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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの諜報員編
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第94話 天然

 アルフはわなわなと肩を震わせてドロシーの目の前で人差し指を立てる。


「次にわざと報告したらお仕置きするからね!」

『ニャア』

「何でそんな期待した目で見るの!?」


 騒いでいたせいで気がつかなかったが、真後ろではセシルが首を傾けていた。

 レオンに目を向けてみても首を振って分からないというポーズだった。


「魔道士様? どうかされましたか」

「うわっ!?」

 

 声をかけられたアルフは不覚にも驚いてしまう。


「セシル様……いや、ちょっと報告に問題があるというか、何というか……」

「どんな問題があったのですか?」

「え……!? ええっと……それは……」


 ドロシーが勝手に胸のサイズや下着の色を報告してくるなんて言えるはずもない。

 貴女も前回被害にあっていますなんて尚更言えない。 

 アルフは咳払いをして誤魔化すことにした。


「んんっ。僕とドロシーの問題なので気にしないで下さい!」

「そうなのですか?」


 再び不思議そうにセシルは小さく首を傾けた。

 その仕草が可愛くてアルフはそっと目をそらす。

 直視すると心臓がドキドキして落ち着かなくなるからだ。


「まあ、なんつーか普段は結構キャラ作ってるんだな」

「そんなことはありませんよ」

「いやいや、いまさら口調を戻されても。素が見えちまったよ」

「……くっ。ドロシーのせいだぞ?」

『ニャア』


 素で騒いでいたのはアルフなのだがドロシーに責任転嫁する。

 何だかんだでレオンやセシルの人柄に緊張感が薄れてしまっていた。

 気を取り直してセシルに確認する。


「はぁ……まあいいや。彼女は目を覚ましたそうですね」

「はい。ジーナさんとおっしゃるそうです」

「追われていたのですが、何か言っていましたか?」

「詳しいことは聞いていませんが公爵家に報告があると」

「公爵家に? もしかしてウォーターズ公爵家だったりしますか」

「さすがは魔道士様。お見通しなのですね」


 セシルは両手を合わせながらうなずいた。

 もちろん見通していた訳でも盗み聞きした訳でも無い。

 レオンは家名に忍び笑いをしていた。噂を思い返しているのだろう。

 

「この国で今一番話題になっている公爵家だもんな? 誰かさんのせいで」

「……用があって今から訪ねようと思っていたのです」

「それでは呼んできましょうか? すっかり元気になりましたよ」

「お願いします」


 しばし待っていると、セシルがジーナを連れて応接室に戻ってきた。

 ぶつかった時にも思ったが美しい女性だった。

 海洋王国でよく目にする蒼い髪が、ふんわりと背中までウェーブしている。

 

「助けていただきありがとうございました。ジーナと言います」


 部屋に入ってくるなりジーナはぺこりと頭を下げた。

 レオンがにこやかに応対する。


「いいってことよ。困った時には助け合うものだからな。俺はレオンだ」

「このお屋敷の主様ですね。お世話になりました」

「ま、助けたのはそこにいる魔道士だけどな」


 言いながらレオンはアルフにクイッと親指を向けて示す。


「何とお礼を言えば良いのか……あのままでは死んでいました」 

「元気になったようで何よりです。ウォーターズ公爵家に報告があるとか」

「はい。急いで伝えたいことがあるのです」

「ラッセル帝国に関する情報ですか」

「……!? どうしてそれを!?」


 帝国の名を出したことでジーナの目に警戒の色が浮かんだ。


「誤解しないで下さい。貴女を追っていた者が帝国の暗殺者に見えたので」

「あの一瞬で見抜いたのですか……! その通りです。貴方は何者ですか?」

「あージーナさん。魔道士にその質問は無意味かもしれないぞ」

「ふふっ。今回は何と名乗るのですか? 魔道士様」


 レオンとセシルはアルフの自己紹介に慣れたのか、すでに苦笑していた。


「僕は通りすがりの諜報員です」

「諜報員……!?」

「そうきたか」

「まだ続いていたのですね。でも諜報員は普通正体を明かしたりしませんよ」


 諜報員は宮廷魔道士に勧誘されないように、芝居して作った設定だった。

 都合もいいし気に入っていたので、問われたら名乗りに使おうと思っていた。

 でもセシルが言う通り、名乗るような立場ではないため使えていなかったのだ。


「あはは。確かにその通りですね。ジーナさんも密偵か諜報員ですよね」

「……」

「別に仕事の邪魔をする気はありません。だからそんなに睨まないで」

「何故、私が密偵だと?」

「状況からの簡単な推理ですよ」


 アルフは肩をすくめた。

 帝国の暗殺者に命を狙われ、情報を持ち帰っているのだから職業に目星はついた。


「そうでしたか。実は私も諜報員なんです」

「えっ!」

「……セシル様って本当に向いてないですよね。普通は明かさないのでしょう?」

「あっ! そうでした……このことは秘密にして下さいね」


 そんなことを言いながらジーナに可愛くウインクしている。

 狙っているのか天然なのか。きっと後者なのだろうとアルフは思う。

 少しだけベルジェ王国の諜報関係が心配になった。

 他の人物がカバーしていることを願うしか無い。


「貴女の持っている情報が悪魔に関する事なら僕も興味がありますが……」


 悪魔と聞いてジーナの肩がビクリと揺れる。


「まずは一緒に公爵家に行きましょうか? 僕も少々用事があるので」

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