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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの諜報員編
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第90話 ドロシーの疑問

 出発した時には騒がしかった港もすでに寝静まっていた。

 周囲を起こさないように馬を戻し、静かに宿の部屋へと移動する。

 廊下を歩くと靴音が鳴りそうなので転移魔法を使った。

 パチンと指を鳴らして、いつものように防音結界を張る。


「ふわああ。疲れたー! いつにも増して大変な一日だった」


 お気に入りの黒いローブを脱いで背中からベッドにぼふっと倒れ込む。

 ドロシーもジャンプで飛び乗り、アルフのすぐ側で丸くなった。


『一体どれだけの人や精霊が救われたことか。ご主人様は頑張りすぎです』

「成り行きって言うか……。放っておけないことばかりでさ」

『それでもお力を使いすぎです。魔力ならまだしも命まで削るなんて』


 ベルジェ王国で作った聖域についてのお小言だ。

 本当に大変だった。

 ドロシーと出会ってから八年間。

 いつだって側にいて心配してくれている。

 その気持ちが素直に嬉しい。

 感謝の気持ちをこめて、ドロシーの頭や背を優しく撫でる。

 

「聖域がなければ、今頃はゾンビだらけの国になってたかもね」

『まったく。勇者や聖女は何をしているのやら』


 ドロシーは尻尾を不機嫌そうにパタパタと打ち付けるように揺らしていた。

 なだめるように今度は喉を撫でる。

 すぐにゴロゴロと音が鳴る。

 キッとしていた目が、ゆっくりと細められていく。


「んー? 一般人の僕ですらこれだもの。きっと忙しくしているんだよ」

『ご主人様が一般人というのは同意出来ませんが』

「あはは。魔法が得意ってだけで、その辺の人と変わらないさ」


 軽く笑い飛ばしながら目をこする。

 疲労感で、だんだんと眠気が強くなってきた。


『以前から疑問に思っていたことがあります』

「ん?」

『ご主人様は、本当にブロシャール夫妻の子なのですか』

「え? 突然何を言い出すのドロシー。当たり前じゃないか」

『ですが……ご主人様の瞳や髪色は、金色ではありません』

「んーそれね」

『親子は同色なることが普通です』

「生まれた直後は金髪金目だったけど、黒に変わったらしいよ」


 両親だけでなく、乳母のマーサも証言している。


「あの両親が、不義理をはたらくとは思えないし」


 アルフも幼少期から、自分だけが黒目黒髪なのは気になっていた。

 変化したことを聞いていなかったら、グレていたかもしれない。


『変化したのですか。でも何故そんなことに』

「さあ? 幼い頃に聞いてみたけど、曖昧な答えだったし」


 明確な理由が分からないので、答えようがなかったのだろう。

 人と違って目立つところを挙げるとすれば、黒い髪と瞳だ。

 特に今日は黒髪黒目の元聖女のせいで意識することが多かった。


『結構重要な事柄なのではありませんか』

「そうかな?」

『そう思います』

「それじゃあ諜報員みたいに、僕の秘密を探ってみようか」


 実は光の女神様からの加護を持つ勇者だった。

 けれども闇の女神様も気に入って、強い加護を与えた。

 生まれたばかりの赤子は肉体も、精神や魔力もすべてが不安定。

 それで成長中に一番安定する色に落ち着いた。

 アルフは、髪や目の色が変化した理由を思いつくままに語ってみる。


『それは……ありえます』

「二つの加護が干渉しあって、使命が夢に現われるようになった」

『すごくありえます。ご主人様』


 ドロシーが感心したように納得する。

 ところが、真面目に話していたアルフが突然ぷっと吹き出した。


「なんてね! 下手に探って、これ以上の面倒ごとを増やしたくないよ」

『ご自身のことに無頓着すぎるかと』


 推論した本人の希望は、のんびりと眠って過ごすことだったりする。


「使命は選ばれた勇者に任せて、のんびりと気ままに過ごしていたいな」

『残念ながら、言動が一致していませんが』

「うっ。別に多忙を望んでいるわけじゃなくてね。僕の夢が悪夢なだけで」

『本当に夢が神託なのでは』

「ない、ない! そんなわけないって!」

『ニャア?』

「そんなわけない……よね? はははっ」


 ほんの少しの不安を抱えながら、アルフは苦笑する。


『セシル様のことは』

「…………ん。そうだね…………なんとか……し……」


 大きなあくびをしながら、アルフの瞼がゆっくりと閉じていく。

 考えることは多いが、そろそろ思考がまとまらなくなっていた。


『おやすみなさい。ご主人様』

「くぅ……」


 ドロシーの頭に片手を乗せたまま、アルフは寝息を立て始めた。


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