第五十九話 護衛依頼の終わりに
翌日、おそらくバルディアまでの移動の最終日になるであろう一日がスタートした。
野営地の後片付けを済ませ、隊列は順調に街道を進んでいる。
そんな中、ルカは最後尾での警戒任務を続けながら、リネットへの感応術の講義に勤しんでいた。
もちろん師弟というわけではないし、ルカが王国の軍や感応術師団に所属しているわけでは無い以上、上司と部下というわけでもない。ただ昨夜セオから頼まれた事と、リネット自身が口にはしないまでも、教えてほしそうにしているからだ。
「そんな考え方もあるんですね……」
「えぇ、昨日もそれらしいことをお話しましたが、何らかの言葉を鍵に、どうしたいのかがはっきりイメージできていれば、感応術というのは意外に緩いんですよ。《石壁》で石の壁を作れることは良く知られていますが、ちゃんと理解して調整すれば土の壁を生成することも鉄の壁を生成することも出来ます。と言っても空気中はもちろん、地面などに存在する鉄はかなり少ないので、壁を作るとかなり消耗すると思いますけど。」
今話しているのは感応術のカスタマイズ性とでも言えば良いだろうか。どういう事情や歴史があってかはわからないが、一般的にはどうも特定のキーワードで特定の事象を引き起こせるが、逸脱するとダメだという風に認識されているらしい。
実際のところはそんなことは無いし、ルカも風の扱い方を調整して《旋揚》として使っているわけで、考え方次第で結構どうとでもなる。
リネットは《音波探査》の"範囲を調整する"という経験から、咄嗟のこととはいえ《風の封壁》を《灼空の封盾》という形に昇華させて見せたのだから、この辺りの考え方だけ伝えておけば自分でどうとでもするだろう。
「なるほどぉ……そうなると既存の術に縛られる必要もありませんし、もっと自由に変えていけるような気がしますね。ただ私の場合、《音波探査》と《灼空の封盾》は別として、他の術の威力が弱すぎて使い物にならないんですよねぇ……」
理解も納得もできるが、自分にそれをうまく扱うだけの地力が無いとリネットは肩を落としていた。もはや見慣れてしまった表情にルカも少し苦笑する。
だが、ルカから見てリネットの地力が無いかというと、ルカの考えは全く逆であった。彼女には感応術士としての才能がある。
なのに術の威力や効果が出ない。それはきっと本人が自分の術はそういうものだと"思い込んでいる"のに他ならない。
「リネットさん、どうも自分に自信が無いみたいですが、《灼空の封盾》なんかは十分実戦級の……いえ、十分どころじゃありません。状況や相手の近接戦闘経験にもよりますが、一対一の白兵戦を基本とする相手なら、あれ一発で防具ごと問答無用で焼き殺せてしまう威力なんですからね? 貴女の感応術の威力が弱いのは"能力が低い"のではなくて、きっと"思い込み"ですよ。私の術はその程度しか出来ないはずだと"思い込んで"いませんか?」
「えっ? いや、《風の封壁》だって私の術は弱いから、相手の攻撃を何とか防がなきゃって、より強力な障壁にしなきゃって必死に……ぁ――」
自分で言って自分で気が付いてしまい、リネットがその顔を真っ赤に染めている。
両手で顔を覆っているが、その横から覗く耳を見れば一目瞭然だ。
「はははっ! ほら、"弱いから"って思ってるじゃないですか!」
ルカが笑うのに釣られたのか、周囲の他の面々も大笑いしている。
ユージンとライナスなんかはかなり意地の悪い感じで笑うものだから、珍しくリネットが追い回していた。
もちろんイアンとニコからは、遊びじゃないのだから警戒行動に戻るように、と窘められていたが。
ちなみにアーヴは緊張感のなさに呆れっぱなしの様子だった。こういうところはアーヴの方が真面目なようだ。まぁ傭兵として契約上の責務はしっかり果たすということなのだろう。
ユージンたちは新兵同然な部分もあるのでまだまだ理解できていないだけなのだろうが、まぁ早晩セオあたりから雷が落ちるのだろう。
こればかりはルカも擁護はできないので、心の中で御愁傷様だと独りごちた。
「次からは《灼空の封盾》すら使いこなす力を持っているのだからと自信を持ってやってみて下さい。自分の術は強いはずだと、弱いはずがないと、そう思えれば自然と十分な効果が出ますよ。」
「はい! やってみます!」
少し垂れた赤い目を細め、リネットは今日一番の笑顔を見せてくれた。
きっと彼女は良い感応術士に成長していくのではないだろうか。自信に満ち溢れた様子で様々な術を操り、国や感応術師団に貢献していく様を想像しながら、ルカは心の中で応援するのだった。
そうこうしているうちに、太陽は南中を過ぎ、青々とした草原の真ん中を通る街道の先に、うっすらと城壁のようなものが見えてくる。
ルカやアーヴ、後方警備の面々からはまだ何も見えないが、誰とはなしに隊列前方から「バルディアが見えたぞー!」という声が聞こえ、皆一様に安堵の表情を見せていた。特に途中参加組であるルカやエリナ、アーヴ以外の面々は精神的にかなり疲れているだろうし、やっとまともに休めると胸を撫で下ろしているのではないだろうか。気のせいかも知れないが、少し隊列の移動速度も早まっているような気がしないでもない。
「あぁ~あと一日、いえ、半日でもあればもっと色々聞けるのに~」
「まぁ、また機会があればお会いすることもあるでしょうし、その時にまたいろいろとお話しましょう。」
垂れた目尻を一段と下げ、リネットがみるからにしょんぼりと悲しそうにしているのを見ると、もう少し付き合ってやりたい気もするが、優先すべきはリィゼを無事送り届けることなので、歩みを止めるわけにはいかない。
少しでも多く何かを掴もうと前のめりなリネットの相手を続けながら隊列は進み、やがて都市を囲む壁の前までやってきた。
都市へ入るためには、相応の身分や持ち物の確認、入市税の徴収などがあるらしいが、そこは王女殿下とその護衛部隊ということもあり最優先で通してもらえるらしい。
門番やその上役と見られる役人たちと、セオがいくらか言葉をかわしたあと、特に止められることなく、一行は都市の中に通される。
かなり高く、また厚みのある壁の門を抜け、ルカたちはバルディアに足を踏み入れた。
バルディアは都市としてはすぐ近くに隣国ルメリア諸国連合との国境があることもあり、ただの都市というよりは、城塞都市の性格が強い。
国境が近い都市の西側には各種領軍関連施設と、その中心であるバルディア西砦があり、東側には領主であるギルベルト=ロイナー辺境伯の居城「バルディア城」、そしてその両方に囲まれる形で中央部分に都市が形成されていた。
ルカたちは都市の南側正面にある門から入ったが、その門から都市の中央を通り、東の方へゆるやかにカーブした先にバルディア城がある。
都市のメインストリートであろうその道は、両サイドに多くの商店が立ち並びとても賑やかだ。しかしカーブを描いた先まで来ると、今度は貴族や役人の家や館が多い地域なのか、少し落ち着いた趣に変わっていく。
また建物の類は総じて石造りになっており、見る限り作りは頑丈そうだ。辺境伯領であり、近くに国境があるということは、これまで何度かの戦火にさらされることもあっただろうし、そういう経験があると自然と建材は木よりも石が多くなるのだろう。
「領都バルディアか、さすがに大きいし、賑わってるな……」
ラボとブレーヴェ村しか知らないルカは、その賑わいを前にポツリと呟いた。
「ふふっ、王都はもっと凄いですから、ぜひ足を運んでくださいね!」
ルカの呟きが聞こえていたのか、隣を歩くリネットからは王都へのお誘いを受ける。
「そうですね、機会があればぜひ。」
特に避けているわけでもなければ、サテライトへ向かうルート上にさえあれば、意識しなくても通ることにはなるだろうし、ルカは当たり障りのない笑顔で返しておく。
さすがに貴族の隊列然としながら進んでいると、何事なのか、どこの誰なのか、という住民たちの好奇の目に晒されることになるが、セオやノアといった一目で騎士とわかる風体の者が随行している時点で、相応の地位の人間がいることは一目瞭然だ。自然と往来の人々は道を開けて隅に避けてくれるし、隊列は特に行く手を阻まれたりすることもなく、バルディア城の城門前に到着することができた。
城門の両側にフルプレートの鎧をまとい、槍を手にした警備兵が立っているが、城門自体は解放されていて一行は特に止められることなく中へ進んでいく。
バルディア城の正面、城門との間にある広場は、城の玄関に馬車が横付けできるように、小さなロータリーのようになっている。
「隊列停止!」
セオが声高に指示を飛ばし、リィゼたちを乗せた幌馬車を正面に停車させる。すると待ち構えていた城の使用人たちが動き出し、リィゼが馬車から降りられるよう、手早く足場を準備しだした。
「よいしょっと。」
普段貴族が使う移動用の馬車と荷物用の幌馬車では乗り降りの勝手が違う。だが、この数日でリィゼは慣れてしまったのか、誰の手を借りるでもなくストンと飛び降りてしまった。使用人たちは酷く慌てた様子だったが、本人はそんなことはお構いなしで、体力の戻りきらないミリアの下車を介助しようとしている。
さすがにそこまでさせてはマズいとセオが止めたようだが。
ほどなくして、リィゼたちは使用人たちに案内される形でバルディア城の中へ入っていったのだった。
その後、ルカとエリナ、アーヴの三人は別途ノアに呼び止められ、バルディア城内の小さな部屋へと案内されていた。
領主の城とは言うが、隣国との国境を目の前にした城塞都市の城である。華美な装飾などはなく、質実剛健という言葉のよく似合う雰囲気だ。
それは通された部屋も同じで、実用重視の机や椅子が並べられただけの小部屋であった。
使用人の控室だと言われても違和感がないほどであるが、部屋まで先導して歩いていたノアの話では、領主であるロイナー辺境伯自身がそういった装飾や貴族の見栄のようなものを嫌うらしく、どの部屋も似たようなものだそうだ。
部屋につくと、ノアが使用人に飲み物の準備だけ指示し、三人に座るよう促した。
正面奥の椅子にはノアが、手前左側にはルカとエリナ、同じく右側にはアーヴがそれぞれ腰掛ける。
「さて、皆さん、今回はご協力ありがとうございました。皆さんの協力のおかげでなんとか殿下を無事ここまでお連れすることができました。」
そう言ってノアは頭を下げた。
旧時代でもそうだったが、家名持ちや爵位持ち、またその子息といったいわゆる貴族階級の人間は、あまり公の場で平民相手に頭を下げることはない。
だが話をしてみるとノア自身、その能力を買われて護衛騎士の任に就いてはいるものの、特に何もない平民なのだそうだ。
そういう出自も相まって、護衛騎士としての立ち居振る舞いには気をつけているが、階級や身分といったところには頓着していないらしい。
ノアは頭を上げると、その視線をエリナへ向けた。
「特にエリナ嬢、今回の最大の功労者は間違いなく貴女でしょう。」
「そ、そんなっ! ミリア様やリネットさんもいてくれたからで、私だけではとても……」
「そうかもしれませんが、殿下も私たちも、皆そう思っているのです。」
突然名指しで褒められてしまい、エリナが慌てて否定するが、ノアは意に介さず言葉を続ける。
「正直なところ、報奨金を多少追加したところで報いることができるとは考えていません。かと言って私やセオ隊長の判断でできること、というのも知れていますので、一度成功報酬として契約通りの金銭をお支払いすることに加えて、襲撃への対応や部隊指揮、野営地の安全確保、殿下の殺害阻止といった要素を勘案してある程度増額した報酬をお支払いしますが、後日改めて陛下や宰相閣下とも相談の上、働きに見合った報酬を準備させて下さい。」
「はっはっは! そりゃすげぇな。エリナ、多分お前が今回一番の稼ぎ頭だぞ!」
「ちょ、ちょっとやめてよ……」
ノアの申し出にアーヴが呵呵大笑しながら、エリナに言った。
ルカも国王陛下や宰相閣下まで話が上がることには少し驚きはしたが、それよりも命の危険も顧みずあれだけ頑張ったのだから、そのエリナがちゃんと評価されることを嬉しく思う。
「良かったな。」
「あ、えっと……うん。」
その後、ノアからは依頼が達成された旨を書き記した書面が三人それぞれに渡された。
当初ブレーヴェ村を出る前に取り交わした依頼内容と報酬などについて書かれていた書面だが、紙面にはめざましい働きがあったことや、それに対して追加報酬を支払う旨などが追記されている。
三人は書面に目を通すと、それぞれ懐やバッグに書面をしまう。
「それでは依頼としては以上となります。ちなみに皆さん、バルディアでは何日か身体を休められると思いますが、着いてすぐですし、宿の確保はできてないでしょう? 五日分程こちらで手配させていただいてますので、ぜひご利用ください。もちろん宿泊費はこちら持ちです。」
そう言ってノアは懐からもう一枚紙を取り出し、三人の前の机に差し出した。
差し出された紙には、この書類を持つ者に、三部屋を五日間提供することと、その費用は辺境伯側で持つということが書かれている。
「お、"赤旗館"か。こういうのは"槌と麦亭"あたりかと思ってたけどなぁ……」
「"槌と麦亭"も気楽で私は好きなんですけどね。ただ殿下の護衛に加わってくださった方々に準備するとなると、"槌と麦亭"のご主人には悪いんですが、上が良い顔をしないんですよ……」
"赤旗館"はどうやらアーヴも知っている宿らしい。
"槌と麦亭"は以前マリウスから聞いていたお勧めの宿だったはずだが、貴族から見るとどうしても見劣りしてしまうところがあり、功労者に充てがうのは憚られるのだろう。ということは"赤旗館"はそれよりは少しランクの高い宿ということだろうか。
何にせよ、これから慌てて宿探しをする必要がないのも、宿泊費を払ってくれるのもありがたい話だ。
「ではありがたく利用させていただきます。」
とくに断る理由もないかと思い、ルカは礼を言ってノアが差し出した紙を受け取った。
これで本当に護衛依頼は終了である。ルカたちはノアと使用人に見送られる形で城を出て城門前まで進むと、城の方を振り返った。
一人ひとり、ノアと握手を交わす。
「それでは……」
「待ってーーーー!」
ノアが別れの挨拶を口にしようとしたその時、城の方から大声で待ったをかけながら走ってくる影が見えた。
「……で、殿下……」
その声に振り返ったノアが頭を抱えている。
何人かの使用人とセオ、リネットを引き連れて、というよりは止められたのを無視してのようにも見えるが、リィゼが走ってきた。
「エリナー!」
駆け寄ったリィゼは、言うや否やガバッとエリナに抱きついた。
「で、殿下っ!?」
リィゼの勢いに数歩後ずさるようにしながらもエリナは彼女を抱きとめたが、抱き締めても引き離してもどちらも不敬になりそうで、オロオロと慌てている。
「殿下、エリナ嬢がお困りですから、一度離れてあげて下さい……」
「あ、ふふっ、ごめんなさい。」
呆れた様子のノアに窘められてリィゼはゆっくりとエリナを離す。
「エリナ、セオ様に聞いたのだけど、何日かはバルディアに居るのよね?」
「はい。宿を準備していただけたみたいですし、何より疲れましたしね。ルカと相談して少し休みをもらおうかと思います。ルカ、いいよね?」
「ん? そうだな。急ぐこともないし。」
少し寂しそうにしながら聞いてくるリィゼに、エリナは数日は城下にいることを伝える。
顔だけルカの方へ向けて確認してくるが、ブレーヴェ村にいる時にアリスに確認した時点では、まだ余裕はあると聞いていたので、問題はないはずだ。
「じゃあ近いうちに連絡するから、また"女子会"しましょう?」
リィゼはエリナの手を取って小首を傾げながら、少し見上げるようにしている。
「え? いや、あの……今日はいいとして、お城に着ていくような綺麗な服とか持ってないですし……」
「大丈夫! そのままで良いように私の方で話を通しておくから! ね?」
「あ……いや……えっとぉ……」
登城となると一応は正装で来るべきだろう。だが、さすがに傭兵として付いてきただけの元村娘であるエリナの手元に、ドレスの類などありはしない。
言い訳はしてみたものの、可憐で麗しい王女の攻めを躱すことができずにたじろいでいると、横からセオが口を挟んできた。
「まぁ何だ、今回の移動はいろいろと助けられたのだから、慰労の会の一つでも設けさせてくれんか? もちろん服装諸々はこちらで何とかしておく。」
「お気持ちは嬉しいのですが、例の件もありますので、公式な場からは少し距離を置きたいのですが……」
リィゼへの助け舟なのか、エリナへの助け舟なのか、慰労の席をとセオは提案してきたが、ルカとしては、そもそも王侯貴族とのつながりを強くしたいわけではない。どちらかと言えば離れておきたいのだからどうにも及び腰になるが、セオはあまり気にもとめない様子で続ける。
「そのあたりは分かっているとも。非公式な場として、規模も小さくする。そもそも公式な場にしてしまうとバルディア内の貴族を招待せねばならなくなるからな。それは貴殿たちもそうだが、我々としても本意ではない。」
つまりリィゼ王女殿下を主賓にするにせよ、主催者にするにせよ、公式な場として晩餐会を催すような形にしてしまうと、バルディアに居住している貴族も招待して大々的に開催することになってしまう。そうなると、自身のことをあまり公にしたくないルカにも、リィゼを狙った組織や勢力の情報がまったく無いまま晩餐会中の護衛をしなければならなくなるセオたちにも嬉しくはないということだ。だから非公式に小さく行う、と。
「出席者が我々と貴殿たちだけであれば、何も気にする必要はなかろう? "女子会"とやらも会場の隅で男子禁制にしてしまえば良い。」
「なるほど、そういうことであれば。エリナも殿下と話す機会はあったほうが良いだろう?」
彼らの事情もあろうが、それがなんであれ、こちらにも配慮してもらえるのであれば、バルディア滞在中に少し時間を共にするくらいは構わない。
ルカはそう考え、エリナに視線を向けて見ると、登城することに対する緊張からか、少し苦笑いしているようにも見えるが、頷きが返ってきた。
「ほんと!? じゃあ決まりね!」
先の楽しみが出来たことに破顔させたリィゼは、嬉しそうにしながら掴んだエリナの手を自身の胸元へ引き寄せる。
つられて額が触れそうなくらいに引き寄せられたエリナの耳元に、リィゼは小声で話しかけた。
「エリナ、楽しみにしてるね。」
「もう……リィゼ、貴女意外とお転婆だったのね……」
「あ、ひどぉい。」
「ふふっ」
他の皆に聞こえないよう、小さく小さく囁き合う。
頬をぷぅと膨らませ、その小さな唇を尖らせる姿に、エリナは思わず吹き出していた。
「アーヴ殿はどうかな?」
楽しそうにしているリィゼとエリナを横目に、セオはアーヴにも慰労の席への出席を打診する。
顎先に手を添えながら、皆の話を眺めていたアーヴは、少しだけ考えるような素振りをしたあと、小さく一つ息を吐いた。
「あぁ、出るよ。その代わり今回の件も含めていろいろと可能な範囲で情報交換させてくれ。」
「無論だ。私としては部隊運用や指揮の話もできるといいのだがな。」
「本職と議論できるほどの経験はねぇよ。」
顎先から離した手をひらひらと振って、アーヴは自分の荷物を持ち直す。
日は傾き始めているし、そろそろ宿へ向かおうということだ。
ルカもその様子を見て、皆の方へ向き直った。
リィゼも少し名残惜しそうな表情ではあるが、エリナと離れ、双方の面々が向かい合う。
「では明日か明後日、詳細は宿の方へ伝令を向かわせますので、まずはごゆっくりお休みください。」
「ありがとうございます。それでは殿下、皆さんも。今日のところはこれで失礼いたします。皆様もどうかゆっくりとお休み下さい。ミリア殿にもお自愛くださいとお伝えいただければ。」
ノアから伝令を出す旨の案内とねぎらいの言葉に、改まってルカが答えた。
この場にいないミリアのことにも触れる。傷は綺麗に治したし、命に関わる状況では無いとは言え、本調子に戻るにはもう少しかかるだろう。
ルカがリィゼたち一人ひとりに視線を巡らせると、リィゼがゆっくりと頷いた。
そっとスカートの裾をつまみ、美しいカーテシーで応える。
「皆様。この度のご協力に心よりの感謝を。また近いうちにお会いしましょう。」
王女としての感謝の言葉を述べたあと、リィゼは顔を上げにこりと微笑んだ。
やがてアーヴが街へ向かって歩き出し、そのあとにルカも続く。
エリナはリィゼたちに背を向けたあと、一度だけ振り返り、リィゼとリネットに向かって小さく手を振った。
リィゼとリネットがぱっと花咲くような笑顔を見せたことに、同じく満面の笑みを返すと、少し先に行ってしまったルカたちを追うように小走りで去っていく。
傾き始めていた陽の光はもう鮮やかな橙色に変わっている。リィゼたちの見つめるその背中は、どこか遠く、お伽噺の世界を行く旅人のようにも見えたのであった。




