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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの諜報員編
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第91話 アルフの休日

 頬をペロペロと舐められている。

 身体中が怠くて、アルフは指先を動かすのも億劫だった。


「ん……」

『ご主人様』


 再びペロペロと今度は耳を舐められた。

 さすがにくすぐったくて、まぶたがゆっくりと開いていく。

 寝たまま横目で隣を見ると、ドロシーがちょこんと座っている。


「……おはよう。ドロシー」

『おはようございます。ご主人様』

「……おやすみ。ドロシー」


――ペシッ!


「痛っ」


 眠りにつこうとするアルフの顔に、猫パンチが炸裂した。

 本気ではないが、それなりに痛い。

 ドロシーが本気だったら頬が切れて流血し、打撲していただろう。

 爪が出ていたら、真っ二つに切り裂かれていてもおかしくはない。


「痛いです。ドロシーさん」

『起きてすぐに寝ようとするからです』


 ふわあと大きな欠伸をしながら、のっそりと上半身を起こす。

 首を左右に傾けてコキコキと鳴らす。

 どうにも全身が怠かった。

 そのままパタリと再びベッドに倒れ込む。


「もう少し寝かせて。あと五時間でいいから」

『起きて下さい。夢の内容をお忘れですか』

「今日は休むよ」

『本当ですか? 後悔しませんか』

「………………はぁ」


 ドロシーに問われ、悩んだ後に大きなため息をついてアルフは起きる。

 いつもよりたっぷり寝たので、悪夢も盛りだくさんだった。

 天井を見上げながら呟く。


「僕って苦労する星の下にでも生まれているのかな? 苦労星とか」

『そんな星は知りません』

「うーん。出来ることなら魔法でその星を消滅させたい」

『星を消滅させたら住んでいる者が困ります』

「冗談だって。仕方ない、悪夢の消滅にとどめておくか」

『それでこそご主人様です』


 今度は勢いをつけて上半身を起こし立ち上がる。

 立て続けに見ていた悪夢のせいで寝汗がすごい。

 アルフはそのまま浴室へと向かい湯浴みすることにした。

 服を脱ぎ熱い湯を頭からかぶると、眠気も覚めてくる。


「……ふう。さっぱりした!」


 風魔法でさっと髪や全身を乾かして着替える。

 着ていた服やローブは魔法で汚れを落とし、再び収納しておく。

 洗濯をしてくれている人たちには申し訳ないことであるが。

 魔法を使えば一瞬だった。


「さてと。おいで! ドロシー」


 腕まくりをして、浴室にドロシーを呼ぶ。

 収納空間からドロシーのお風呂セットを取り出す。


『湯浴みの必要はありません』

「僕からのお詫びと感謝の気持ちだよ。いつもありがとう」


 アルフはドロシーを抱き上げて、丁寧にブラッシングする。

 そして用意した桶を泡風呂に変えてゆっくりと入れていく。

 全身の毛が濡れたのを確認したら引き上げて、マッサージ洗い。


『……ニャア……ゴロゴロゴロゴロ……ニャフッ』

「よし! 良い感じだ」


 耳の中にお湯が入らないように気をつけながら泡を洗い流す。

 清潔な布で包み込むように水分をふき取る。

 そして風の魔法で優しく毛を乾かしていく。

 仕上げに再度ブラッシングすると、ドロシーの毛が艶やかに光った。


「おおっ! やっぱりドロシーは美猫さんだね」

『ありがとうございます。ご主人様』


 艶々の毛になったドロシーはピョンと跳ねてアルフの肩に着地した。

 そのままアルフの頬に頭をこすりつける。

 石けんの香りがふわりと香る。


「身支度も完了したし、約束のデートに出かけようか!」

『ニャア』

「まずはどこから行くのがいいかな」

『腹ごしらえも兼ねて、市場をオススメします』

「了解。悲劇が起こる前に止めないとね」

『公園の子どもをお忘れ無く』

「そうだね。子猫はドロシーにお願いしようかな」


 市場は馬車を使うほど遠くは無い。

 宿から市場へ向かって歩いていく。

 ローブを着用していないので、陽射しが眩しい。


「たぶん……この公園かな」

『ニャア』


 まっすぐと市場へは向かわずに公園へと立ち寄る。

 散歩するように道を進むと、頭上から子猫の鳴き声が聞こえてきた。

 周囲に人影は無いが、街路樹の近くには子どもの靴が落ちていた。


「ミャーミャー」


 アルフが樹を見上げると、枝の先で子猫が鳴いていた。

 その子猫に震えながら手を伸ばす男の子の姿も見える。


「間に合った」


 あと五時間寝ていたら、男の子は頭から落下して死んでいた。


「……あっ! うわあああっ!」


 もう少しで子猫に手が届くという所で、男の子が樹上から落下してきた。

 見越して真下にいたアルフは、衝撃を逃しながら両手で受け止める。

 

「大丈夫かい」

「……えっ!?」


 地面への衝突を覚悟して目を閉じていた男の子が、驚きながら目を開ける。

 

「あ、ありがとう」

「子猫を助けようとしていたのは分かるけど、危ないよ」

「あ! そうだった! 子猫は……」


 男の子は落下してきた樹の枝を見上げる。

 すでに子猫の姿はなかった。


「ミャァ」


 子猫の鳴き声は足元から聞こえてきた。

 黒猫に背中を咥えられて、ぶらーんとぶら下がる子猫がそこにいた。

 男の子はしゃがんで子猫に手を伸ばす。


「無事でよかった!」


 男の子は子猫を抱きしめた。

 その姿を微笑みながら見つめて、アルフは再び歩き出す。 

 目的の市場が見えてきた。

 通りの両脇に屋台が並び、たくさんの人で賑わっている。

 

「えっと確か……」

『ニャア』

「うん。あの店かな」


 夢で見知っている魚屋を目指して進んでいく。


「こんにちは」

「いらっしゃい! 新鮮な魚介を入荷してるよ! 買わなきゃ損だ!」


 アルフが店員に声をかけると威勢の良い声が返ってきた。


「本当だ。たくさんあるね」

「言ってくれたらその場で刺身にも出来るよ!」

「うーん……どれがいいかな。んっ?」

「どうかしたのかい」

「この魚だけ、お腹の色が他と違うみたいだけど別の種類?」


 キョロキョロと見渡しながら、一匹の魚を指さし疑問を投げる。

 周囲の魚に埋もれているが少しだけ色が違う魚だ。


「ん……こいつは!?」


 問われてその魚を見た店員の顔が、サッと青ざめる。


「あああっ! 危なかった! よく気づいてくれたな兄ちゃん!」

「気づいたって……何が?」


 分かってはいるがアルフはとぼける。

 いつものことだった。


「似ているがこいつは毒があってな。食べると中毒死することもある」

「うわっ。それは怖い」

「まとめ売りしていたら紛れて気づかなかっただろうな。助かったよ!」


 店員は毒のある魚をすぐに皿から取り除いた。

 これで購入者の中毒死を防げる。


「兄さん! お礼に一匹はサービスだ。好きな魚を選んでくれ!」

「それは嬉しいな。じゃあ、この赤い魚と平べったい魚を刺身でお願い」

「まいど!」


 代金を払うと、店員はその場で手早く刺身にして包んでくれた。

 受け取ってドロシーと一緒に早速つまむ。


「これは美味しい!」

『ニャア!』


 貴族としては、とんでもない行儀の悪さだ。

 両親やマーサに見られたら間違いなく怒られる。

 けれど冒険者でもあるアルフにとっては、慣れた食事方法。

 顔をほころばせながら、パクパクと平らげていく。


「新鮮だから薬味もいらないね! 甘みがあるなんて凄いよ」

『ニャア』


 ドロシーもペロリと食べ終えた。

 かなり満足してくれたらしい。

 こうしてアルフの休日は始まった。


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