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眠りの魔道士  作者: 春野雪兎
通りすがりの冒険者 前編
57/275

第57話 ドロシーの誘拐?

 普段は王国騎士団員専用となっている屋内訓練場に、剣士の風貌をした者が集まっている。

 城下には大規模な屋外訓練場もあり、弓や馬術の鍛錬が行われているらしい。

 大型の武器を使うものはそちらで試験を受け、ここには剣を使う者のみが集められている。


「次! 二百二十番」

「はい!」


 騎士団員に呼ばれ青年が木刀を持ち、前に出る。

 相手に突撃していき、間合いに入ると頭上に大きく振りかぶる。

 隙だらけだ―――。

 アルフが思った時、青年は素早く横薙ぎに横腹を払われ床に転がった。


「不合格」

「次! 二百二十一番」

「おう」


 大きな男が前に出る。今度はゆっくりと間合いを詰めていく。

 戦い慣れているのだろう、相手を観察しているようだ。

 近接し袈裟懸けに右肩を狙っていくが木刀は軽々と受け止められた。

 そのまま上に払われ、男の手から木刀が飛んでいく。


「くそっ!」

「不合格」

「次! 二百二十二番」 

「はい」


 ようやくアルフの番となった。持っている武器は預けて今は木刀を握っている。

 スライム討伐の受付を城門前で済ませ、城内での選抜試験を受けている所だ。


「ん? 君は魔道士団の試験を受けた方がいいのではないか」


 アルフの黒いローブ姿を見て試験中の騎士団副団長が指摘する。


「この後で受けますので問題ありません」

「そうか。何にでも手を出すと大成しないぞ! さあ、来い」


 アルフは少し腰を落とし、居合い斬りの要領で木刀を振るい再び元の位置に戻す。


―――バキッ!


 目に見えないほどの早さで振るわれた木刀からの風圧は、副団長の持つ木刀を叩き壊した。

 握っていた部分から上が無くなっている。これが、首にでも当たっていれば即死だ。

 真剣であれば胴が真っ二つでもおかしくない。


「……ご、合格」


 アルフは一礼して待機場所に戻り、木刀を返して預けていた剣を腰に付けた。


「今の見えたか……?」

「あいつ副団長の木刀を壊したぞ!?」

「本当は魔法を使っていたんだろ」

「いや、この訓練場には魔法を封じる結界があるらしい」

「だったら本当に!?」


 試験を待っていた者や、終わって様子を眺めていた者、騎士団員達からもどよめきが起こる。

 合格を言い渡されたアルフに、受付の団員が声をかける。


「強いですね! 貴方のような方が参加してくれるなら心強いですよ」

「たまたま調子が良かっただけです」

「合格者には後ほど詳しいお知らせがありますので、応接間でお待ちください」

「わかりました」

「宮廷魔道士団の試験はどうします? もう受ける必要はありませんが」

「折角なので受けてみます」

「それでは反対側の棟へお回りください。すぐに分かると思います」


 案内を受けてその通りに進むと見せかけて、廊下を別方向に曲がる。

 上階へ向かうための階段前では近衛兵が警備していた。

 王族が住まう部屋や、大臣などの執務部屋がある上のエリアは更に警備が厳しいだろう。

 迂闊に近寄れば捕縛されてしまう。

 しかし瘴気をまとう精霊が上階へ行くのを感じ取ってしまった。


「参ったな」


 気配察知や転移の魔法を使おうとしたが、発動しなかった。

 どうやら周囲には侵入者対策で魔法を封じる結界があるらしい。国の要なのだから警備も厳しい。

 おそらく近衛騎士は魔法対策もしているだろう。となれば眠らせる手も使えない。


『ニャア』

「そうか……ドロシーなら! いや、やっぱり不自然かな?」


 猫が王宮内を歩いているのは自然だろうか、不自然だろうか。

 そんなことをアルフが自問していると声をかけられた。


「どうしました?」

「……いや、猫を……って、ローラ!? 何でここに!?」


 アルフが振り向くと紅い瞳に赤い髪、幼なじみのローラが立っていた。

 驚いて思わず名前を口にしてしまう。


「無礼者! 殿下に向かって失礼だぞ」

「え?」

「おやめなさい!」


 アルフから守るように近衛騎士が前に出て剣を向けてきたが、それを女性が言葉で制する。


「私はフローラ・ド・ラ・ベルジェです。どなたかと勘違いなされているのでは?」


 国名が名前に入ると言うことは王族であることを意味する。

 アルフはその場で片膝を突き、頭を下げて敬意を示す。

 姿だけではなく名前まで似ていて何とも紛らわしい。


「失礼いたしました。幼なじみに似ていたので。無礼をお許し下さい」

「許します。どうぞお立ちになって。ここで何をしていらしたの?」

「魔道士団の討伐隊を選ぶ試験場に向かう途中で、道に迷っていたのです」

「そうでしたか。慣れない者には複雑な作りですものね」

「それでは……」


 何とか誤魔化せたが、疑われる前に退散しようとしたアルフを再び呼び止める。


「お待ちを。私も貴方が捜し人に似ていたので声をかけたのです」

「捜し人ですか? 殿下が探されるとはどのような御方でしょうか」

「眠りの魔道士様ですわ。ご存じありませんか?」


 眠りの魔道士というならば自分の事を示しているのだろうか。

 しかし探されている理由が分からないので、首を横に振り告げないことにする。


「噂ぐらいならば耳にしていますが」

「そうですか……。その猫さんは貴方の飼い猫かしら?」

「はい。ドロシーといいます」

『ニャア』

「まあ! 可愛らしい。それに何だか懐かしい鳴き声。撫でてみても?」

『ニャア』


 アルフがドロシーを見ると許可するように鳴き声を出したので、撫でさせて上げることにした。

 足元にいたドロシーをそっと抱き上げてフローラに手渡す。


「もちろんどうぞ」

「殿下! 危険では?」

「こんな可愛い猫さんに何の危険があるというの? 貴方は猫の爪にも勝てないのかしら」

「いえ! ご無礼を」


 護衛していた騎士が止めようとするが、ピシリと黙らせてしまった。

 ローラみたいな言い方でちょっと怖いなとアルフは内心思った。


「フワフワの毛並でなんて可愛いのかしら。そうだわ! 貴方これから試験を受けるのでしょう?」

「はい」

「では終わるまで私がこの子を預かってあげるわ」

「はい?」

「決まりね! 終わったらお部屋に来てちょうだい」


 疑問の声を肯定と受け取ったフローラはキュッとドロシーを抱きかかえる。


『ニャア』

「でも勝手に上階に上がるわけには……!」

「これを見せてフローラの部屋と言えば案内されるはずよ」


 そう言ってアルフに付けていた髪留めを手渡す。

 そのまま有無を言わさずフローラ殿下はドロシーを連れて上階へ去っていった。

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