第48話 特級冒険者
知りたかった情報をおおよそ聞くことが出来た。だったら次は行動に移す番だろう。
「僕は仕事の準備があるから外に出てくるけど、スーリオンはどうする?」
「外に行って見たい! でも魔道士様について行ってもいいの?」
「問題ないよ。でも身体が疲れたらすぐに言ってね」
「うん」
「じゃあ、まずは着替えかな。クローゼットに用意してあるから準備できたら教えてね」
アルフはスーリオンのために船内や朝市に出ていた店を周り、服やローブを揃えていた。
しばしいつもの『美女名鑑』を眺めながら待っていると、スーリオンがやって来た。
念のため頭や顔を覆うローブにしてある。
現地で購入したので街に出ても馴染むだろう。
「これでいいのかな?」
「ばっちりだよ! それじゃあ行こうか」
宿の受付に出かけてくる旨を伝えて、馬車止めの小屋へと向かう。
管理人が餌やブラッシングをしてくれたようで、馬たちの元気も戻っていた。
さすがに街中を転移して歩く訳には行かないので馬で移動することにする。
「馬には乗れるかな?」
「乗ったことない」
「じゃあ僕の後ろに乗って、落ちないように掴まっていてね」
アルフは一番元気そうな一頭の馬を選び、その背に乗るとスーリオンに手を差し伸べて引き上げる。
軽く脇を蹴り街中を走らせていく。
「どこに行くの」
「そうだな。まずは冒険者ギルドで資金調達かな。段取り八分の仕事二分って言うからね」
「それってどういう意味?」
「仕事に取りかかる下準備が完全にできていれば、仕事の八割は終わったようなものって意味さ」
魔道士のアルフが一番力を発揮するために必要なものは、もちろん魔力だ。
けれども連日の大魔法で回復が間に合っていない。
ゆっくり眠るのが一番の回復なのだが今はその時間が惜しかった。
手っ取り早い回復は水薬を飲むこと。
質が上がるほど高価で売られる本数も少ないが都合の良いことに、ここは海洋王国ヴェルヌだ。加工貿易を得意としているこの国では錬金術師も多い。
資金さえ有れば水薬を手に入れることが出来るだろう。
「ここが冒険者が集うギルドだよ。本部はラッセル帝国っていう国にあるんだけど、各国にも支部があるんだ」
「……ラッセルって、確か……ララノアの……」
「そう。スーリオンが耳にしたのはラッセル帝国の事だと思う」
「その国はどこにあるの!?」
「ここからだと海を北上して、船で二日はかかる距離にある」
「この国よりもさらに遠い場所なんだ」
「まあ、船で行く場合はだけどね」
言いながらアルフは馬から降り、手を貸してあげながらスーリオンを降ろしてあげる。
そのままギルドの扉を開けて中に入り、買い取りの表示があるカウンターへと向かう。
眼鏡をかけた青い髪の受付嬢が形式通りの挨拶をしてくる。
「ようこそ。こちらは買い取りカウンターになります。ギルド証はお持ちですか」
「確認を」
そう言って収納空間から、黒いタグを取り出して受付嬢へ提示する。
「え!?」
「どうかしましたか?」
「あ、失礼いたしました。お名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「通りすがりの魔道士、です」
「……ふざけている訳ではありませんよね」
「もちろんです。いつもそう名乗っていますから」
「少々お待ちください。別の担当者を呼んで参ります」
タグの真偽を確認した受付嬢は、一度足早にいなくなった。
しばし待っていると先ほどよりもベテランに見える受付嬢がやって来た。
さっきよりも美人だな、などと思いながらアルフは眺める。
こちらも青い髪で落ち着いた笑顔を見せている。
「お待たせいたしました。本日はどのようなご用件でしょうか」
「A級魔石の買い取りをお願いしたいのですが。いくつくらい買い取ってもらえますか?」
「当ギルドではA級ですと五個までが当日換金となります。それ以上の場合は翌日以降となります」
「それでは五個お願いします」
そう言ってアルフは収納空間からゴロゴロと頭の大きさ程の魔石を取り出し、カウンターテーブルへと並べていく。
その様子に受付嬢の口元が引きつっていくが、アルフは見ない振りをした。
遠目に見ていた別の冒険者たちもカウンターに並んだ魔石の大きさと数に、時が止まったように静まりかえっている。
これにも気付かない振りをする。
「……確認いたします。奥の部屋へご案内しますので、そちらでお待ちください」
「この子も一緒でいいですか?」
「お連れ様もご一緒にどうぞ」
そうして案内された部屋で、出された紅茶を飲みながら待っていると白金貨五枚を盆にのせて受付嬢と大柄な男の人がやって来た。
「確認が出来ましたので、こちらをどうぞ」
「お手数ですが一枚は金貨百枚に両替して頂けませんか? 手数料を取っても構いませんので」
「承ります。手数料はサービスさせて頂きます。こちらが金貨百枚になりますのでご確認をどうぞ」
そう言って袋に入った金貨を渡される。アルフは重さだけ確認すると、お金を収納空間に入れて席を立つ。
「信用しますよ。それでは」
「あ、あのお待ちください」
「何か?」
「ギルドマスターがご挨拶したいと」
どうやら受付嬢と一緒に入ってきた男がこの支部のギルドマスターらしい。
「ギルドマスターのシャークです。特級冒険者様に我が支部にお越し頂き歓迎いたします。そして滅多に手に入らないA級の魔石をお持ち頂き感謝いたします。あの魔石でどれほど街が活性化することか」
「喜んでいただけて幸いです。有効にお役立て下さい。それでは」
「是非、またお越し下さい!」
二人に深々と頭を下げられたアルフは軽く手を振り、スーリオンを連れて馬へと戻った。
『ニャア』
「……ごめん。買い物が終わったら迎えに行くからね」




