↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 後編
68/275

第68話 本当の魅了

 弾き飛ばしたナイフを拾い収納空間に入れておく。

 護身用に渡したのだが逆に利用された形になってしまい反省する。

 パチンと指を鳴らし、防音結界を張ってから話し始める。


「っと、お話を伺う前にやることがありますね」


 アルフはセシルの左手を両手で包み込むように握りしめて目を閉じる。

 突然の行動にセシルの頬が再び赤く染まる。


「え?」


 心臓がドキドキして胸が苦しくなってくる。

 走っていた時とは違う苦しさだった。

 手を意識するほど鼓動が早まり、思わずセシルは右手で胸をおさえた。


「これで大丈夫です」

「あの……何を?」

「身代わりの指輪からだいぶ魔力が失われていましたよ」

「あ、再び魔力を宿してくださったのですか?」

 

 アルフはゆっくりとうなずいて、深いため息を吐いた。


「身に着けておいてくれて良かった」

「ありがとうございます。何度も指輪に命を救われました」

「この消耗……誰かのために身を投げ出しませんでしたか?」


 その言葉にセシルが苦笑いを浮かべたのを見て、再びため息を吐く。


「以前にも言いましたが、もう少し御身を大切にして下さい」

「魔導士様にそれを言われてしまうなんて」

『もっと言ってください。セシル様』

「ちょ、ドロシーさん!? 僕の味方じゃないの!?」

『ニャア』

「また、そのごまかし方! どこで覚えたの!?」


 何度目になるかわからないため息を吐いて、アルフは状況を聞いていく。


「夕方までは教会内で普通に過ごしていたのです」

「日が暮れて突然襲われたのですか?」

「最初にスーリオンからペンダントを手に取って見せて欲しいとお願いされました」


 スーリオンには一度、魔石を見せている。

 同胞を連れ去った者が身に着けていたと証言していたから確認のために見せた。

 通信機能があることまでは伝えていない。 


「魔石の通信機能について話しましたか」

「いいえ。ただ魔導士様も身に着けていたから気になったと言われて」


 セシルは服の上にペンダントを身に着けていた。

 手に取ってまで見たいというのは不自然だとアルフは考えた。

 通信機能を知っていて、連絡を取って欲しくなかった者の指示だろう。


「それで僕を呼べなかったわけですね」

「渡した途端にナイフで攻撃され……指輪のおかげで助かりました」


 眠っているスーリオンの服を探すと、ポケットの中にペンダントはあった。

 回収してセシルへと手渡そうとするとドロシーに注意される。


『ご主人様。きちんとつけてあげて下さい』

「え? 何で」

『首輪は所有を示す大切なものです』

「いやいやいや……!? 何を言い出すの!? これは首輪じゃないからね!?」

『ご主人様も大切に身につけています』 

「誤解だから! セシル様も何か言ってくださいよ」

「……所有」

「だから! 変な誤解はやめてね!? そもそも人の場合は指輪で意思を……あ」


 アルフは額から変な汗が出てきたのを感じていた。

 この話題はまずいのではと。


「……指輪」

 

 セシルは指先にある身代わりの指輪を見つめていた。

 ドロシーの発言に慌てすぎて、自ら墓穴を掘ってしまった。

 落ち着こう。 

 なぜ突然ドロシーがそんなことを言い出したのか考えてアルフは結論を出す。

 

「もしかしてドロシーさんは首輪が欲しいとか」

『……別に。そんなものなくてもご主人様のドロシーです』


 珍しくそっぽを向いたドロシーの気持ちを察してアルフは苦笑する。

 

「落ち着いたら贈らせていただきます」

『本当ですか?』

「ドロシーだって女の子だものね」

『ニャア』


 これで首輪問題は解決したと思いセシルを見ると髪をかき上げていた。

 白い肌のうなじが見えて、軽い眩暈がしてくる。


「えっと……」

「お願いします。魔導士様」


 セシルのペンダントはチェーンに魔石が付いているタイプだ。

 この状況では自分でつけて下さいとは言い出せなかった。

 近づくと首筋から甘い香りが鼻をくすぐる。

 何を試されているのかと自問しながら背後に回り首につけてあげた。


「これでいいですか」

「ありがとうございます」


 少し照れた笑顔がとっても可愛らしい。

 これが本当の魅了というものではないのかとアルフは思った。

 そのまま抱きしめたくなる衝動を抑えて、雑念を払うように思考する。

 

「ええと話がそれましたが、教会の方たちも同じタイミングであんな感じに?」

「夕食の準備中に言動がおかしくなったように感じました」

「夕食前に何か口にしていませんでしたか」

「……お菓子をみんなで食べています」


 黒い塊を口にした機会としてそのお菓子はかなり怪しい。


「セシル様も口にしましたか?」

「いいえ。私とレオンさんは食べていませんでした」

「なぜ?」

「お菓子を口にする機会が少ない子に、たくさん食べさせてあげたくて」


 食べなかった理由がいい人すぎて本当に天使みたいだった。

 

「誰が用意したものでしょうか」

「教会や孤児院へ裕福な方が贈って下さったと、修道院長のマドレーネ様が」

「修道院長はどちらに?」

「全員にお菓子を配った後で、用事があるからと出かけたままでした」


 確かに襲ってきた人たちの中に姿はなかった。

 これは修道院長の仕業なのか、彼女も操られていたのか確認する必要がある。

 

「一度教会に戻りましょうか」

「はい。あの、レオンさんたちは……」

「ご心配なく。セシル様のおかげで無事ですよ」


 アルフは眠ったままのスーリオンを抱き上げて、セシルと一緒に教会へと転移した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。