第49話 通りすがりの買い物
今度はこの国の王都にある道具屋を目指して馬を走らせているらしい。
腰にしがみついているスーリオンが先ほど見た大金を思い出しながら話しかける。
「魔道士様って王様とか王子様なの?」
「いいや。どこにでもいる通りすがりの魔道士だよ」
「絶対いないよ!? あんな大金初めて見たもの。特級冒険者って何なの?」
「あー冒険者って貢献度に応じていくつかランクが有るんだけど、それの一番上の級かな」
「何だか分かんないけど凄いって事?」
「あはは。村や町を襲うドラゴンとか魔物の群れを退治すると簡単になれるからそんなに凄くないよ」
「凄いよ!? 魔道士様ってドラゴンを倒したの!?」
スーリオンは驚きすぎて手を離しそうになり、慌てて強く掴まる。
アルフは少しだけ馬の速度を落とした。
例え落ちても浮遊させられるのだが、落とされる恐怖を味わうのは嫌だろうと思ったからだ。
「昔ね。群れでラッセル帝国の人々を襲っていたから倒した事があるよ」
「しかもドラゴンの群れ!?」
「僕は眠らせただけだけどね。その中でもボスみたいな奴はあと千年くらいは眠ると思うよ」
「封印したってこと!? もしかして勇者様なの!?」
「違う違う。僕は通りすがりの魔道士だって言っただろ。さて、到着だ」
アルフは同じように馬を降り、今度は様々な商品が飾られている高級店に入って行く。
道具屋と聞いていたのでスーリオンは小さな古びた店を想像していたのだが、全然違った。
そこは大通りにあるお店で、店先にはお香が焚かれ店内に近づくと気分が良くなってくる。
スーリオンはキョロキョロしながら、品を落として壊してしまわないように慎重に店の中を歩いていた。
「いらっしゃいませ、お客様。何かお探しですか?」
「こんにちは。魔力回復の水薬はありますか」
「何種類かご用意がありますが、どういった物をお求めですか」
「最高品質の物をあるだけ欲しいのですが」
「お持ちしますので椅子にお掛けになり、少々お待ちください」
そう言って執事のような服で片眼鏡をかけた店員が奥へ下がり、綺麗な瓶に入った商品を運んでくる。
周囲では貴族やその使用人が買い物をしており、それぞれ店員がついて丁寧に対応していた。
「こちらが納品されたばかりの水薬です。苦情が多かった味も改良されております」
「それは良い! 一本試してみたいのですがいくらですか」
「最高品質ですので、おひとつ金貨二十枚で在庫は五本となります」
「ではこれを一本飲ませて下さい。気に入ったら全て買いますので」
そう言ってアルフは収納空間から白金貨を取り出してテーブルへと置く。
そんなやり取りを見ていたスーリオンはあまりの高額な金額に冷や汗が流れていた。
「どうぞお試し下さい」
店員に許可を貰い、瓶を開封して薄い青色をした液体をその場で飲んでいく。
全て飲み干すと身体が温かくなり全身に魔力が満ちていくのが分かった。
溢れ出た魔力でフードが浮き上がる程だったので、慌てて内部に力を抑えこむ。
「これは素晴らしい品ですね。全て買わせていただきます」
「有り難うございます。お包みいたしますか」
「自分で使用するのでこのままで構いません」
「他にご入り用の品はございますか?」
「そうですね……身代わりの指輪は扱っていますか」
「先日大量に購入されたお客様がいらっしゃいまして、入荷したばかりの新デザインのものが一点ございます。どうぞ、こちらです。魔導具ですのでサイズ調整は自動伸縮となります」
店員が見せてくれたのは澄んだ海色の希少石が中央にあり、サイドストーンが散らされている指輪だった。
その希少石の色とセシル嬢の瞳の色が重なったアルフは一目で気に入る。
「こちらも購入します。ギフト用にお願いします」
「かしこまりました。他にはございますか」
「武器も扱っているようなので、お勧めの剣やナイフがあれば見せて下さい。飾りではなく実戦用で」
アルフの依頼に店員は再び陳列品ではなく奥の部屋から数本をワゴンに載せて持って来る。
「こちらはいかがでしょうか? 武勇で名高いラッセル帝国から取り寄せた、名匠の品でございます」
「手に取っても?」
「どうぞ」
アルフは久しぶりに目にした帝国でよく見るデザインの長剣を手に取り、鞘から引き抜き刃を見る。
確かに切れ味の良さを感じさせる名品だった。剣とデザイン揃いのナイフも刃と銘を見て納得して戻す。
「この剣とナイフも購入します。こちらの長剣には帯剣ベルトを。そのまま付けていきます」
「ご購入ありがとうございます。お会計は合わせて金貨四百二十枚となります」
「それではこちらを」
「丁度のお支払いですね。ありがとうございます」
白金貨と金貨で支払いを済ませ、購入したばかりの長剣を帯剣ベルトで腰に吊り、残りの水薬と指輪とナイフは収納空間へと入れておく。ようやく準備万端となったアルフは今度は港へと馬を走らせた。
「魔道士様……僕、目眩がしてきた」
「やっぱりまだ身体が辛いかな? 少し店で休むかい」
そう言って指さした店はまたしても高級店だったので、スーリオンは大きく首を横に振った。庶民には敷居が高すぎて落ち着けそうには無い。
「ううん。身体は大丈夫。多分、価値観が違いすぎて頭がビックリしているんだと思う」
「ああ、異国だから森とは空気感とか違うのかもね。もうすぐ帰れるからね」
「何かそう言うことじゃ無い気がするのだけど……」
金銭感覚の違いが伝わらず、再び目眩を感じるスーリオンだった。
『ニャアァァ!』
「……ドロシーさん、怖いです」




