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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 後編
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第79話 解析

「副将! 魔獣が苦しみだして消えたと報告が」

「一体どうなっているんだ……!?」

「続報! 咬まれた者たちが元に戻り始めています」


 王城前は大混乱だった。

 突然王都に複数現れた魔獣のゾンビ。次々と上がってくる被害報告。

 なぜか聖魔法の使い手だけが今夜に限って出払っている絶望的な状況。


 このままではゾンビ化した者も討伐対象となってしまう。

 治療出来る者が来るのを待つか、これ以上被害が広がらないように討伐か。

 副将はギリギリの判断を迫られていた。


 そこにようやく希望の灯が見え始めた。


「聖魔法の使い手が見つかったのか!」

「各地方に向かっている司祭様を呼び戻すように早馬を送ったばかりです」


 軍の副将も務める宮廷魔導士団長が魔獣鎮圧の指揮にあたっていた。

 王城へと続く門は万一に備え閉じられ、近衛兵が城内を警護している。

 騎士団は将軍が率いて王都郊外への調査に出ていた。


「では一体誰が対処した」

「現在調査中です」

「咬まれていて傷が深い者を保護しろ! 動かせない場合は医療班から派遣を」

「はっ!」

「民の外出はまだ許可するな。安全が確保されてからだ」

「はっ!」


 その後は報告が上がる毎に状況が改善していく。

 副将がようやく安堵のため息を吐いた頃だった。

 

「おー! これはずいぶんと大きな聖域を張ったねー」


 声のする方向を見ると銀の魔女が空を見上げていた。

 同様に副将が空を見上げると薄っすらと虹色に輝く光の膜が見える。


「魔女様」

「兵士が街中を動き回って、ずいぶんと慌ただしいね」

「王都に魔獣のゾンビが複数現れたのです。ですが突然消えたと報告が」

「そりゃあ、この王都全体に広がる聖域の中じゃゾンビなんて存在出来ないさ」

「聖域ですと……!? もしや魔女様が助けて下さったのですか」

「無理無理。こんな広範囲の聖域は聖女の力を増加(ブースト)でもさせないと」


 聖魔法最高峰の使い手でもある聖女の力をさらに増加させて出来るような聖域。

 なぜそんなものが王都を覆っているのか。副将の頭に疑問が浮かぶ。


「魔女様でもないとすれば一体……」

「まあ一人だけ心当たりがあるかな」

「それは誰です!? まさか勇者様と旅立っている聖女様ですか!?」

「いや、副将がスカウトしていた冒険者くんだよ。覚えているだろ」

「……彼が!? いや、彼女も聖女様なのですか!?」

「うーん……彼(・)だと思うけどね……。聖女ではないはずだけど……」


 歯切れ悪く銀の魔女は答える。

 消滅結界を使えるだけの力があれば、聖域を作り出せる力を持つ気がした。

 だが正直な所、何者なのか魔女にも良くわからなかった。


「それが本当なら、救国の英雄だ! 何としても宮廷にスカウトしなければ」

「かなり嫌がっていたじゃないか。たぶん断ると思うよ?」

「こんな逸材を放置しては宰相や国王に叱られます! 褒賞も必要でしょう!」

「まあまあ。彼にはまだ頼みたいことがあるし……」 


 そんなやり取りをしていた時だった。

 噂の人物が王城前に現れる。その肩には黒猫をのせ、横には美女を伴って。


「おー! 噂をすれば。冒険者くん、もう隣国の仕事は終わったの?」

「優先順位が変更になってしまって実はまだです」

「精霊たちが大騒ぎしていたから王都に来たらこ(・)れ(・)だものね」


 そういってアルフを見たまま銀の魔女は空を指さす。

 アルフはコクリとうなずいてから、指をパチンと鳴らし防音結界を張る。


「もう大変でしたよ。でも現在進行形で大変でして」

「冒険者くんはいつも大変そうだね」

「あはは。ぜひ魔女様のお知恵をお借りしたいのですが」

「お姉さんも冒険者くんの力が借りたくてね。先ずは聞こうか」


 アルフが話し始めようとすると、防音結界内に魔導士団長が入ってきた。

 昼間のスカウトを思い出して自然と身体が怯む。


「冒険者殿! 君がこの聖域を張ってくれたのだろう!?」

「は? いや僕には何のことだか……」

「魔女様に聞いたよ。本当は聖女様なのでは!?」

「いっ!? いや聖女って? 僕は男ですし、通りすがりの冒険者ですよ」

「ぜひ我が国の魔導士団に入って欲しい! 国王陛下にも紹介しよう」

「それは……」


 何を聞いたのかわからないが、陛下との謁見なんてしたら非常に危険だ。

 どうしようかとアルフが思っていると、魔女が時を止めてくれた。


「話が進まないから、ひとまず時を止めておこうか」

「助かります。一体彼に何を吹き込んだのですか?」

「聖域を張ったのが君じゃないかと言ったら『救国の英雄だ!』って騒いでね」

「はあ……。勘弁して下さいよ」 

「冒険者くんが加減せずに、こんな広い聖域作るからだよ。何があったの?」


 アルフは魔女の家を出てからの経緯を説明し、セシルの呪いについて相談した。


■■■


「そんなことがあったとはね。で、処刑された聖女からの禁呪を受けたと」

「呪印は雪の結晶のようです。心臓が凍り付くと言っていました」

「セシルさんだっけ? 胸の呪印を確認してもいいかな」

「はい」

「冒険者くんは男なら後ろを向いて目を閉じて。女ならそのままでもいいよ」


 魔女に言われてアルフは後ろを向きキュッと目を閉じた。

 ドロシーは反対の肩に移動して、魔女とセシルの様子を見ている。


「やっぱり男なんだね」

「いつ僕が女だなんていいました!?」

「何で聖女でも難しい規模の聖域を作れるのか不思議でね」

「剣舞で神降ろしをしただけですよ」

「……だ(・)け(・)って。そりゃ精霊が大騒ぎするわけだ」

「この規模になったのは友人が演奏した笛の音のおかげです」

「そうは言うが、人の身で神降ろしなんかしたら寿命を削っただろ」

「えっ!?」


 魔女の言葉にセシルが驚きの声をあげた。

 まさか美しい剣舞で寿命を削っていたとは知らなかったからだ。


「些細な事です。それよりもセシル様を」

「まったく。お人好しなのも程々にしないと長生きできないよ」

『ニャア』 

 

 それに同意するようにドロシーがひと鳴きする。


「さて、どんな呪いなのか見てみようか」


 魔女は呪印を確認すると胸に手を当て魔力を流し出す。

 その刺激を受けてセシルの声が漏れだした。


「あ……んっ……」


 何だか聞いてはいけない声な気がしてアルフはそっと耳をふさぐ。


「……あっ……あっ……あの」

「少し我慢してね。呪いを解析するから」

「んっ……あ……はっ……あっ……あ!」


 しかし頭の中に声がこだまして、心臓がドキドキと脈打ってしまう。

 ふさいでいた手の甲にプニッとした肉球の感触を感じた。

 ドロシーからの合図を受けて、耳から手を離す。


「もう目を開けてもいいよ。だいたい解析できた。これは厄介だね」


 言われてアルフが目を開け振り返ると、セシルの顔が上気して真っ赤だ。

 胸を押さえてはぁはぁと荒い息を吐いている。

 本当にいろいろごめんなさいという気持ちでいっぱいだった。

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