さいシャーリィ嬢ではちょっと難しいですね」

 今日はグミの実の収穫だけで十分ですよ。とても助かりました。

 ミアに撫でられて照れながら笑うシャーリィは父に抱き付き褒められた喜びを表現していた。

「ロア、ミアと一緒にオレンジの収穫を手伝ってもらえる?」

「はい。勿論です」

「シャーリィは私が見ておくわ」

 残りのオレンジの収穫に向かった二人を見送りシャーリィとジャスと過ごす事にした。


「おばあさんは川で洗濯をしていると川上から大きな桃がどんぶらこ…どんぶらこ…」

「なあに?どんぶらこって?」

「川から桃が流れてくる音だそうよ」

「そうなの?」

「そうよ?」

 シャーリィがここに住むのが決まってから文字の読み書きがまだ出来ない彼女に教える時間を作る事にした。しかし人に、ましてやこんな小さな子に文字の読み書きなどどう教えればいいのかとリリナに相談したのだ。

“アリヤはどう教わったの?”

「家庭教師よ。毎日本の音読に読み書きをして…間違えるとつねられた」

“うわ…”

「怖かったおかげで覚えるのが早かったわ」

“シャーリィちゃんにはのびのび覚えてもらおう。童話とかおとぎ話とか読んで見せたら?”

「…私、そう言う話を知らないの…」

 ずっと勉強していたからと幼い頃の灰色の思い出が甦ると、リリナは自分の知っている童話を私に聞かせた。

 どうして川からとんでもない大きさの桃が流れて来てそこから子どもが生まれて来る理屈がさっぱり理解出来ないがそう言うものだと言いくるめられて彼女からおとぎ話を教わった。

 桃太郎。悪を退治する正義感に溢れた青年の話。

 シンデラレ。過酷な環境にいながらも最後は救われる女性の話。

 赤ずきん。森に離れて暮らす祖母のために見舞いへ行くと狼に食べられてしまう話。

 シャーリィは桃太郎の話にはあまり感心を示さなかったが女の子が主人公のシンデラレと赤ずきんの話には興味を持った。

 私がリリナから聞いた話を紙に書き、それをなぞりながら聞かせる事でこの字はこうだと分かるようになればいいが。

「ジャスー!」

 赤ずきんを読み終えるとシャーリィはジャスを呼んで彼に抱き付く。

「ジャスは食べないもんね。ジャスは良い子だもんねー」

 どうやら話の中の狼でジャスを思ったのか、彼がお腹を切られないように赤ずきんと狼が仲良くなれるようなお話を望んだため、字を教えながらシャーリィの作る話を紙に綴る。

「赤ずきんは狼とお花畑で仲良くなるの」

「素敵ね」

「それで一緒におばあさんの家に行きます」

「仲良くお見舞いね」

「そこに悪い人間がやって来て!退治するの!」

「話の展開が変わったわ」

「赤ずきんはキックで倒す!」

「勇ましいわ赤ずきん」

「狼さんはパンチする!」

「狼がパンチ??」

「おばあさんは魔法使うの!」

「おばあ様も戦うの!!?」

「めでたしめでたし~」

「す、すごい話ね」

「楽しいね~」

 子どもの想像力とはこんな自由な物なのか。紙に綴ったシャーリィの新・赤ずきんを見ながらこれは後でロアに見せてあげようと決めた。

 はしゃいでお腹を少し空かせたシャーリィにオレンジとグミを少し渡してお腹を満たせると温かい天候で眠そうにし始めたため手を引いて屋敷の中へと入る。

「シャーリィちゃん。お昼寝する?」

「する…」

「どこでする?」

「ここ~」

 屋敷を入ってすぐ。ホールにある少し年期の入ったソファーに彼女を寝かせてジャスには彼女の警備を任せて外に出る。丁度オレンジの収穫を終えたミアとロアが戻って来る様子が見えた。

「ロア、ロア」

「はい!アリヤ様!」

「お疲れ様。シャーリィちゃんは今ホールのソファーで寝ているわ。ジャスが側にいる」

「分かりました。起きたら私が見てますので」

「お嬢様。こちら全部コンポートとジャムにしますか?」

 ミアが収穫したオレンジを見せて尋ねる。思ったよりも採れていて全部そうするのは大変そうだ。

「…三分の二ぐらいでいいかしら」

「分かりました。そうしたらそのように」

「私は少し町へ出るわね?」

「あ、そしたらお供を…」

「平気よ」

「大丈夫ですか?ちなみに何をされに…?」

「リネン類がいくらするか見に行くの」

「分かりました。お気を付けて」

 何かあったらすぐに帰って来て下さいね。


 町を歩くのは久しぶりだ。無理だろうと思っていたが領主に会って営業許可を貰いに行く以来だ。ミアの買い物の手伝いなどで出た事もあったが一人きりは殆ど無い。

 髪を短くした事で後ろ指を差されるが、自分で決めた事に後悔は無い。が、こうも馬鹿にされた笑いでリネン類の事を尋ねると目の前にあるにも関わらず「無いよ」と一言だ。あるじゃないですかと尋ねると「あんたに売れるのが無いよ」と笑いながら言われる。理由を問うと「俺はちゃんとした女に使ってもらいんたいんだよ。あんたみたいな男の事を考えないような無作法な女には売れるのが無い」との事だ。

 髪が短い、女として失格。男のために尽くす女が価値があるとこの国の歪んだそれが買い物に支障をきたした。

 ちなみに私の事を知っている人間もいるらしく、あの領主が面白おかしく吹聴したのか、ミア達にお土産を買おうとすると馬鹿にしたように「すいませんお嬢様。売り切れです」と言われてしまう。

 知っている人間には婚約者にも家族にも捨てられた貴族、馬鹿にしてもいい存在と認識されているのだろうか。

「あら残念。でしたら失礼しますわ」

 ここで怒って反応しては私を更にからかいそうだと判断し、毅然とした態度で町を後にした。


“分かった。ぶち殺そう”

「リリナ、リリナ。物騒よ」

“分かった。呪おう”

「リリナ、リリナ。出来ないわ」

“アリヤを馬鹿にした奴ら全員足の小指を角にぶつけろ!!”

「そこそこな痛みがあるやつね…」

 町から帰りミアに心配をかけてしまうのでリネン類は見つけられなかったと伝えておく。丁度昼の時間で昼食とリリナの“お昼休み”の時間も被っていたため早々に昼食を終えると彼女につい愚痴のように溢してしまった。

 話を聞いたリリナは真顔で彼等を呪う言葉を呟いていた。

「そ、そう言えばグミの実をコンポートとジャムにしたの。とても美味しく出来たわ」

“お、良かったじゃん”

「これからの季節で実る物があるかもね」

“それね。屋敷の周りを私は確認出来るんだけど…多分これからレモンが出来るよ”

「まあ。何を作ろうかしら」

“私も何か作れるかググるよ”

「ぐぐるしたら教えてね」

“うん勿論”

 リリナは夢の中で町を探索して“すまほ”から屋敷の状態を確認する事が出来る。そのおかげでこの世界に何があるのか把握出来ていた。

“それでね。さっきお土産買えなかったって言ってたじゃん?”

「ええ。今頃あのお店の人小指ぶつけてないかしら」

“ぶつかれ。それでさ。まだ砂糖はある?”

「あるわ。砂糖と塩なら…後はこの間作ったマヨネーズね」

“うん。砂糖だけあれば十分かもしれない。お菓子作れるよ”

「お菓子を?」

“オレンジ残ってるし。フルーツ飴が作れると思う”

 かなりカロリー高いみたいだけどと言ってリリナは私にそのレシピを教えてくれた。

“美味しいの食べたら気分も晴れるよ”

 そう言って彼女は仕事に戻り、私は果樹と砂糖のみで作れるらしいその飴に挑戦する事にした。


「えーっと…」

 使う果物はしっかり洗い、皮をむいてまた綺麗にする。串に差して水気を切り…。

「何だか斬新な料理ですね。この水気を切ればいいんですね?」

「アリヤ様。私も手伝いますよ」

「あたしも手伝う!」

「シャーリィちゃんは味見係よ」

「はい!」

 新しいレシピを考えたと言って二人にも手伝ってもらう。

 どこでそんなレシピを思い付いたのかとミアはマヨネーズの時もそうだが不思議そうにしていた。少ない物で色々工夫した結果と答えると「流石お嬢様!」と言ってくれる。

 沸騰した砂糖水を止めて串に刺したオレンジにかけていく。後はこのまま室温で固まるのを待つ、だけらしい。

「見た目は綺麗ですね」

「串に刺す辺り…片手で食べれて良いですね」

「後は美味しいかどうかね…」

「まだ味見だめ?」

「固まったらね」

 待っている間にシャーリィが作った話をロアに聞かせるとミアは拍手をしてシャーリィを物語を作る天才と称賛した。

 ロアは娘のその話に戸惑いながらも褒めており、親子で読めるようにロアにも文字の読み聞かせをしていると、フルーツ飴は出来上がっていた。

 砂糖で固められたそれは艶を帯びている。綺麗な見た目だと思い眺めていると、小さく割れる音がして見てみると、シャーリィがもう口に入れていた。

「あ、シャーリィ」

 ロアが慌てるが、シャーリィは目を輝かせている。

「甘くて美味しい!!」

「…大成功みたいね」

 大人も続けて食べると砂糖で固めているためまず甘いが、その後にオレンジの酸っぱさが混ざりとても美味しい。

 何だ。あのお店で買わなくてもこんなに美味しい物がここにあるじゃない。

「お嬢様!天才です!これは!」

「こんな…甘いの初めてです!」

 ミアとロアも絶賛している。

「これ…今度メアリ達が来たらご馳走しよう」

 彼女達が来た時のためにまたオレンジを取って置き新たなお菓子が出来た事で大人達はこれをホテルの料理に加えるべきか議論した。

「デザートとして提供します?」

「うーん…朝からだと少し重い気がするわ」

「ホテル内で簡単に食べれる甘味として販売してみては?」

「販売か…考えてなかったわね」

「お茶の時間に合わせて作って…お茶と一緒に提供しますか?」

「お茶と甘味をセットで販売をすると言う事で?」

「そうすると…片手にお茶で片手に飴にならないかしら…?愉快になってしまうわ」

「お茶とセットの方のは飴をお皿に乗せてフォークで食べて貰えば…」

「お茶無しの方には串に刺したのを提供して…」

「ここにリボンつけよー?」

「串にリボンを…」

 大人の話し合いの中にシャーリィのかわいいアイディアが出てきたところで笑って話し合いが止まったが大体はまとまった。

 ちなみその後ロアが「ホテルについての話し合いに参加出来た…」と感動していた。本当に不遇な扱いを受けていたんだろう。


「よし…」

「準備出来ました?」

「ロアもそれ以外に何か服無いとね…」

「でもこれ仕立てが本当に良くて」

 あくる日。

 レストランに最後の野菜の納品を終えた夕方。お世話になったお礼にと招かれたレストランに向かうため四人で準備をする。ロアは服が現状バトラーの制服しか無いため古着屋で何か買わなくては。

 シャーリィは私が仕立てた二着目のワンピースを今日初めて着ている。破けてしまったカーテン地を使用して汚れるのを考慮してエプロンを着けている。

「お父さんお父さん。ジャスは行かないの?」

「ジャスはお留守番だよ。ごめんね」

 レストランにジャスは入れないため彼はお留守番だ。可能であれば骨など貰ってお土産を買って行こう。

「ミア。道案内お願いね」

「任せて下さい」

 レストランが楽しみだ。今までなら上流階級のお付き合いとして行く事が多かったが、失礼の無いように緊張し、粗相があれば激しく怒られるので楽しみではなかった。

 こんな風に思えるのは初めてだ。笑いながら出かける事が出来るのは。


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