表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

#9 ただいまの絵

病院の白い廊下を、僕は静かに歩いていた。

昨日、翼のお母さんから連絡があった。

「手術は無事に終わったわ。少しだけど、面会できると思うわよ。」

胸の奥がじんわりと熱くなった。

無事に終わった…たったそれだけの言葉が、

こんなにも大きな光になるなんて思わなかった。


病室のドアをノックすると、小さな声が返ってきた。

「どうぞ…」

ドアを開けると、ベッドの上に翼がいた。

少し顔色はまだ戻っていないけれど、その目は、

しっかりとこちらを見ていた。

「翔くん…来てくれたんだ」

「うん…おかえり、翼」

そう言った瞬間、翼の目がゆるんで、涙がにじんだ。

「ただいま」

その言葉が聞きたくて、ずっと描いていたんだと思った。


「どう?元気そうに見える?」

翼が冗談っぽく笑う。

「うん…まぁ、60点くらいかな」

「えー、ひどーい」

笑いながら、少し声が震えているように聞こえた。

僕も、笑いながら、喉がつまっていた。


「…これ、見てほしいものがあって」

僕はバッグからスケッチブックを取りだした。

そこには、昨日描いた絵がある。

未来の、まだ来ていない、でも来てほしい翼の姿。

笑っている。風に髪がゆれている。

そして、どこかへ向かって歩いているような、そんな後ろ姿。翼は、しばらくその絵を見ていた。

そして、ぽつりと言った。

「これって…私?」

「うん。まだ未完成だけど、いつか完成させたいんだ。ちゃんと元気になったら、またモデルになってよ」


「うん、約束」

小指と小指が、そっと触れ合った。

その瞬間、僕の中で、ようやく"線"が繋がったような気がした。描くことと、想うこと。未来と、今。

全部が、繋がっていくような気がした。


(#10に続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ