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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 後編
81/275

第81話 諜報部期待の新人

 魔女にピシっと指さされながら指名を受けたアルフは肩をすくめる。

 結局のところ何かさせられるらしい。


「先に言っておきますが、西域全体に消滅結界は無理ですよ」

「それが出来れば話は早かったね。色々考えたけど活動を停止させてみよう」

「……あの数を眠らせろと?」

「その通り! 長時間眠らせておけば自滅していくはずだ」

「いくら得意とは言え、魔力が持たないです」


 微小のスライムなら一万匹ほどを同時に眠らせることが可能ではあった。

 しかし魔力を回復させながらやっても百回以上繰り返すことになる。

 百万匹を超える数を相手にするのは無理があった。


「まあそうだよね。ちなみに天候魔法は使えるかな」

「一通りは」

「本当に優秀だね! 雨ならどれくらい降らせ続ける自信がある?」

「条件が揃えば一晩くらいなら……全力で試したことはないです」

「うん。それだけの魔力量があるなら充分だ。解決の目途が立ったよ」


 目途が立ったと言うならそれは喜ばしいことだ。

 何をさせられるのかはわからないが。


「討伐予定日は二日後だったよね」

「選抜された冒険者にはそう伝えられています」

「まだ猶予があるから準備をしておこう」

「僕に何かできることはありますか?」

「体調や魔力を万全にして討伐日に来ることかな」

「あはは……」


 体調を万全にしておくのは案外難しい要求だなとアルフは思う。

 すでに疲労感で一杯なのに、やりたいと思うことが多すぎて終わらない。

 思わず現実逃避気味に空を見上げてしまう。

 そこへ遠慮がちに声をかけられた。


「魔導士様。何をお話しされていたのですか……?」

「マクシムも言っていた、国を滅ぼす可能性を持つスライム討伐についてです」

「我が国は本当に魔物によって滅亡の危機にあると!?」

「何もしなければ、いや、何かしようと攻撃したら加速度的に滅びますね」

「そんな……!」


 王都が救われたというのに、まだ終わっていない悪夢にセシルは青ざめた。

 その表情を見て、ウインクしながら魔女が告げる。


「心配しなくていいよ。眠りの魔導士くんが救ってくれるから」

「救っていただけるのですか?」

「そう簡単に魔物や悪魔の手には渡しません。何とかしますよ」

「ほらね。頼りになる彼氏でよかったね」

「はい! とっても頼りになる方です」


 ここは彼氏ではないと魔女の言葉を訂正すべきなのだろうか。

 でも指摘するほうが藪蛇になるから、気づかなかったことにしよう。

 そう結論を出したアルフは話題を変えることにした。


「ところで僕もセシル様に聞きたいことがあるのですが」

「何でしょう」

「諜報員だということをベルジック公爵家の方々は知っているのですよね?」

「そうですね。秘密事項ですが公爵家は諜報活動に関わっていますから」

「なるほど。では少しだけ僕のお芝居に付き合っていただけますか」

「お芝居ですか?」

「今から魔導士団長と話しますから、話を合わせてもらえると助かります」

「構いませんよ」


 スカウトから逃げ続けていては話が進まないので、一芝居打つことにした。

 セシルに了承してもらえたことを確認して、アルフは魔女に視線を移す。

 

「魔女様。そろそろ仕事に戻りますので時間を元に」


 パンっと手を叩く音が響き、周囲の時が動き出した。

 再び魔導士団長が熱くスカウトしてくる。


「君ほどの才能を放置できない! 魔導士団に入ってもらえないだろうか!」


 その耳元に内緒話をするようにアルフは告げる。


「申し訳ありません。冒険者は仮の姿で、実は諜報部に所属する者なのです」

「何だって?」

「今は彼女と共に調査中です」


 言いながらセシルを見ると、うなずいてくれた。

 顔見知りのようで魔導士団長も納得してくれたようだ。


「そうか……すでに所属があったのか。それでは無理に引き抜けないな」

「急ぎ報告したいことがあります。事はベルジック公爵家にも関わることです」

「なんと! では城内の執務室で報告を聞こう。ついてきたまえ」


 部下に指示を出し、城門を開けて足早に魔導士団長が城内に入っていった。

 魔女がひらひらと手を振っていたので一礼してから、二人は後を追った。


■■■


 副将の執務室にて、アルフは簡潔に分かっていることを報告していく。


 ベルジック公爵家の三男マクシムが国を裏切って悪魔に関わっていたこと。

 処刑された元聖女ローズがゾンビ魔獣の発生に関わっていたこと。

 地下牢に囚われている修道院長や聖魔法の使い手が王都にいない理由。

 そしてマクシムとローズはすでに悪魔に魂を渡し、死亡していること。


 すべて副将にとっては衝撃的な内容だった。

 報告を聞いてしばし沈黙が続いた。


「まさか弟が……それで首謀者は分かっているのか!?」

「現在、調査中です」

「このことは父や兄に伝えても?」

「部外者への情報漏洩は困りますが、管理出来るのであればお伝えください」

「よくここまで詳細に調べてくれた。引き続き調査を頼む」

「御意」


 本物の諜報員のような報告に、同席していたセシルは内心驚いていた。

 簡潔に要点を述べる報告の仕方からも頭の良さが伺えた。

 呪いについて触れていなかったのは、まだ不明瞭な点が多いからだろう。

 思わず尊敬の眼差しで見つめているセシルに、魔導士団長が話しかける。


「良い人材だねセシル。諜報部が羨ましいよ」

「はい。我が諜報部期待の新人ですから」

「君! 諜報活動が嫌になったらいつでも魔導士団に歓迎するからね」

「私のパートナーですよ。引き抜きは厳禁です!」

「これは失敬」


 諜報部期待の新人でセシルのパートナーという設定になったらしい。

 頬が緩みそうになるのを我慢しながら注意点を伝える。


「冒険者として調査中なので、しばらくはそのように接して下さい」

「うむ。冒険者としての君の活躍にも期待しておこう」


 どうやらうまくいったようでアルフは安心する。

 これでしつこく宮廷魔導士団に勧誘されることもないだろう。


「地下牢に囚われている修道院長を出す許可を頂きたいのですが」

「牢番への指示書を書こう」


 副将はその場で素早く書類を書き、サインを入れてアルフに手渡した。


「これを見せれば牢から出せるはずだ。そちらは頼んでもいいかな」

「お任せを」


 そのまま執務机で書類を書き始めた。

 どうやら報告書を作成しているらしい。

 二人は一礼してから退出し、足早に城の地下牢を目指した。

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