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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 後編
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第67話 性格悪いよ

「就寝時間にはまだ早いと思うけど、ずいぶんと静かだね」

『ニャア』

 

 教会の入り口へと転移したアルフは、ゆっくりと中へ入っていく。

 いつもなら誰かがいるのだが姿が見当たらない。

 そのまま奥に位置している孤児院へと向かう。

 扉を開けて室内へと入った所で、背後に気配を感じ振り向く。


――――ヒュッ!


『ニャア!』

「なっ!?」


 突然、包丁を持ったシスターに襲い掛かられ、アルフは首に手刀を当て気絶させる。

 

「何だっ!?」


 さらに別の部屋からも手に刃物を持ったシスターが二人現れた。


「いつからこの教会はお化け屋敷に変わったの!?」

『ご主人様。この者たちは操られています』

「またか! 人を操って攻撃とか性格悪いよ!」


 背中の女の子をしっかりと背負いなおしてから、聖属性の光弾を用意する。

 瘴気を発しているシスターの身体へ次々と当てると、口から黒い塊が吐き出された。

 周囲に散る前に塊を素早く剣で切り刻む。

 倒れたシスターたちには眠りの魔法をかけておく。


「ドロシー! みんなは無事!?」

『セシル様がゾンビとスーリオンに追われています』

「ええっ!? どこっ!?」

『外です。人通りを避けて、路地裏に』

「一体どうなっているのか不明だけど、先にここを何とかしないと」


 言ってる間に今度はわらわらと室内に子どもたちが入ってきた。

 焦点の合わない目でアルフを捕まえようとしてくる。


「ああもう! 子どもを利用するとか最低だ!」


 近づいてきた子どもの首筋に手刀を当てて気を失わせていく。

 その中の一人が火を手にしていた。

 アルフが注意して周囲を見ると、床に爆薬が仕込まれていた。


「うわ!? 室内で火遊び禁止!」


 パチンと指を鳴らし、水魔法を発動し床一面を濡らす。

 落ちた炎がその水に触れジュッと音を立てて消えていく。


『ご主人様を殺すように命令されていますね』

「ここで爆発したら、僕が無事でもみんなが死ぬよ!」 


 再び聖属性の光弾を用いて口から黒い塊を吐き出させ、眠らせていく。

 ようやく攻撃してくる者がいなくなったので額に手を当て気配を探る。


「隣室の床下に誰かいるな」


 床のカーペットをめくると扉があった。

 取っ手をつかみ持ち上げると、中で人影が動いた。

 さっと魔法で指先に光を灯す。


「レオン!」

「やっと来てくれたか魔導士」


 そこにいたのはカレンを腕に抱いたレオンだった。

 

「一体何があったのですか!?」 

「説明の前にセシル嬢を助けてやってくれ! 俺たちを守っておとりになった」

「わかりました。この子を頼みます」

「ああ」


 背負っていたエルフの女の子をレオンに預けてアルフは外へと飛び出す。

 そのまま上空へ浮かび周辺を探ると、雷撃が見えたので急いでそちらへ向かう。



■■■


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 セシルは走り疲れて息が上がっていた。

 身代わりの指輪のおかげで死んではいないが、何度も風魔法で切られていた。

 着ていた服は刻まれてボロボロになっている。


「はぁ……一体どうして……目を覚まして! スーリオン!」


 狙われていることが分かったセシルは、周囲を巻き込まないように逃げ続けていた。

 それでも通りにいた何人かが風刃の犠牲になるところだった。

 セシルが身をていしてかばっていなかったら死者が出ていた。

 少しでも人がいない方向へ向かって走り続ける。


――ザシュッ!


 再びその身に風刃が当たって服が刻まれ、指輪が光る。

 そんなことが何度も繰り返されている。

 死んではいないがどうすることもできない。

 ナイフを握り雷撃を放っても魔法防御効果でスーリオンにはじかれてしまう。

 一時的な足止めにしかならない。


――――アアアアアアアアッ……


 スーリオンだけではなく、同僚の亡骸までもがゾンビとなってセシルに襲い掛かる。

 声にならないうめきとともに生前の動きを見せる同僚たち。

 その姿にセシルの目から涙がこぼれてしまう。


「一体どうしたら助けられるの……誰か……」


 再びスーリオンが虚ろな目でナイフを振るった。

 鋭い風の刃が飛んでくる。


――ザシュッ!

――ザシュッ!


 しかし今度はその刃で服が切られることはなかった。

 同じ威力で風の刃を相殺した者がいたからだ。

 黒いローブが風になびく。


「魔導士様!」

「遅くなってすみません!」

「スーリオンが……」

「ええ。操られていますね」


 アルフはセシルを背にかばい剣を構えた。

 ナイフを握って走ってきたスーリオンの一撃を受け止める。


――キンッ!


 甲高い音を立て、手元から離れるようにナイフを弾き飛ばす。

 防御効果が切れたところで聖属性の光弾を当てて黒い塊を吐き出させた。


「ごめんね」


 謝りながらアルフは眠りの魔法をかける。

 さらにゾンビとなってしまった者たちに向かって腕を振る。

 輝く光が亡者の身体を包み込み、浄化されていく。

 聖魔法の浄化により一瞬だけ生前の姿を見せ、セシルに謝るようにして消えていった。


「怪我は……」


 浄化を見届けてから、セシルの方へ振り向いたアルフは慌てて視線をそらした。

 セシルの着ていたシスター服が刻まれて下着や肌が見えていたからだ。


「あ」


 落ち着いて自分の姿を確認したセシルは両手で抱くように身体を隠した。

 互いに恥ずかしさで顔が赤くなる。

 アルフは収納空間からローブを取り出し、見ないようにしてセシルへ手渡す。


「僕ので申し訳ないですが使ってください」

「あ、ありがとうございます」


 手渡されたローブを羽織ったセシルがスーリオンへと近づいて様子を見ている。


「僕がいない間に、一体何があったのですか?」

 

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