第78話 知っちゃダメなこともある
突然胸を見せろと言われたセシルは両腕で包むように隠していた。
その行動は当然だろう。
お願いした手前、取り合えずドロシーに任せてみることにした。
『安心して下さいセシル様。私はいつも全裸です』
「あっ……え?」
「だから! それ、全然安心できないからね!?」
ドロシーの発言にアルフは頭を抱え、セシルは混乱している。
母親の仇を知った途端に、怒りをぶつける相手が亡くなってしまった。
その状況でのこれは、どういうことなのかと。
『安心して下さいセシル様。見せても膨らみが減ることはありません』
「あの……えっと」
『たしかに私は左右に四つずつ。全部で八つの胸があります』
「……あ……え?」
『ですが人はたいてい二つです。心配ありません』
「数の心配というか、恥ずかしいのですが」
混乱しながらも恥ずかしいと告げるセシル。
その発言も当然だった。
果たしてドロシーはどうするのか。
もう少しだけ見守ってみようと思ったアルフが間違っていた。
『安心して下さいセシル様。先日ご主人様も半裸をエルフの少女に……』
「待った! その話は僕の精神も削ってくるから! 本気でやめて!」
「魔導士様が半裸を少女に……? そのお話すごく気になるのですが」
「あああっ! 何でもないです! 気にしないでください」
これ以上ドロシーに任せて置いたら、大きな誤解を生みそうだった。
取り返しのつかない事態になる前にアルフが説明することにした。
「もう僕が説明するから! ドロシーはお口にチャック!」
『ニャア』
アルフは禁呪を受けていないかの確認であることをセシルに告げる。
もし心臓の近くに印が浮かんでいれば、呪いを受けていることになると。
指輪の点滅は止まっているが、禁呪の危険性を正直に伝える。
「それで、僕が直接胸を見て確認するわけにはいかないので」
「そ、そういうことですか。では着替えてお部屋で見てきます」
「ドロシー確認を頼むね」
『お任せください』
待っている間に、二人の死体を利用されないように魔法で石化させておく。
これは王家やベルジック公爵家にも説明の必要がある案件だ。
愛憎が複雑に絡み合っていて、本当は面倒で投げ出したい。
しかし事は、この国滅亡の危機につながっている。
この問題にどうかかわるべきか。
そんな考え事をしながら外で待っていると、ドロシーが戻ってきた。
『ご主人様。確認しました』
「うん。どうだった?」
『ありました。”F”です』
「ちっ、やはり禁呪を受けてしまったか。”F”ね。そんな刻印あったかな」
ドロシーの報告を受けて禁呪によって刻まれる印を思い浮かべる。
腕を組んで目を閉じ、必死に類似の刻印を探すが思い至る印がない。
「大きさはどう? 爪先ぐらい?」
『だいたいメロンほどの大きさです』
「えっ!? そんなに大きいの!? もしかして全身に広がっていくタイプかな」
『それぞれの大きさがメロンほどでした』
「二つも……これは僕の手に負えないな」
『ご主人様の片手では収まらないでしょう』
ひとつでもあれば大変なのに、二つも刻印がついたのならば解呪は困難だろう。
これは魔女様を頼るしかないとアルフは考える。
「参ったな。二つも同時に刻印が出るとは」
『いいえ、禁呪の刻印はひとつです』
「ん?」
『雪の結晶に見えました』
「んんっ? ドロシーさっきは”F”の刻印って言わなかった?」
『それは胸囲差から推測されるバストサイズです』
「……はいっ!? ま、待って! 何を報告していたの!?」
『もちろんセシル様のお胸についてです』
ダラダラとアルフの額から汗が噴き出す。
そんなことを報告させていたと知られたら、変態確定だ。
「ドロシー。僕が頼んだのは刻印についてだよ!」
『てっきり知りたいのかと』
「……知りたいけど、知っちゃダメなこともあるから!」
『分かりました。それと淡い水色です』
「……何が?」
『着替えた上下の……』
「待った!! 言わないで!! それ以上は言わないで!!」
『ニャア』
アルフが騒いでいると、着替えを終えたセシルがやってきた。
いろいろ知ってごめんなさいという気持ちでいっぱいだった。
「……あの、ごめんなさい。わざとじゃなくて……」
「分かっています。魔導士様を責める気はありません」
そうだった。
サイズのことや下着の色について気にしている場合ではない。
セシルの沈んだ顔を見てズキリとアルフの胸も痛む。
「気づけなくて申し訳ありません。僕の落ち度です」
「お母様も同じ呪いを受けていたと……私も死ぬのでしょうか」
「きっと解呪法があるはずです。僕が責任を持って絶対に解呪します」
「わかりました。魔導士様を信じます」
刻印が雪の結晶ならば、凍り付く呪いだ。
確か心臓が凍りついて死ぬと言い残していた。
しかし指輪が反応をしていないので、すぐに死ぬことはないだろう。
指輪に注ぎ込んだ魔力が、呪いの一部を打ち消したことは間違いない。
――ヒュ!
『お城に銀の魔女がいるよ』
風が通り抜けてそんな声が聞こえた。
とてもいいタイミングだった。
「セシル様、王城に行きましょう」
「ですがベルジック公爵家が兵権を……」
「大丈夫です。騎士団や魔法士団は裏切っていません。まともに機能しています」
「そうなのですか?」
「昼間、冒険者として試験を受けて直接確認してきました」
「試験とは?」
「その辺りは向こうで話しましょうか。魔法転移するので僕につかまって」
「はい」
言いながらアルフは額に手を当て目を閉じ、王城の入り口をイメージした。




