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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 後編
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第77話 禁呪

 さてこの後はどう動こうかとアルフが考えていた時。

 大きな泣き声が響いてきた。


「ぎゃああああああっ……! おぎゃああああっ……!」

「うおっ! 寝かせておいた娘が起きたみたいだ! 行ってくる」


 抱っこしていないなと思っていたら寝かせていたらしい。

 泣き声のする方へと、全力で走っていくレオンを見送る。


 ほかの人たちは起きているだろうか。

 周囲の状況を探ろうとして、探知魔法を使うが上手くいかなかった。

 そういえばまだ魔封じの宝珠を壊していなかったと気づいた。

 マクシムを見ると、地面に手をついて今にも倒れ込みそうだ。


「ふふ……そう……死ぬのね。だったら……」


 死を悟ったローズが、マクシムに注意を向けているアルフに手を伸ばす。

 指先から黒い(かすみ)が放たれた。

 聖域の効果に抗うように動いていたが、やがて薄っすらと姿を作り出す。

 大鎌を持った煙のような死神が静かに迫っていく。


「……!?」


 大鎌が振り下ろされる瞬間だった。

 死神の姿を見たセシルが走り、アルフをかばうように立って両手を広げる。

 右肩から袈裟懸けに斬られて身代わりの指輪が強く光った。

 セシルに痛みはなかったが、黒い煙を吸い込み咳きこんでしまう。


「ゴホッ! ゴホッ! ゴホッ……」

「な……」


 振り返り異変に気づいたアルフが慌てて死神を手刀で斬り払う。

 セシルの指にはめられていた身代わりの指輪が激しく点滅している。

 胸に手を当て咳きこむセシルの肩を支えながら、ドロシーに指示を出す。


「まずい! ドロシーお願い! マクシムから魔封じの宝珠を奪って」

『ニャア』


 アルフの足元にいたドロシーは素早く走り出す。

 追い払おうとするマクシムの腕を避けながら懐を爪で切り裂く。

 破れた内ポケットから宝珠が転がった。

 それを猫パンチでアルフの元へと投げ飛ばす。


――ヒュッ!

――ガシャッ!


 飛んで来た宝珠を手刀で斬り壊し、魔法の発動を解放する。

 パチリと指を鳴らし、急いでセシルに眠りの魔法をかける。

 咳が寝息へと切り替わるが指輪の点滅は続いていた。

 

 倒れた身体を抱きかかえて支え、寝かせるようにしゃがみ込む。

 手を包み込みながら握りしめてそのまま指輪に魔力を補充していく。


「……くっ」


 だが王都全体に聖域を広げたため、剣に相当の魔力を流して消耗していた。

 指輪から激しく失われていく魔力を補い続け、頭痛の症状が出始めた。


『ご主人様! 手を放してください』

「そんなこと出来ないよ」

『ですがこのままでは倒れてしまいます』

「心配しないで。今回は事前に準備してきたから」


 言いながら収納空間を開き水薬(ポーション)を取り出して飲み干す。

 回復した魔力を注ぎ込み、ようやく指輪の点滅が止まった。


「焦ったぁ」

「……魔導士様」


 抱き抱えていたセシルがパチリと目を覚ます。その頬が赤い。


「大丈夫ですか? いや、熱でもあるのでは……」


 いくらアルフが予備のフードを渡したとは言え、シスター服は切り裂かれている。

 防寒の点でいえば心もとない。

 眠りの魔法で回復させたはずだが、何か病になったのではと心配する。


「熱は……」


 熱い頬に手を当てようとして強く握られていることに気づく。

 その手を意識してますますセシルの顔が赤くなっていく。


「大丈夫です……あの……手を」

「あ! すみません」


 セシルの視線で慌てて手を離す。聖域作りの疲労が強く残っているらしい。

 色々と気が回っていないなとアルフは反省する。


『ご主人様。あれは呪いの類でした』

「しかも聖域で姿を保つなんて、かなり強力なやつだね」


 手刀で斬り払ったのは黒い死神の姿だった。

 それは命を奪うような呪いであることを意味する。

 もしもセシルが呪いを受けていたら大ごとだ。

 焦る気持ちを深呼吸して落ち着かせ、セシルに確認する。


「さっきの死神から、何かされていませんか」

「大鎌で斬られましたが痛みはありませんでした」

「斬られた……!? まさか僕をかばって!?」

「心配ありません。少し煙を吸って咳きこんだだけですから」


 眠っていたセシルは心配ないというが、それは危険な状況だった。

 指輪があれほど点滅していたのだから相当に強力な呪いだ。

 気づけなかった不甲斐なさにアルフは唇を噛みしめる。


「お願いですから無茶しないで! 御身を大切にして下さい」

「また言われてしまいましたね」

『ご主人様もですからね』


 二人がゆっくりと立ち上がると、静かな笑い声が聞こえてきた。

 横たわるローズの口元がニヤリと歪んでいる。


「ふ……ふふふ……いい気味……」

「貴女の仕業ですか」

「呪い……あの女と同じように……死ぬといいわ」

 

 聞き捨てならないその言葉にセシルが強く反応する。


「まさか!? 病ではなくあなたが私の母を殺したの……!?」

「ふ……そうよ……禁呪で……呪ってやった……」

「よくも母を……!」


 ()()とローズは口にした。

 通常の魔法であれば身代わりの指輪で防げるが、禁呪となれば話は別だった。

 アルフの背に嫌な汗が流れる。

 攻撃を受けたセシルには呪いがかかっている可能性が高いから。


「道連れにするつもり……だったけど……あの女の娘でも……悪くないわね」

「どんな呪いをかけた」

「……ふ……いずれ……心臓が……氷ついて……死ぬ……」

「解呪の方法は!?」

「ふふ……あの女は……愚かにも……出来なかった……」


 すでにその目は見えていないようだった。

 ここにはない何かを見つめている。

 

「ああ……愛しい…………さ……ま」


 言葉にならない誰かの名を告げて、ローズの首がポトリと落ちた。


「なんてこと」

「なんてことだ」


 セシルとアルフは同時に同じ言葉を使った。

 セシルは母親の仇を知って。アルフは解呪方法を知ることが出来なくて。

 

「ドロシー! セシル様の胸元を確認して。心臓のあたり」

『かしこまりました』


 呪いを受けているのか確認する必要がある。

 さすがに心臓付近に呪いの刻印がないか胸を見せてくれとは言えない。

 変態と平手打ちをくらいたくないのでドロシーに依頼する。


『セシル様、胸を見せて下さい』

「え?」

『ご主人様からの依頼です』

「ええっ!?」

「ちょ、ドロシー! 誤解を受ける言い方はやめて!?」


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