第69話 吹き込んだ風
教会に戻ると、レオンが眠っている者たちの様子を見回していた。
バラバラの箇所に眠っていたのを一か所に集めてくれたようだ。
寝違えたりしないように姿勢が整えられている。
「おっ、戻ってきたな。みんな眠ったまま起きないが大丈夫なのか?」
「心身が回復したら正気に戻って目覚めますよ」
「スーリオンまでおかしくなって焦ったぞ! あんな武器に対処出来るかっての!」
「それは僕の落ち度です。危険な目に合わせてしまいすみませんでした」
アルフはレオンに対して素直に頭を下げる。
魔法防御効果を付加したことで油断していた。
黒い塊を口にした事で悪魔の力が加わり、内側から防御を破られたようだ。
「いや魔導士が悪いとは思っていないが、一体どうなっているんだ」
「悪魔の力と魅了の禁術を使って他者を操る者がいるのです」
「悪魔崇拝者だったか。何でこの場所が分かった」
「それはこの女の子も関係しているのですが……」
アルフはパチンと指を鳴らし防音結界を張って話し始めた。
これまでの出来事をレオンやセシルにかいつまんで説明していく。
その内容にレオンは呆れた顔を見せて頭をかく。
「精霊まで助けていたってのか? 相変わらず英雄しているな」
「魔導士です」
「それで探していたエルフの子は見つかったが、今度はこっちが狙われたと」
「死者まで操るなんて危険な力ですね」
弔う予定だった同僚を操られてしまったセシルは、悲しそうに顔を伏せる。
「その黒い塊とやらを口にすると悪魔の力が宿るのか?」
「詳しいことを調べに行こうと思っていたのですが……先手を打たれました」
「どこに調べに行く予定だったんだ?」
「海洋王国ヴェルヌです」
「マジかよ!? 向こうでも何かやっているのか」
これからどうすべきだろうかとアルフは腕を組んで頭を悩ます。
襲ってきたのは元々孤児院にいた子どもたちで、誘拐された子たちは帰宅していた。
教会関係者も利用されただけだろう。
だが居場所が知られたセシルやエルフの子が教会にいるのは危険だ。
「ここにいては危険なので、場所を変えたほうがいいですね」
「自宅に戻るべきでしょうか」
セシルを帰宅させて大丈夫だろうかとアルフは不安になる。
レオンも同様に考えたようだ。
「いや? それは危険じゃないか? 貴族様の家は王宮に近いだろうし」
「僕もそう思います」
「ではどこかに宿でも」
「よし! 俺の家に招待しよう。隣国なら簡単には突き止められないだろ」
レオンの提案にアルフも納得する。
「スーリオンや女の子も眠ったままだし、一緒にいた方が安心じゃないか?」
「では目覚めるまで、もう一度ヴェルヌに連れて行きましょうか」
「私までご迷惑ではありませんか?」
「心配するな。それなりに大きな屋敷に住んでいるさ」
「わかりました。それでは父やマドレーネ修道院長に伝えてから……」
行先を伝えてから移動しようとするセシルをアルフは止める。
「それは待って下さい」
「え?」
「他者を操る者がいる状況では、近しい人であっても疑ったほうがいい」
「ですが二人とも私のことを心配してくれています。そんな不義理なことは……」
そんな話をしていた時、部屋の扉が開き老齢の女性が入ってきた。
外から吹き込んだ風がアルフの顔周りのフードを揺らした。
「まあ! これは一体どうしたことでしょう」
「マドレーネ修道院長」
「セシル。なぜみなさん床で寝ているのかしら?」
マドレーネ修道院長が驚いたように床を見回している。
その様子をアルフは注意深く観察していく。そして気が付いた。
「きっと無理やり働かされて疲れているのでしょう」
「これは魔導士様。おかしいですわね。そんなにお勤めが大変だったのかしら」
「貴女が指示した仕事ですよ」
「お夕食作りが大変だとおっしゃるの?」
「夕食作りも大変でしょう。しかし人を害するのはもっと大仕事ですから」
アルフはみんなをその背に守るようにして、修道院長と対峙する。
いつもの優しい口調とは違う、挑発するような言葉にセシルが疑問を口にした。
「魔導士様。何を言って……?」
「おっしゃっている意味が分かりませんわ。私が何をしたと言うのです」
「説明が必要ですか?」
「ぜひ、お願いします」
そういってマドレーネ修道院長が手を組み穏やかにほほ笑む。
自分には何もやましいことが無いと態度で示すように。
「では伺いますが、服のすそについている粉末は何ですか」
「……ああ、この黒い汚れですか? 外出時に土でもついたのでしょう」
「いいえ、それは炭の粉末ですよ。炊事もしていないのに変ですよね」
「たまたまどこかで」
「黒色火薬の粉末がたまたまどこで付着したと?」
「…………何のことだか私には」
「子どもに火を持たせ、部屋ごと爆発させる仕事を任せましたよね」
その言葉にセシルとレオンが驚く。
「え!?」
「何だって!?」
「子どもには火遊び、シスターたちには刃物を振り回す指示。ひどい仕事です」
「言いがかりですわ。なぜ私がそんなことをすると」
「それは貴女が悪魔崇拝者だからです」




