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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 後編
80/275

第80話 解呪の方法

 禁呪の解析を終えた魔女が呪いについての説明を始めた。


「まあ厄介ではあるけど、幸いなことに呪いは弱まっているね」

「本来はどのような呪いなのですか」

「まず手足が凍り付き動けなくなる。そして時間をかけて全身が凍っていく」

「今、私は自由に動けていますが」

「それは大量の魔力で呪いを抑えつけて、効果を打ち消したからだろうね」


 セシルと銀の魔女の視線が同じ人物に向けられた。

 そんなことが出来るのが誰なのか、考えるまでもなかったからだ。

 別にごまかす必要もないと思いアルフはあっさりと認める。


「ええ、僕が魔力を流しました。でも呪印が残っているということは……」

「察しの通り、完全には抑えられていないと言うことだね」

「どうすれば解呪できるのですか」

「そこが厄介な部分だよ。炎の大精霊に力を借りる必要がある」


 それを聞いてアルフは頭を抱えたい気持ちになった。

 炎の大精霊は戦いが好きで、弱い者には従わない。

 協力を願い出るならば戦って力を示し、認めてもらう必要がある。

 そんな話を聞いたことがあるからだ。


「私に力を貸してくれるでしょうか」

「火山を相手にして勝てる力があるならね」


 セシルが戦いを挑むにはあまりに無謀だった。

 それが分かっている銀の魔女は提案する。


「そこは冒険者くんに頼んで、代わりに加護を得てもらえばいいさ」

「僕が代わりに?」

「そう。その方が可能性があるだろ」

「わかりました。それで僕が大精霊の加護を得た後はどうすれば」

「そこまで出来たら簡単だ。唇から彼女に魔力を流し込めばいい」


 そこでアルフの思考が停止した。

 頭が理解することを放棄したからだ。再度、問いかける。


「簡単に……なんて言いました……?」

「唇から彼女に魔力を流し込む。それだけ」

「な、ななな流し……!? 何で!? く、く、唇から……!?」

『落ち着いて下さい。ご主人様』

「どうした? 何も難しいことじゃないだろ」


 何を慌てているのかと不思議そうな顔で銀の魔女がアルフを見ている。


「いや、だって……つまり僕が、セシル様に……キスを……」

「うん? 口から流し込んだ魔力は肺に入り、血を通して全身を巡る」

「…………」


 言っていることは分かるが、その光景をイメージすると思考が止まる。


「当然、何度も心臓にだって到達する。それを呪印が解けるまで繰り返す」

「……体の外側からでは」

「外からでは効果が薄くて、解呪には至らない」


 ていねいな魔女の説明に、口から魔力を流す必要性に納得はした。

 しかし簡単に出来るかと言えば……。

 恋人もいないアルフには、相当にハードルが高い内容だった。


「ほ、他に何か方法は!?」

「うーん。冒険者くんでも炎の大精霊を相手にするのは困難か」

『ご主人様の意気地なし』

「ドロシーさんはお口にチャック!」

『ニャア』


 どちらかと言えばセシルを相手にキスする方が困難なのだとは言えない。

 魔女は頬に手を当てしばし考える。

 そして別の解呪方法を教えてくれた。

 

「それなら王家の者、または血筋が連なる者と婚姻すれば解呪の可能性はある」

「えっ?」

「婚姻!?」

「時間はかかると思うけど、生涯をともに過ごしていけば消えるだろうね」


 直接炎の大精霊に加護を受けるよりは、弱いということだろう。

 当然、婚姻ともなれば通常は濃密な接触が行われる。

 しかし表面上の関係で終われば、加護の力は働かない。

 だから可能性。


「王家の血筋に加護があるのですか?」

「この国の王家には初代国王のおかげで、炎の大精霊が加護を与えている」


 ベルジェ王国の王族や血筋の者には紅目、赤髪の特徴がある。

 初代国王は自在に炎の魔法を操ったと言われている。

 その子孫にも炎の大精霊が加護を与えているようだ。

 婚姻によりその加護を分けてもらい、呪いを消すという方法なのだろう。


「国王や王太子なら側室だね。他には大公や、公爵家の者なら……ん?」


 アルフが頭を抱え出したのを見て、魔女は一度言葉を止める。


「さっきから様子が変だぞ。どうした? 具合でも悪いのかな」

「すみません。激しい頭痛と動悸が……」

「こんなに大きな聖域作ったりするから。まあ今すぐに対処する必要はないさ」

『ご主人様。真実の愛の出番です』

「ドロシーさんは何を言い出すの!?」


 いつまでも時を止め続けるわけにはいかない。

 呪いを受けている本人に意見を求めることにした。

 アルフが一人で悩んでいても仕方がないことだ。


「セシル様は、どなたとの解呪を望みますか?」

「あの……魔導士様。もしや母は解呪を……いえ婚姻を拒んだのでしょうか」

「……!」


 押し黙っていたセシルは、亡くなった母親のことを考えていたらしい。

 アルフも腕を組んで可能性を考えてみる。


「おそらく真相に近いと思います」


 セシルの母を狙っていた者が、呪いをかけさせた。

 そして解呪のための婚姻を迫った。

 しかし拒んだために凍り付いて亡くなってしまった。

 その者は諦めきれずに悪魔の力で蘇生を目論んでいる。

 未亡人にするために、セシルの父親を狙って濡れ衣を着せた可能性も大きい。

 どれも考えられる筋書きだった。


「セシル様の探す黒幕は、炎の大精霊の加護持ちかもしれませんね」

「やっと近づけた気がします」

「卑劣な輩を見つけ出して、その罪を暴きましょう」

「私の事情にも巻き込んでしまいますが、どうか力をお貸しください」

「もちろんです」


 言い切ったアルフに、安堵したようにセシルが問いかける。


「責任を持って解呪してくださるのですよね」

「……それは……僕が解呪してもいいと……?」


 歯切れの悪い言葉に、セシルはコクリとうなずいた。


「魔導士様が責任をとって下さるのなら安心です」

「ん?」


 何か言葉に引っ掛かりを感じたが、次の話を続けることにした。

 まだまだやるべきことが多いからだ。


「ええっと、それで魔女様は僕に何を求めているのですか」

「まずはお礼を。冒険者くんのおかげで地の精霊は落ち着いてくれたよ」

「一安心ですね」

「うんうん。で、次に西域で困っているのが例のスライム集団でね」

「そうでした。魔女様はどうするおつもりですか?」

「難しいよねー。なんせ攻撃すると増えるのだから。でも弱点はわかった」


 言いながらニヤリと魔女は笑う。


「その弱点とは?」

「あのスライムは空腹に弱い。一定時間食物を摂取しないと溶けて自滅する」 

「閉じ込めておけば解決ですか?」

「いいや、互いに共食いするから閉じ込めても解決はしないよ」

「それではどうやって空腹にすると」

「お姉さんは思いついてしまった。そこで君の出番だよ! 眠りの魔導士くん!」

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