第47話 三人の行方
自分の辛い経験を話すのも嫌だろうが、仲間意識の強いエルフにとっては同族の辛い経験を話すのも心に負担をかけるだろう。
ましてや相手は子どもだ。しかし聞いておく必要があった。
「助けが遅くなって本当にごめん。エルフ族の女の子三人は行方不明のままなんだ。何か思い出せることがあれば教えて欲しい」
「三人とも僕より先に捕まっていて……毎日殴られたり、鞭で打たれたり、斬られたり、火で……」
そこでスーリオンが吐きそうになったので少し休憩を挟み、再度落ち着いた所で話を聞く。
「気を失うとお爺さんが魔法で回復させて、それの繰り返し。最初にララノアが耐えられなくなって発狂したんだ……そうしたら、光る場所に立たされて姿が消えていった」
精神的に魔力の上がりが限界となったので転移方陣でどこかに移動させたのだろう。
「その時、何か言っていなかった? もしくは光る場所を作っている時とかに」
「よく分からないけどラッセルって何回か言っていた気がする」
「……ラッセルか……それで後の二人は?」
「それからすぐにメルロスは言葉が出なくなって叫ばなくなった。そしたら時々僕らの様子を見に来る二人がいたんだけど、その内の一人が連れて行った」
「連れて行った人物について、何か思い出せることはある?」
「魔道士様みたいにローブを着ていて……鞭で叩かれているときにはペンダントが見えた」
その言葉にアルフは胸元のペンダントを取り出してスーリオンに見せる。
「もしかしてこんな宝石がついていなかった?」
「これ……あいつらの仲間なの!? 僕を騙したの!?」
突然声を荒げるスーリオンに誤解だと伝える。
屋敷に潜入していた諜報部の者ではないなら、思い当たる人物は一人だ。
セシル嬢を殺そうとしたあの男。ベルジック公爵家の三男マクシム。
「いや仲間なんかじゃない。そいつは国の裏切り者で酷いゴミだから僕は掃除したいと思っている」
「掃除」
「もし協力してくれるなら、森に帰る前に一度ベルジェ王国の王都に寄ってもいいかな? メルロスはまだ王都にいるかもしれない」
「僕に出来る事なら手伝う」
「ありがとう。それでナルルはどこに行ったか分かる?」
その質問にスーリオンは首を振る。
「分からない。ナルルとは励まし合っていたけど、僕が気を失っている間にいなくなったから」
「そっか……生きていてくれることを願うよ」
だいぶ辛そうだったので、落ち着けるハーブティーを入れて休憩を挟むことにした。
■■■
情報を整理してベルジェ王国で頻発していた拉致誘拐事件を振り返ってみる。
最初の悪魔召喚をして、悪魔憑依の器になったのは奴隷商人と一緒にエルフの森にいた自称魔道士の男だ。
バルバラムは力を与える代わりに心を壊したと言っていた。
その召喚時点ではエルフ族は捕まっていなくて、六名の人の子が召喚の犠牲になった。
つまり悪魔を迎え入れるだけの魔力の器があれば、召喚者に憑依させることも出来るのだろう。
そして悪魔バルバラムの力を使って四人のエルフ族の子が捕まった。
これがララノア、メルロス、ナルルそしてスーリオン。
追加のエレンとカレン二人の拉致は阻止して、バルバラムは消滅させた。
ブルド子爵の屋敷地下から救い出した子どもは六名。
そこにセシル嬢を加えることでルフラウスは悪魔召喚をしようとしていた。
このときは召喚者にではなく、セシル嬢を憑依の器とするために。
悪魔を憑依させたセシル譲と一緒にいるつもりだったのだろう。
(何が賢者だ! あの変態爺さん!)
「ちっ。セシル様に悪魔を憑依させて不老不死の願いを叶えようとするとか、消滅させて正解だったな」
セシル譲とルフラウスが一緒にいる姿を想像して、思わずアルフは本音が漏れる。
実はアルフも器として狙われていたのだが、その事実を指摘出来る者はいなかった。
突然雰囲気の変わった魔道士に驚いてスーリオンが問いかけた。
「あの……魔道士様?」
「ん? ああ、ごめんね。ちょっと不愉快な考え事をしていたんだ」
「いま、悪魔って……」
「君たちエルフ族が捕まった理由。そして痛めつけられていた理由。それは悪魔を召喚して肉体が完成するまで憑依させておくためだ」
「悪魔を憑依!? そんなことをされたらどうなるの!?」
悪魔というだけでも恐ろしい存在なのに、それを憑依させられると聞いてスーリオンは顔を青ざめさせる。
「その悪魔の性格にもよるだろうけど、肉体が完成したら憑依者から抜け出て喰らったり、そのまま同化して心身を乗っ取ったりする。まれだけど、死者に悪魔が憑依すると動き出すから死者蘇生に見えてそれを神格化して悪魔崇拝者が生まれたりもする」
「……死者蘇生。そんなことが出来たら確かに神様みたい」
「多分、スーリオンはこの死者蘇生の憑依者に使われようとしていたんだと思う」
「えっ!? 死者……」
ベルジェ王国の王都にあるブルド子爵邸からメルヴィル港まで普通の馬車なら二時間はかかる距離。
そこからさらに船旅で八時間以上。
そして下船して三時間以上が経過したが、ゴーレム入りの樽は本来なら一度もその蓋を開けられていないことになる。
これだけの時間を樽の中で放置されれば子どもの体力では途中で死んでしまうだろう。
そして苦しむことで魔力は上がるという。
つまり死ぬ直前まで最大限に苦しめたスーリオンなら、より悪魔召喚の憑依者にふさわしくなると言うことだ。
こんな事を考えた者は、もはや人間とは思えないほどの非情さだ。
悪魔を召喚されるだけでも厄介なのに、それを推進しようとする悪魔崇拝者が世界に増える事も危険なことだった。一体誰が何の目的でそんなことを企んでいるのか。
「もちろん知ったからには僕がそんな企みは眠らせるけどね」
そしてエルフ族の三人の女の子も早く見つけ出す必要がある。
生きていても、死んでいても悪魔召喚に関わっているはずだ。
最悪の場合、三体の悪魔が召喚される。
『大変です。ご主人様』
「あれドロシーどうしたの?見張りは」
『私の出番がありません』
「……ごめん」




