第92話 いつものこと
「それにしても海洋王国はいろんな種族が暮らしているよね」
『ニャア』
背中から羽が生えていたり、尻尾があったり、肌が鱗で覆われていたり。
他国では見られないような多種多様な種族が暮らしている。
この国でならドロシーのために良い買い物が出来そうだとアルフは思う。
「それじゃあ、次は約束していたドロシーの首輪だね」
『ニャア! ニャア!』
機嫌が良いのだろう。いつもより鳴き声も大きく聞こえる。
アルフはペットショップではなく、高級品を扱う宝石店へと足を運んでいた。
「いらっしゃいませ」
ドアマンが開けてくれた扉から入ると、一礼して女性店員が迎える。
ショーケースにはキラキラと輝く様々な宝石が飾られている。
指輪や耳飾り、ブレスレットなど宝飾品の種類も多い。
「お探しの品があれば、お手伝いいたしましょうか?」
「そうですね。彼女への贈り物にするネックレスを見たいのですが」
「かしこまりました。どうぞこちらへおかけ下さい」
ペンダントやネックレスを扱っているコーナーにあるソファへと座る。
希望を伝えると、店員は何種類かのネックレスをケースから出してくれた。
アルフは横目でドロシーの反応を見ながら並べられたネックレスを見比べていく。
そのうちの一つでドロシーの目がキラッと輝いた。
「このタイプが似合いそうかな」
アルフはドロシーを見ながらトップに宝石が付いたタイプを選ぶ。
「この宝石は猫の瞳に似ていますね」
「まさに猫目石と呼ばれるものです」
「この子……ドロシーと言うのですが、この瞳に似た色の石はありますか」
「きれいな蜂蜜色の瞳ですね。少々お待ちください」
店頭には緑系の石が多かったようで、店員は別のケースから出してくれた。
「こちらがハニー・イエローと呼ばれる希少な石のついたものです」
「ドロシーの瞳色にそっくりだね! これなんかどうかな?」
『ニャア!』
「未知の将来を照らす目という意味を持つ石ですよ」
「うん。なんだかドロシーにぴったりな気がしてきた」
アルフはネックレスを手にとるとドロシーの首元に合わせてみた。
店員は一瞬驚きの顔を見せたが、すぐに元の表情に戻った。
「ではこれを」
「お包みしますか?」
「この場でドロシーにつけてあげたいので長さを合わせて貰えますか」
「……は、はい。かしこまりました」
まさか猫のための買い物だとは思っていなかった女性店員は少しだけ慌てた。
しかし客の中にはいろいろな人がいるので、すぐに言われた仕事をこなす。
「このくらいの長さが丁度良いかと。よくお似合いですよ」
「ありがとう。それと鏡をお借りできますか」
店員はすぐに縦長の丸い置き鏡を持って来た。
アルフは鏡の前にドロシーを座らせて、後ろからネックレスをつけてあげる。
『ニャア』
鏡を見ながらドロシーが満足そうに一声鳴いた。
何だか誇らしそうに見ているドロシーを見てアルフは微笑む。
「ありがとうございました。またお越し下さい」
代金を支払い、店員に見送られながら外に出る。
そのままにぎやかな通りを歩いていく。
肩に乗るドロシーはアルフの頬をペロペロと舐めた。
「くすぐったいよ。首輪は気に入ってもらえたかな」
『ニャア』
「それは良かった。これで約束を果たせたね……ん? おっと!?」
アルフは通りを走り抜けて来た人物とぶつかって互いに転倒してしまう。
普段ならぶつかったりしないが、全身が怠くて避けきれなかった。
上から覆い被さって来たのは茶色いローブを身にまとった女性だった。
「いたたっ」
打ち付けた後頭部をさすりながらアルフは呟く。
目を開けると、間近に倒れ込んだ女性の顔が迫っていて赤面してしまう。
「……っと」
「ごめんなさい」
ぶつかった女性はフラフラと立ち上がり、一言謝るとすぐに走り去った。
通り過ぎる際に血の匂いがしたのでアルフは目を細める。
「ずいぶん急いでいたようだけど……」
パンパンと服の汚れを払って立ち上がる。
何事だろうかと走り去った方を眺めていると、数人の男たちが同様に走って来た。
探るような視線を見るに誰かを追いかけているらしい。
そのうちの一人が乱暴な口調でアルフに詰め寄った。
「おい! そこのお前!」
「はい? 僕に何か」
「こっちに茶色いローブを着た怪しい者が来なかったか!?」
「怪しい者ですか? さあ、見ていませんね」
美人な女性なら見たけどね、と心の内で舌を出す。
「くそっ! どこに行きやがった!」
男たちは姿を見失ったらしく通りをキョロキョロと見渡している。
「何かあったのですか?」
「お前には関係ない!」
不自然にならないように尋ねてみたが部外者には教えてもらえないらしい。
「あの深手でそう遠くへは行けないはずだ!」
「ちっ。手分けして探すぞ!」
舌打ちをしながら男たちは通りに散って行った。
それらをぶすっとしながら見送ってアルフは腕を組む。
「うーむ。これは関わるべきか放置するべきか」
『ニャア』
アルフはパチリと指を鳴らし周囲に防音結界を張る。
「状況は不明だけど、どう思う? ドロシー」
「逃げていた者の傷は放置すると死ぬでしょう」
「……ちょっとイレギュラーだけど、探ってみるか」
夢では見ていないが、厄介ごとを目にするのはいつものことだった。
アルフは額に手を当てて目を閉じると探知魔法で周囲の気配を探る。
すぐに先ほどぶつかった女性の気配を探り当てた。
「路地裏で追い詰められているな」
『今日は休む予定だったのでは?』
「その予定ではあったけど、悪い人には見えなかったからね」
『美人だったからですか』
「…………」
ドロシーの指摘に、女性の顔を思い出してアルフはしばし無言になる。
建物の陰に入りお気に入りの黒ローブを羽織る。
そのまま探った場所へとアルフは転移した。




