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9 出張精算の行方

 妖精一族も無事にドラゴンとの盟約を継続できたため、報酬として「妖精の花冠」は、無事に届けられた。


 それは伝承に違わぬ美しさで、リリアーヌを大いに喜ばせた。


 また花冠を戴いたリリアーヌは、妖精にも愛される地上の天使と讃えられ、国を揺るがす大騒動を引き起こしたのも記憶に新しい。


 もっとも、その中で特に歓喜に震え、正気を失ったのはエレオノーラであるが。


 そうした騒動も一区切りしたところで、手渡された報酬の明細を握りしめ、魂の叫びを上げているのはリンとガイである。


「カニは壊れてねぇ、盟約は継続だ!!!なのに、なんで俺たちの報酬がマイナス精算なんだよ!おかしいだろ!!」


 荒々しく叩きつけられた明細を、オスカーは眉ひとつ動かさずにモノクルで一瞥した。


「……心外ですね。計算は完璧ですよ。エレオノーラ様、ご判断を」


 エレオノーラは興奮したリンとガイを一瞥すると、ス…と扇子を開き口元に充てた。


 それだけでリンとガイがビクリと震えるが、負けている場合ではない。


「確かに、妖精から花冠をいただいたのは事実です。ですが、あなたたちの今回したことを考えてごらんなさい」


 細められた目に、有無を言わさぬ迫力が漂う。新米兵士なら直立不動のまま動けなくなるだろう威圧感だ。


「まず、可愛いリリアーヌのために妖精から花冠をもらってきた。そしてお友達のドラゴンとちょっと山の中で喧嘩してきた、それだけじゃないの。それのどこが『お仕事』だというのかしら?」


「意義あり!!!オスカーは出張旅費は出るって言った!!」


 右手を素早く挙手して申告するリンにオスカーの無情な声が重なる。


「『出張』なら出ますよ。エレオノーラ様の判断はお友達とのお出かけです。ご自身の友好関係に経費は出ませんよ」


「ひ、ひどい、詐欺だ!悪徳商人だ!!!」


 喚き散らすリンとガイに、さらに無慈悲な請求が加算されていく。


「続きまして、お友達の黒竜、…ヴァルト様ですが、度々、あなた方を訪ねていらっしゃるので、我が侯爵家に離着陸場を用意せねばならなくなりました。その整備代の追加請求をさせていただきます」


 困ったら呼べ。そういったドラゴンは特に用がなくてもリンとガイを訪ねるようになった。


 麓の町以外にも興味が出たらしい。


 勿論、王都までの行程は空路である。数百年に一度と言われるドラゴンの出現に、これもまた王都は騒然となった。


「その際の交通整備等、混乱対策の警備費もあなた方の負担となります」


「なんでだよ!!!」


 エレオノーラはパチリと扇子を閉じてほほ笑む。


「お友達なんですもの、我慢なさい」


 侯爵家はドラゴンと妖精とも懇意である。…おとぎ話のような話だが異種族とも深いかかわりがあるということは、政治的にも利用価値のあることだ。


 しかし、本人たちがその価値に気づかないのなら、あえて言う必要もあるまい。


 これもある種の勉強だと思って、今後の人生の糧にしてほしいものだ。


「あら、そうしたら授業料も請求するべきだったかしら…。まあ、そこはサービスにしておきましょう」


 自らが手にした利権の大きさに、十分に満足して頷くのであった。


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