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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 前編
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第56話 悪魔崇拝者

「おい! そこの黒髪! こっちを向け」


 高貴さを勘違いした貴族に特有の、横暴な口ぶりだなと思いながらアルフが振り返る。

 そこには青色のローブに身を包んだ茶髪の青年が立っていた。

 残念ながら折角の美しいローブが似合っていない。


(カラス)みたいな真っ黒い髪だから誰かと思えば、落ちこぼれのアルフか!」

「貴方は……誰だったかな」

「……ッ! この私を覚えていないのか!」

「失礼。どこかでお目にかかっていますか」

「ゴーズィ伯爵の息子、ジャン・ド・ゴーズィだ! 貴族の幼年学校で会っているだろ!」

「ん? ゴーズィ伯爵と言うと南西地方の領主様か」

「本当に覚えていないのか!?」


 フルネームで自己紹介されて、アルフは幼少期の記憶をたどる。そう言えばいたような気がする。

 いつもアルフの黒目や黒髪に難癖をつけて何かと敵視してくる茶髪の同級生が。

 北西部の領地を治める辺境伯の息子であるアルフと、周囲から比較されていた事が理由らしい。

 正直な所、印象が薄くてあまり顔は覚えていない。


「……あー! 思い出したよ。元気?」

「相変わらずふざけた奴だ。まあ覚えていないのも無理はないか」

「ごめんね。忘れてた」

「フン。エリートの集う我がベルジック王国の魔法学校には進学出来なかった無能だものな!」

 

 ジャンは馬鹿にしたように鼻で笑う。

 通常ベルジック王国の貴族は幼年学校で一般教養を学んだ後、順次高度な学問を学んでいく。

 家庭教師を頼んで自宅学習する者もいれば、学校へ通う者もいる。

 中でも王国の魔法学校は魔法使いを養成する国内最高峰の学校だ。

 入学には筆記と魔法の試験があり、魔法使いの素養が認められなければ試験資格すら無い。


「そりゃあ魔法使いではない僕には入れないからね」


 嘘はついていない。

 周囲が魔法学校に進学する年齢の頃には、アルフはすでに魔女に認められた魔道士だった。


「黒目黒髪のくせに魔法が使えないなんて王国の恥さらしが!」

「上級貴族でも魔法使いじゃない人もいるし、そんな言い方をしなくたっていいだろ」

「無能は何かの役に立っているのか? 最近は毎日のように朝帰りで遊び歩いているらしいな」

「あはは。次から次へと()()()()が多すぎて眠る暇もないよ」

「脳天気で呆れるな。私はすでに王宮の宮廷魔道士見習いとして、規則正しく働いている」


 言いながらジャンはベルジック王国の宮廷魔道士が付けることを許されたブローチを見せてくる。

 魔法学校を優秀な成績で卒業し、魔女に認められれば魔道士として宮廷に推薦される。

 見習いということは、そこそこの成績で卒業したのだろう。


「それは凄いね! 僕には出来ない生き方だよ! お仕事頑張って」

「言われなくても、西方領土に発生したスライム討伐に志願している」

「ちなみにジャンは精霊が見えたりするの?」

「精霊だと? はははは! おいおい、まだそんなものを信じているのか」


 瘴気をまとう精霊について心当たりがないか聞こうとしたら、まさかの存在否定だった。


「え?」

「学んでいないから知らないだろうが、今時その精霊理論は古い。時代遅れの考えだ」

「ええっ!?」

「無知だな。精霊がどうとか言っている奴は魔女や昔からいる魔道士くらいだ」


 幼年学校の後でラッセル帝国に留学したアルフは、精霊が信じられていない事実を知って驚く。

 だったらこの世界中にあふれている粒子や精神体は一体何だと言うのだろう。

 精霊と良い関係を築いている魔女を軽視するのも違和感がある。


「助けてくれる精霊がいないなら、どうやって魔法の威力を上げているのさ?」

「使えもしないのに気になるのか? 神様やそれと等しい力を持つ悪魔様が力を与えてくれる」

「神様や……悪魔様だって!?」

「そうだ。皆、悪魔様を誤解しているんだ。適切な生け贄さえ捧げれば力を貸してくれる」


 とんでもないことを言い出したのでアルフは絶句した。

 精霊の力を神様の力だと思っているならまだ分かる。しかし悪魔の力は、全くの別物だ。

 魔女や昔からの魔道士の言葉を信じずに、悪魔に力を与えて貰う方法が浸透しているらしい。

 これはすでに宮廷の中にまで悪魔崇拝者が存在していると言うことだろう。

 一体どこまで思想に染まっているのだろうか。やり口が狡猾だ。


「生け贄って……人の命?」

「だから誤解しているんだ。心配ない、魔獣や魔物の命でも力が得られる」

「ジャンも力を与えてもらったの?」

「詳しく知りたければ悪魔様崇拝の集会に出れば良い。王国での開催は先月で終わったが」

「へー。それって他国でも開催されているのかな」

「今夜ヴェルヌ王国で開催される。今からじゃ間に合わないな! あはははは!」


 優越感から意地悪く顔を歪めて笑い出すジャンに、アルフはニコリと微笑む。


「いろいろ教えてくれてありがとう」

「無能君に少しでも知識を与えてあげられて良かった。有能な私には仕事があるので失礼する」


 最後まで嫌みたっぷりに門を通り抜けていくジャンの後ろ姿に、ドロシーがべっと舌を出す。

 途端に何もないところでジャンがスッ転び、立ち上がると突風で目に砂が入ったらしい。


「あいつ……精霊に嫌われたな」

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